資本のグローバル化・通商協定の変遷を振り返る【近藤康男・TPPから見える風景】2021年7月1日
昨年11月15日のRCEP合意署名により主な多国間経済連携(協定)は一段落したかに見える。現在は今後の新たな秩序に向けた静かな胎動の時期と言えるかも知れない。今回のコラムでは改めて第2次世界大戦後のブレトンウッズ体制以降のグローバル化に触れながら通商外交・協定の流れを概観したい。
GATT、WTOからTPP、デジタル貿易協定への道
この流れは、国民経済を背景にした国際条約からグローバル企業の要求をより反映した国際条約、そして巨大IT企業の秩序を後追いする国際条約への道でもあった。
〇1948年GATT関税貿易一般協定による、物品に係る自由貿易の拡大と経済成長の時代を経て、常設機関としての1995年WTO体制へ
これは、知的所有権の貿易に係る側面に関する問題(TRIPS協定)、サービス貿易、紛争解決などを含みながらも、ある意味では物品貿易の量的拡大の時代とも言える。
〇70年代の為替の変動相場制への移行・実需原則の撤廃、更には80年代の金融工学の本格的発展を経て金融・投資の肥大化、それに伴う資本のグローバル化の進行によるTPPに代表される多国間経済連携協定へ
これは、グローバル企業の要求を反映し彼らの権能と利益の領域を拡大した、貿易から社会の枠組みとも言えるルール中心の協定への道でもあった。そして金融・投資・知財などが重要な領域となった。主要通貨の流動性が飛躍的に拡大し、それが投資、サプライチェ-ンのグローバル化と金融経済(資産)肥大化をもたらした
〇2010年代後半、データ経済・デジタル経済と巨大IT企業のプラットフォ-ムが肥大する中で、新NAFTA、日米デジタル貿易協定・日英EPAなどデジタル貿易協定の時代へ
TPPがグローバル企業の要求を多く反映したのに対し、デジタル貿易協定は巨大IT
企業が先行して作った既成事実を後追いする性格が滲み出ている。EU初め、各国・地域は新たな規制を検討しようとしているが依然IT企業の先行が目立っている。金融・投資・知財の時代から、情報空間が新たな利益・権益拡大の領域となった。
デジタル貿易協定ではソースコードやアルゴリズムの開示を禁止する一方、透明性が不充分なまま個人情報の保護の担保は後追いとなっている。
RCEP合意の後、アジアに注がれる各国の熱い視線
RCEPは昨年11月15日に合意署名がされたが、未だ国内手続きを終えていない国が15ヶ国中の大半だ。しかし、昨年末から2021年に入り、成長のアジアには各国が熱い視線を注いでいる。米国だけはやっと6月22日に上院の財政委員会の貿易小委員会でTPPを中心にこれまでの経過などの審理が始まったばかりで、具体的な検討は先のようだ。
しかし、英国・EUは共にインドとのFTA交渉に動きつつあり、EUは現在欧州議会での審議が中断しているものの昨年末に対中包括的投資協定に大筋合を果たし、ASEANとの戦略的パートナーシップにも乗り出している。英国は豪州とのFTA大筋合意などFTAの拡大に熱心だ。
そしてTPPについては、昨年11月のAPEC首脳会議以降、中国が参加検討を表明し、更に台湾、韓国、フィリピンなども強い興味を示している。
その中で英国は6月2日の第4回TPP委員会で正式に協議のための作業部会設置が認められ、22日には今年の議長国・日本との間で今後の手続きの進め方を確認している。
ただ、台湾の扱いについては中国との関連で紆余曲折も想定されよう。
"TPPプラス"を目指す動き:参加国の拡大とあらたな分野への拡大、既存の協定のTPP化
次の動きはTPP参加国の拡大に加え、長期的にはRCEPを含む既存の協定のTPP化を目指す動きとTPPの分野拡大などが想定される。
特に日本政府は前のめりになっており、RCEP審議の国会委員会であるにも関わらず、茂木外相は繰り返しTPPの重要性を強調していた。
"TPPプラス"と既存の協定のTPP化に関する動向は、次回のコラムで更に触れることとしたい。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日