ヘイゾウの挑発と労働者協同組合【小松泰信・地方の眼力】2020年11月4日
「正規雇用というものはですね、ほとんど首を切れないんですよ。首を切れない社員なんて雇えないですよ普通。それで非正規というのをだんだんだんだん増やしていかざるを得なかったわけですよ」と、まくし立てるのは、人材派遣会社パソナ会長竹中平蔵(たけなか・へいぞう)氏。(10月30日深夜放送のテレビ朝日「朝まで生テレビ!」にて)
なるほど、「いつでも首をお切りください」という荷札を付けて、生身の派遣社員を送り込んでおられるわけだ。
彼のもう一つの顔は東洋大学教授。教え子も同様にして企業に送り出しているのだろう。
経済を回すために? 違うね。自分の首を切られないために、ハケンとガクセイの首を差し出しているだけだ。
労働者協同組合法案の目的
「この法律は、各人が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就労する機会が必ずしも十分に確保されていない現状等を踏まえ、組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、及び組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織に関し、設立、管理その他必要な事項を定めること等により、多様な就労の機会を創出することを促進するとともに、当該組織を通じて地域における多様な需要に応じた事業が行われることを促進し、もって持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とする」と、第一条でその目的を宣明するのは、労働者協同組合法案。
与野党全会派の賛同による議員立法で先の通常国会に提出されたものの、継続審議となり今臨時国会に持ち越された。
労働者協同組合(労協)の意義
東京新聞(10月11日付)は1面で、働く人が自ら出資し、運営にも携わる「協同労働」という新たな働き方を可能にする同法案が、今臨時国会で成立する見通しであることを報じている。
「新型コロナウイルスの影響で廃業や雇い止めも相次ぐ中、労働者が自ら仕事を創り、生き生きと働ける新たな選択肢」として注目される協同労働の考え方は、「現代社会で働く多くの人たちが、意欲や能力に見合った就労の機会を与えられず、失職する恐怖や疎外感にも悩まされているという問題意識に根ざし」「地域社会の要望に沿った、やりがいを感じられる仕事を住民が自ら創り、主体的に働ける仕組みとして」、考え出されたことを伝えている。
同法案は、労働者協同組合(以下、労協と略)が、組合員の「出資」「意思反映」「事業従事」という3原則に基づいて運営されることを規定するとともに、労働契約も締結し、組合員の最低賃金などが守られるようにしている。
設立に際しては、3人以上の発起人を要するが官庁の認可は不要。事業も労働者派遣事業以外はどのような業種も可能で、極めて使い勝手のいいものとなっている。
記事では、「地域の需要があるのに担い手がいない事業への参入」、例えば、「後継者不在で廃業を考えている中小企業の仕事を、従業員が労協を設立して引き継ぐ」(継業)や、「訪問介護や学童保育を、意欲のある人たちが労協を立ち上げて担う」(起業)などをすすめている。
法の目的に鳥肌が立つ
東京新聞(10月17日付)は、法制化に尽力した団体関係者の談話を紹介している。
ワーカーズコープ連合会理事長の古村伸宏(ふるむら・のぶひろ)氏は、「取り組む事業は農林業などの一次産業や環境、福祉など多様な分野で、持続可能な地域づくりにつなげる」可能性を指摘し、「国連の『持続可能な開発目標(SDGs)』に絡み気候問題を食い止める際、デモやストライキなどにとどまらず、この法律を使って、未知の事業を生み出す若者もいるかもしれません」として、「私たちの想像を超えた人々、事業に使われるのが、すごく楽しみです」と、語っている。
法案第一条(目的)の、「組合員が出資し、それぞれの意見を反映して持続可能な地域社会の実現に資する」と言う趣旨が自分たちの目指す考えそのもので、「鳥肌が立ちました」と語るのは、ワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン代表の藤井恵里(ふじい・えり)氏。「メンバーが出資し合い、より広い事業を展開できるようになります。今ある法人格の中で、私たちに一番合う形態なんじゃないかと考えます。(中略)企業に雇われて働くというのが当たり前という意識が強い中、まず協同労働という働き方が広がる機会になれば」と、期待を寄せている。
「小さな協同」への大きな期待
日本農業新聞(8月18日付)の論説は、「この新しい協同法制による持続可能な社会の創出、そのための協同組合間連携の強化に向けて、関係者は議論を深めるべきだ」とする。
JAや生協が「大きな協同」だとすれば、同法案が念頭に置いているのは「小さな協同」。この「小さな協同」が、「暮らしや地域の課題に直結した場所から仕事を興し、同時に社会課題の解決にも貢献する」ことに、「高い今日性」を認めている。
現在、「組合員のボランティアで支えられている」取り組みを労協化し、地域に雇用の場を創出するとともに資金を地域内で循環させる。そして、「JAは外側からその活動の継続や経営管理を支えるという構想」を描いている。
その実現に向けて、「新たな協同法制を使った協同間連携のあり方について議論を深め」、地域社会の活性化に向けた「新しい協同」の創出を提起している。
三人寄れば文殊の知恵
同紙(11月3日付)の論説では、ふたつの視点から同法案を「新たな働き方や地方の活性化に弾みをつける、協同組合史に刻まれる画期的な新法だ」と、最大級の評価を与えている。
ひとつは、会社に雇用されるといった従属関係ではない、労働者主体の「新しい働き方の選択肢」として。
もうひとつが、「農山漁村での仕事づくり」である。地方移住の関心が高まっている。東京一極集中に象徴される極端な人口の偏在から、適疎な社会づくりを目指すうえでは、地方移住政策は不可欠である。しかし、「仕事がなければ夢物語で終わる」ことから、「協同組合の仕組みを使って、地域に『起業』『継業』、半農半Xのような『多業』を促進したい」と、訴えている。
「首を切れない社員なんて雇えない」のが本当に「普通」だとすれば、解雇される前に、縁を切れ。
労協設立には3人以上の発起人が必要だが、「三人寄れば文殊の知恵」。人間らしい、新たな世界がそこから見えてくる。
「地方の眼力」なめんなよ
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