感染症研究で日本は12位【森島 賢・正義派の農政論】2023年2月6日
日本の感染症研究、つまり、コロナなどの分野の研究は、世界各国のなかで12番目、G7諸国の中で最低、と報道されている(朝日1月17日、原資料はデジタルサイエンス社)。これは発表された研究論文の数を比べたもので、アメリカと比べると、実に10分の1、中国と比べると4分の1、という少なさだという。
日本の国民は、こうした劣悪な医療環境のもとでコロナの災禍を受けている。国民は犠牲にされている。この怒りを、どこへ向ければいいのか。
こうなってしまった原因は、研究費が少ないからだという。文科省が研究費を切り詰めているからだという。だから、原因は政治にある。政治の市場原理主義化にある。
つまり医療は、儲かれば市場原理によって研究費を多く投入するし、儲からなければ少なくする、という思想である。市場を信頼して、そこに政治が介入すべきではない、という恥ずべき思想である。
いまの政治は、市場原理を採るべきでない公共財分野の食糧や教育だけでなく、医療の分野にまで市場原理主義を持ち込もうとしている。
これでいいのか。
上の図は、朝日新聞(1月17日)のコピーである。コロナを含む感染症研究の水準をみるために、この分野の論文数を、世界の各国について比較したものである。
日本は12位である。
1位は米国で日本の10倍、2位は中国で日本の4倍である。経済規模が1位と2位の米国と中国が、感染症研究の水準でも1位と2位を占めている。だが、経済規模が3位の日本は、遥かに下位の12位である。G7諸国のなかでは最下位である。
だから、コロナ禍のもと、国産のワクチンもないし、まともな薬もない状況で、現場の医師や看護師は苦闘している。
このままでは、日本は世界で12位程度の、哀れな経済小国に転落するだろう。
◇
かつて、日本の先人たちは、富める人も貧しき人も国民皆保険、という高邁な思想のもとで、世界に誇る医療制度を作り上げた。
当時は、無医村という医療から見放された農村があった。そうした状況のなかで、志の高い医師や農協の先人たちは政治に要求して、医師養成の専門学校を全国の各地に作った。そうして、無医村をなくした。
だが、いまの日本に、こうしたかつての栄光は跡形もない。
◇
いま日本は、コロナ禍のなかで、国民皆保険を崩壊させ、世界に恥をさらしている。これをみて、先人たちは何を思うだろうか。
昨年からは、高齢者の医療費の自己負担額を、一挙に2倍に引き上げた。コロナも、自己責任で治すことにしたいようだ。今後は、高齢者など弱者の受診の自己抑制が広がり、医療における貧富の格差を拡大するだろう。
これは、弱者を相手にしていては儲からない、だから縮小するという、まさに医療の市場原理主義化である。
◇
こうなった責任は日本の政治にある。だが、そう言ってはいられない。他人事ではない。国民1人1人のことである。
これを是正するのは、国民の大多数の弱者である。そして、医療現場の志の高い医師たちや看護師たちである。
だが、彼や彼女らの要求を、政治を動かす力に結集すべき野党に、その意志もないし力もない。
◇
医学研究は、全額公費で、その額は儲かるか否かで、市場が決めるのではなく、公共性の重要度によって政治が決めるべきである。そして、医療を公共財にし、無料にすべきである。
医療を無料にしている国は世界の各国にあるし、それを主張している政党は、どの国にもある。
日本にそれがなければ、日本の国民は絶望するしかない。
◇
最後に、論証を省略し、論理を飛躍させて言っておこう。中米対立やウクライナ紛争の争点の根源に、市場原理主義の評価をめぐる対立がある。つまり公共財をどこまで広げるかという、目指すべき社会体制についての対立がある。
そしてこれは、協同組合論の核心部でもある。
(2023.02.06)
(前回 弛緩した食糧安保論議)
(前々回 台湾をウクライナ化する陰謀)
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