菅首相の危ない綱渡り【森島 賢・正義派の農政論】2021年5月17日
菅義偉首相は、ワクチンがコロナを退治し、コロナ禍が過ぎ去るのを、息を詰めつめ、固唾を飲んで待っているようだ。だが、ただ待っているだけだ。コロナ禍を軽減する対策は、何も考えていない。
いったい、いつまで待つつもりか。
首相は、7月23日に開会する五輪は、安心・安全な大会にする、といっている。また7月末までに高齢者のワクチン接種を終える、と言っている。それまでの間、自分は何もしないで、国民には我慢せよ、と言うだけだ。
だが、その通りになるだろうか。危うい綱渡りのようだ。その間、国民は病苦と生活苦に苛まれる。しかし、政府は傍観しているだけで、自身は無為無策である。
その一方で、国民を脅して、外出の自粛を声高に要求するだけである。
上の図は、コロナが始まった昨年1月から先週末までの、全国の新規の感染者数と死亡者数を示したものである。2つの数とも山を越えたようには見えない。
ワクチンの接種が順調に進捗すれば、この2つの数は減少に転ずるだろう。しかし、安心・安全な状況になるか。怪しい。その上、ワクチンの接種が、順調に進捗するか。これも怪しい。
かりに、順調に進捗したとしても、7月末の接種率は国民全体で30%程度にすぎない。これでは、全国民が安心できる集団免疫を獲得できるという60%には、ほど遠い。
◇
集団免疫を獲得できるのは、いつか。
首相は、1日に100万回、ワクチンを接種できるようにする、といっている。これも怪しいのだが、騙されたとして計算しよう。
国民の60%、つまり、7534万人が2回接種して集団免疫を獲得するには、1億5000万回接種することになる。1日100万回として割り算すると、150日かかる。明日から始めるとして、10月中旬になる。だから、接種後に免疫を獲得するのは10月末になる。
これが、首相が考える危ない楽観である。
◇
ここで強調したいのは、この危ない楽観だけではない。
集団免疫を獲得するまでの長い間の政府の無為無策である。
いまでさえ、医療は崩壊している。感染者が入院できずに、自宅で死を迎える人が各地にいる。まさに非常事態である。だが、政治は無為無策のままで傍観している。
◇
無為無策というだけではない。政府は、オリパラの開催には、多くの国民の反対を無視して、強行へ向けた執念を燃やしている。
ここには、薄汚いカネがからんでいるようだ。主催者であるIOCのバッハ会長は、アメリカの有力紙から、「ぼったくり男爵」と蔑まれている。
もしもオリパラを強行すれば、医療は、その分だけ逼迫する。その分だけ感染者が増えるし、死亡者が増える。それは、カネでバッハ会長に売ったことになる。
◇
首相は、国民が集団免疫を獲得するまでの間、手をこまねいているのではなく、危ない楽観をやめ、危ない綱渡りをやめ、オリパラをやめ、心を新らたにして、国民の苦難を最小限にする努力に専念すべきである。
今からでもおそくない。検査を拡充し、感染者を全員隔離し、手厚い治療をして、市中の感染源を最小限にすべきである。
最後に一言。
今日から、自衛隊によるワクチン接種の予約が始まる。
実際に接種するのは、24日からである。
首相が防衛大臣に指示したのは、先月の27日だったから、準備に約1か月かけ、その後に実施することになる。この間にも、多くの国民がコロナで生命を失った。
首相のコロナに対する危機感と、国民の生命を守る責任感は、この程度の希薄さである。
(2021.05.17)
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日