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【童門冬二・小説 決断の時―歴史に学ぶ―】末端まで及んだ徳 大崎家の怪力女性2020年4月28日

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【童門冬二(歴史作家)】

末端まで及んだ徳 大崎家の怪力女性


 戦国時代の武士の主人に対する忠誠心の中には、多分に"任侠心"が含まれている。豊臣秀吉の忠臣だった福島正則は、その面で代表的な人物だ。そのため、正則の家臣の多くにも気風が受け継がれていた。大崎長行はその一人だ。家臣に対する思いやりが深く、自分の利益よりも常に家臣たちの利益を優先していた。使用人の一人に力の強い女性がいた。台所の用事以外にも、力仕事で必要な時は自分からどんどん前に出て来て手伝った。主人の大崎はこの怪力女性を重く扱い、男女の区別をしなかった。そして。この女性に"力(りき)"という名を付けていた。
 大崎の主人福島正則が、幕府の掟に背いたというので改易(取り潰しあるいは縮小)された。多くの家臣が職を失った。しかしこの時、家老だった大崎や、福島家の親族に当たる重臣たちは、
 「自分の事よりも、まず家臣たちの再就職を考えよう」
と相談して、必死に走り回った。正則の徳行は有名だったので、
 「福島家の家臣なら、喜んでうちで迎えよう」と、各大名たちが競って失職した福島家の家臣を抱えた。
大崎はそういう状況を喜びながら見守っていた。自分の事は考えなかった。そして自分の家臣たちにも十分な退職金を与え、
「機会があったらまた会おう」と別れを告げた。最後に残ったのが怪力女の力だった。二人だけになると、力はある日庭の大石に近づき主人の大崎に言った。
 「ご主人、この石の下には私が今まで多くのお客様から頂いたお金が入っております。お使いください」
大崎には何のことかわからない。ただ、訪ねる客に時折、力がその大石を持ち上げてびっくりさせたのだ。喜んだ客が、
 「力さん、これをお小遣いにしなさい」
と励ましの金を置いて行くことがあった。


◆怪力女性の心意気

 力は、使わずにそれを全部石の下に埋めていたのである。それを全部大崎に差し出すというのだ。大崎は胸を熱くした。首を横に振った。
 「おまえの気持ちは本当に有難い。潰れた主家を見捨てずに、最後までよく尽くしてくれた。気持ちだけ貰うよ。その金はお前が実家に戻るのに用立てた方がいい」
 そういう大崎に力は何も言わなかった。力も胸を熱くしていた。そういう主人だからこそ、力は大崎のためと思って、長年自分が貰った小遣いの金を貯めこんでいたのである。力は力を振って大石を持ち上げ脇に置いた。下の穴から箱を取り出し、そこに入っている金を全部縁側に並べた。そしてもう一度同じことを告げた。大崎は受け取らない。
 実をいえば、福島家の家臣たちはほとんどが、主人正則の徳を受け継いでいるので、群がる大名たちによって、ほとんど再就職先が決まっていた。大崎は福島家の親族と相談して、全家臣の名を名簿にして、
 「うちにも抱えさせてくれ」
と申し込む大名たちに、その名簿を配っていた。大崎は自分の事を構わずに、
 「この名簿に書いた福島家家臣団が、全部再就職できるまではおれは自分のことは考えない。見守る」
と心を決めていた。だから毎日、
 「今日は、誰がどの大名に雇われたか」
と言うことを見極めることに喜びを感じ、見守って来たのだ。力はそういう大崎を凝視していた。力は力で、
(ご自分の事は全く考えずに、家臣の皆様の事だけの心配をしていらっしゃる)
と、大崎を見ながらそっと涙を流していた。しかし反面では、
(そんなことばかりしておられると、ご自身が再就職できる機会を失ってしまう。任されて来た家計のお金も、今はもうほとんどなくなっている)
と心配し続けてきた。大崎は無頓着で。徳の塊のような人物だから、力がそう話しても、
 「そうか、おまえには心配かけるな。なんとかするよ」
と笑いながら応じて、今まで何とかしてきた。しかし力はそれが、大崎が昵懇な人の所へ行って借金したことを知っている。借りたお金は返さなければならない。そのためにも、力は最後の時になって、自分が貯めてきたへそくりを大崎に使ってもらいたかったのである。しかし大崎は笑って受け取らない。力はついにこう言った。
 「殿様(力は大崎をそう呼んでいた)、こうしましょう」
 「どうするのだ?」
 「このお金を二つに分けます。一つをお受け取り下さい。それならいいでしょう」
 「......」
 大崎は呆れて力を凝視していた。ぽつんとこう言った。
 「おまえには何もしてやれなかったのに実に変わった女だな」
 「殿様には、生きる喜びを与えていただきましたよ。こんなに働くことが楽しかった家は、このお家が初めてです」
 かなり、あちこちの家を渡り歩いた経験のある力は率直にそう告げた。力の熱意に負けた大崎はついに、
「わかった。この半分の金はおれが預かろう」と言った。この言葉を聞いて力は安心して半分の金を残し、では、と別れを告げて去って行った。

 

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童門冬二(歴史作家)のコラム【小説 決断の時―歴史に学ぶ―】

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