自国でなく世界の食糧安保確保へ動く欧米農業界【ワシントン発 いまアメリカでは・伊澤岳】2022年4月8日
ロシアによるウクライナ侵攻から1か月以上が経過した。既報の通り、農業生産が盛んなウクライナや農業・肥料生産が盛んなロシアが当事国となっていることから、世界の食料安全保障への影響が懸念されているところとなっている。
資料:FAO FAO Food Price Index
https://www.fao.org/worldfoodsituation/foodpricesindexより筆者作成
2月のFAO食料価格指数は過去最高を記録
FAO(国連食料農業機関)が3月4日に公表した2月の食料価格指数(食肉、乳製品、穀物、植物油、砂糖の国際価格について、2014~2016年を100として、価格を指数化したもの)は140.7ポイントとなり、1年前との比較で24.1ポイントもの大幅な上昇を記録した。これは、これまでの最高値であった2011年2月の137.6ポイントを3.1ポイント上回るもので、過去最高を更新したこととなる。
今回の食料価格指数上昇は植物油価格と乳製品価格の上昇に大きく影響されたものとなっているが、穀物価格や食肉価格など、砂糖以外のすべての項目が価格上昇を記録していることがわかる(図参照)。
この食料価格指数の上昇の要因はつまるところ需給のバランスを反映したものであるが、特に植物油や穀物に関してはヒマワリ油や小麦・トウモロコシといったウクライナからの農産物輸出が不安視されていることが供給不安につながり価格上昇の一因となったとFAOは分析している。
ちなみに、ブルームバーグ紙の報道によると、世界的な食料価格の上昇により、直近1年間で欧州での小麦価格は65%、トウモロコシ価格は38%、パーム油価格は55%近く高騰する中で、コメの価格は20%近い下落が起きているとのことである。2007年前後に起きた食料の価格高騰を教訓に、アジア諸国が国内の米作を支援してきたことで、世界的に豊富な在庫があることがその要因とされている。
しかしながら、コメは小麦と比較して貿易取引量の少ない品目であり、わずかな輸出入量の変化が価格変化に大きな影響を与えるとされていることから、予断を許さない状況が続く。
世界的な食料供給不安や価格高騰のなか、欧米農業界の動きは
コメの価格が他の穀物と比較的に落ち着いた動きを見せる中、USAライス連合会は米国農務省・ヨーロッパの業者と連携しコメの提供を行っている。また、米国の農産物加工業者や輸出業者らの業界団体が中心となり、、保全休耕プログラム(CRP:土壌侵食を受けやすい土地を10年程度休耕し、土壌保全する場合に、農務省が地代を一部助成する制度)の対象農地のうち、「優良農地」として位置付けられる農地に作物を栽培する(休耕を中断する)ことを可能とするよう、柔軟な制度運営を求める要請を農務省に行っている。農産物の供給が不安視されるなか、少しでも多くの土地で農業生産を行うべきというだという主張である。要請書に名を連ねるのが、小麦やトウモロコシ、油糧種子等の生産者団体ではなく、加工業者らが中心となっていることに注意する必要がある(生産量の増加による、原料仕入れコストの低減を狙っているとの見方もある)が、要請内容自体は時宜を得たものといえよう。この要請に対し、環境保全を重要視するバイデン政権側は今のところ要請を受け入れる動きは見せていない。
実は、同様の動きは欧州でも起こっている。欧州最大の農業・農協団体であるCopa・Cogecaも米国の事例と概ね同じく、政策的に休耕地として位置づけられている農地に作付けを行うことができるようにすることを求めている。結果的に欧州委員会はこの要請に応え、休耕地での作付けを認めるとする決定を下している。
世界の食料安全保障が脅威にさらされるなかで、自国の食料安全保障をどう確保するか、という議論はもちろん重要であるが、世界の食料安全保障をどう確保するか、という視点で迅速な行動を起こしている欧米農業界の動きには思わず舌を巻いてしまう。
伊澤 岳(JA全中農政部農政課<在ワシントンD.C.>)
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
【ワシントン発 いまアメリカでは・伊澤岳】
重要な記事
最新の記事
-
【欧米の農政転換と農民運動】環境重視と自由化の矛盾 イギリス農民の怒りの正体と運動の行方(2)駒澤大学名誉教授 溝手芳計氏2024年4月26日
-
【注意報】麦類に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2024年4月26日
-
【注意報】麦類に赤かび病 県内で多発のおそれ 熊本県2024年4月26日
-
【注意報】核果類にナシヒメシンクイ 県内全域で多発のおそれ 埼玉県2024年4月26日
-
【注意報】ムギ類に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 愛知県2024年4月26日
-
「沖縄県産パインアップルフェア」銀座の直営飲食店舗で開催 JA全農2024年4月26日
-
「みのりカフェ博多店」24日から「開業3周年記念フェア」開催 JA全農2024年4月26日
-
「菊池水田ごぼう」が収穫最盛期を迎える JA菊池2024年4月26日
-
「JAタウンのうた」MV公開 公式応援大使・根本凪が歌とダンスで産地を応援2024年4月26日
-
中堅職員が新事業を提案 全中教育部「ミライ共創プロジェクト」成果発表2024年4月26日
-
子実用トウモロコシ 生産引き上げ困難 坂本農相2024年4月26日
-
(381)20代6割、30代5割、40/50代4割【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年4月26日
-
【JA人事】JA北つくば(茨城県)新組合長に川津修氏(4月20日)2024年4月26日
-
野菜ソムリエが選んだ最高金賞「焼き芋」使用 イタリアンジェラートを期間限定で販売2024年4月26日
-
DJI新型農業用ドローンとアップグレード版「SmartFarmアプリ」世界で発売2024年4月26日
-
「もしもFES名古屋2024」名古屋・栄で開催 こくみん共済coop2024年4月26日
-
農水省『全国版畜産クラウド』とデータ連携 ファームノート2024年4月26日
-
土日が多い曜日まわり、歓送迎会需要増で売上堅調 外食産業市場動向調査3月度2024年4月26日
-
鳥インフル 英国からの生きた家きん、家きん肉等 一時輸入停止措置を解除 農水省2024年4月26日
-
淡路島産新たまねぎ使用「たまねぎバーガー」関西・四国で限定販売 モスバーガー2024年4月26日