痛んだ傷は負の遺産【小松泰信・地方の眼力】2020年8月26日
レジ袋の有料化を契機に、マイバッグを持って買い物に行く人が増えている。ところが、商品を持ち去るための「隠し場所」になりやすいため、NPO法人全国万引犯罪防止機構は、「マイバッグは精算が済んでから」「店内では折りたたんでおく」などと呼びかけている(東京新聞8月24日付夕刊)。まさに、「李下に冠を整(ただ)さず」「瓜田に履を納(い)れず」の教えである。
憲法をないがしろする政治への決別
平気で李下に冠を整しまくり、ズカズカと瓜田に履を納れまくっているのが、安倍晋三首相。この人が、8月24日に連続在職日数で佐藤栄作(2798日)を抜いて歴代1位となった。すでに第1次政権と合わせた通算在職日数では、戦前の桂太郎(2886日)を抜きトップの記録を塗り替えている。今回の記録更新で、長さだけは前人未到の最長政権となった。
しかし、世間の空気は慶祝ムードにほど遠い。それはコロナ禍のせいばかりではない。
「憲法を尊重してますか」という見出しの社説で、現行憲法をないがしろにする安倍首相の政治姿勢をその理由にあげるのは東京新聞(8月23日付)。
最たるものとして、一内閣の判断に基づく憲法解釈の変更による「集団的自衛権の行使」容認をあげている。加えて、「敵基地攻撃能力の保有」にまで踏み込もうとする姿勢に危機感を滲ませている。
さらに、憲法53条に定めるところの、臨時国会の召集要求に対してだんまりを決込む態度を取り上げ、「首相の健康状態は気掛かりですが、だからといって、国会を開かなくていいわけではありません」とする。
これらから、「次の選挙は、憲法を大切にする政治への転機としなければなりません。一気に変わらなくても、選挙結果によっては政治に緊張感が生まれます。当たり前のことですが、それこそが長期政権の行き着く先を目の当たりにした私たち有権者が、胸に刻むべき教訓です」と、訴える。
見当たらぬ政治的遺産
高知新聞(8月24日付)の社説は、「前人未到の域に入ったわけだが、長さに見合うだけの実績はあるのか。この点は問われ続けている」として、実績を検証する。
2012年12月の第2次内閣発足とともに始まった景気拡大は、2018年10月までの71カ月で終わったことから、「政権が誇示した『戦後最長景気』ではなかったことが判明している」とする。
さらに、「消費税率を10%に引き上げた昨年10月は景気後退期。それまでの景気拡大期に2度、税率アップを先送りした揚げ句、後退期に増税した。その判断は妥当だったのか」と、問う。
安倍氏ご自慢の外交についても、「ロシアとの北方領土返還交渉」「北朝鮮による日本人拉致問題」、ともに具体的な進展は見えてこないことを嘆く。
前述の「集団的自衛権」問題の違憲性にも言及し、「政治的遺産として胸を張れるものは現状では見当たらない」と手厳しい。
コロナ関連施策における、大多数の国民の意識との「ずれ」を指摘し、それが「長期政権ゆえの緩みやおごり」「1強政権のゆがみ」に由来することを示唆する。
そして、「最優先で求められるのはコロナ対策に全力を挙げること」として、「感染抑止と経済再生をどう両立させるのか。速やかに国会を開いて説明を尽くすとともに、国民の意見に耳を傾けなければならない」と、耳の痛い話をする。
JAグループは安倍農政とどこまで戦ったのか
さて安倍農政に目を転ずれば、日本農業新聞(8月24日付)の論説が、この間の農政の特徴を「政策会議を先兵に新自由主義的な改革を官邸主導で推し進めたことである。それは、現場軽視、熟慮なしで、責任の所在があいまいな政策決定をもたらした」と、総括する。その反省に立ち、「持続可能性を軸に現場主義の農政に国民の力で転換しなければならない」とする。
JAグループを揺るがし、多くの後遺症をもたらした農協改革については、同紙の組合長アンケートでは、その見方をほとんどの組合長が否定したにもかかわらず、「JAの自由な経営を阻んでいる」として、中央会制度を短期間で廃止させたことを淡々と記す。
「内閣支持率の低下と反比例するかのように与党の発言力が強まり、農政に変化の兆しが見られる」として、与党の発言力の強まりに希望を見出している。
この軌道修正を確実にするためには、「農業者と消費者らとの連帯が不可欠」とする。「地球温暖化や格差拡大、新型コロナウイルス禍など国民的課題」を踏まえ、「持続可能性」をその結集軸に位置付ける。
「持続可能性」「現場主義の農政」「農業者と消費者との連帯」、これらに異論はない。しかし、先述した「国民の力での転換」や、唐突に出てくる「官邸主導を支えたのは『安倍1強』政治で、それを許したのは国民である」との見解には、違和感を禁じ得ない。当コラムも含め、「国民」に責任がないとは言わない。しかしその前に、JAグループの農政に対する姿勢、特定政党との関わり方や国政選挙における政治的行動、それらに何の問題もなかったのか。『安倍1強』政治に加担しなかったのか。国民が、連帯したくなる農業者であり協同組合だったのか、それを問うべきではないか。その総括をしないJAグループの機関紙が、国民に対して農政転換の力を求めたり、「安倍1強」政治を許した責任を問うても、離れる国民はいても、理解を示す国民はいない。
本当に罪深き安倍政治
神戸新聞(8月25日付)において中島岳志氏(東京工業大教授・近代思想史)は、特定秘密保護法(2013年成立)、「共謀罪」法(2017年成立)によって、安倍内閣が、権力が個人の内面に介入する法律を整えたことを見逃してはならない、と警鐘を鳴らす。
これらの法律に似たものとして、戦前・戦中の我が国に存在した「軍機保護法」を取り上げる。これが「自主規制」を生む。
「国民は、見せしめ逮捕によって権力を忖度(そんたく)し、自らの言論や行動を制限」し、「......勝手に自主規制するようになる。隣組のような具体的な相互監視システムが起動しはじめ、同調圧力が強化される」とのこと。
この「忖度」を安倍内閣の最大のキーワードとし、現下のコロナ禍においても、「自粛警察という同調圧力が社会現象として加速している」ことを指摘する。すでに現れた負の遺産か。
そして「安倍内閣がこの国に刻んだ傷は大きい。この傷を丁寧に治癒しなければ、大きな禍根を残すことになるだろう」とする。
JAグループには、信頼できない政治にしなだれかからず、安倍農政で痛んだ傷を丁寧に治す覚悟が求められている。
「地方の眼力」なめんなよ
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