【リレー談話室】支店長よ、独りで頑張らないで 藤井晶啓 日本協同組合連携機構〈JCA〉常務理事2022年1月18日
自己改革を継続するという条件付きで准組合員利用規制は阻止されました。このためか組合員との対話運動は継続といえども一山超えたという雰囲気です。一方「これこそ自己改革」と早期警戒制度対策の名のもとに現場である支店に一層の合理化を求めながらリスク管理業務を増やし、支店・拠点の統廃合をすすめる動きが全国的に加速しています。
支店長にとっては職員が減るのにやらねばならない細かいことばかりが増え、途方に暮れるのが実感ではないでしょうか。
・変革が難しいのは、人の問題だから
発達心理学の権威であるハーバード大のロバート・キーガン教授は著書『なぜ、人と組織は変われないのか』の中で、「人が直面する問題は二つに分類できる」と言います。
一つは、技術的な問題。どのような技術を習得すべきか、わかっているのでその技術を習得できれば解決できる問題です。もう一つは、人の適応を要する問題。つまり、技術の習得だけでは解決ができない問題がある、というのです。キーガン教授はリーダーが侵す最も大きな過ちは、適応を要する問題を解決するときに技術的手段を用いてしまうことだと指摘します。
そして、適応を要する問題が解決できないのは、人には「変わる不安」を避けるよう自己防衛のために変革をはばむ免疫機能があるからと説明しています。権限移譲を例に考えてみましょう。「部下に権限移譲をすすめて部下を育てたい」はずが、「任せたはずなのに途中で小さいことまでついつい口を出してしまう」のはリーダーの個人的な意思の弱さが原因でしょうか。
つい口を出してしまう裏には、「失敗すると自分の責任になる。自分のやり方を通したい」という、裏の目的ともいうべき自己防衛本能があるかもしれません。さらにその裏には「一度失敗すると挽回は不可能。自分の価値は他人の評価で決まる」との固定概念があるのかもしれません。これらの深層意識まで自覚しなければ、権限移譲はすすみません。
このように上面だけで変革の必要性を声高にさけんでも改革は進まないのです
・チームを動かすのはリーダー独り?
今、支店で起きている問題の多くは、この適応を要する問題ではないでしょうか。『チームワーキング」(立教大学の中原淳教授と田中聡助教の共著)では、リーダーに3点を問いかけています。(1)チーム全体を俯瞰できているか。(2)すべての人でチームは動くものだから、全員がリーダーであり全員でマネジメントという意識があるか、(3)チームは生き物なのに一本調子の機械のように捉えていないか。
さらに、本書では多様な視点から意見を言いあえるフィードバックの重要性について述べています。一度「うちのチームについて、どう思っている」とみんなで振り返る場づくりも手でしょう。もしもチームの和を乱したくなくて素直な意見が出せないのであれば、それこそがリーダーへの忖度であり、適切なフィードバックは期待できません。そのようなチームでリーダーが孤軍奮闘しても、ともに働く部下にとって働き甲斐がある元気な職場とは言えないでしょう。そのような支店で管内の組合員との率直な対話が期待できるのでしょうか。
・せわしきと云わぬが能なり
『佐藤一斎「重職心得箇条」を読む』(安岡正篤著)という書籍があります。佐藤一斉の門下には山田方谷、佐久間象山が連なります。重責を担うリーダーの心得を述べていますが、自分が最も心に残るのは第八条「仮令(たとえ)世話敷とも世話敷と云わぬが能なり」。以下が現代訳です。―重役足る者、仕事が多い、忙しいという言葉を口に出すことを恥じるべきであり、たとえ忙しくとも忙しいといわない方が良い。心の余裕がなければ大事な事に気づかず、手抜かりがでるものである。重役が小さい事まで自分でやり、部下に任せることが出来ないから、部下が自然にもたれかかり、重役の仕事が多くなるのである―また、第十条では「手間を省くことが肝要」とあります。小役人ほど仕事を増やし複雑にしがち。自らを省(かえり)み、真の不必要な業務を省(はぶ)く。第八条とともに自らの戒めです。
(藤井晶啓・日本協同組合連携機構常務理事企画総務部長事務取扱)
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
【リレー談話室】
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日