異次元の少子化対策は「戦争しない国づくり」【小松泰信・地方の眼力】2023年3月15日
「何せ、まだ昭和の感覚で運営されている組織なもので、男女共同参画が進みません」と嘆いたのは、某県のJA女性組織協議会のトップ。

男女共同参画社会づくりは〝永遠に道半ば〟
「農業の発展に女性の活躍は欠かせない」で始まるのは日本農業新聞(3月8日付)の論説。3月8日は「国際女性デー」、10日が「農山漁村女性の日」であることを意識したもの。
JA全国女性組織協議会が、地域の核となるリーダーを育成する講習会などを各地域で行っていることなどを紹介し、「意欲のある女性がモデルとなって地域のリーダーを育てる。『男だから』『女だから』と性差にとらわれない、しなやかな農業、農村、JAを目指そう。持続可能な農業を実現する鍵は、多様性の尊重にある」と結んでいる。
しかし現実には、「昭和」の壁が厚くて高いことを冒頭の嘆きが教えている。
新聞各紙は、世界銀行が3月2日に公表した、190カ国・地域の経済的な権利を巡る男女格差において、賃金や育児、年金など8項目の評価の総合点で日本は104位タイで、昨年の103位タイから後退したことを報じている。
職業選択などを評価する「職場」や「賃金」の項目の点数が低く、主要7カ国(G7)では最下位。
日本における男女格差の是正に向けた取り組みの遅れが、なんと顕著なことか。
男女共同参画社会づくりは、JAに限らずこの国においては、ヤッテル感だけの〝永遠に道半ば〟状態である。
国会の「壁」を打ち破る
東京新聞(3月8日付)の社説は、衆議院事務局が2022年に全衆院議員を対象に行った「議会のジェンダー配慮への評価に関するアンケート」(衆議院議員465名(内、男性419 名、女性46名)。有効回答数382 名)における、「既存の法律や法案が女子差別撤廃条約やそのほかの国際的なジェンダー平等の責務に適合していることを、国会でどのように確認していますか」と言う質問に注目。
「委員会の審査で確認している」24.1%、「確認していない」24.4%、「分からない」44.3%、「その他」7.2%、という結果から、「女性差別の撤廃に鈍い日本の国会を象徴しているようです」とする。
女子差別撤廃条約は、男女の完全な平等実現のために、あらゆる形態の女性差別をなくすことを定めた多国間条約で、1979年12月に国連総会で採択され、81年に発効。日本は85年に国会で批准した後、女性に差別的な法律の見直しに着手した。
しかし、「女性は人口数で男性と変わらなくても、社会的立場や処遇は明らかに劣位に置かれています。賃金格差がその典型で女性は男性の7割しかありません。雇用の調整弁として使われやすい非正規雇用も女性が多く、コロナ禍では非正規の女性が多数失業しました」とその実情を示し、男女差別をなくすには「女性議員を増やすこと」はもとより、「差別の実態を直視し、それを正す勇気や力のある議員を国会に増やさねばなりません」と訴える。
母親ペナルティーの解消
沖縄タイムス(3月8日付)の社説は、「出産・育児による雇用差別やキャリアの中断で、女性の賃金は子ども1人につき4%低下する」との指摘を紹介し、母親になったことが低賃金に結び付く状態、すなわち「母親ペナルティー」を生み出していることを指摘する。
「女性の社会参画は、多様な価値観を社会に取り込む一歩だ」として、「クオータ制やパリテ法導入、企業の女性登用を後押しする制度の創設」に向けて、国や行政のトップに決断を求めている。
(小松注;母親ペナルティーとは、家事や子育てのために女性が支払う代償。クオータ制とは、一定の人数や比率を割り当てる制度のこと。パリテ法とはフランスで2000年6月に制定された法律で、選挙の候補者を男女同数にすること、候補者名簿を男女交互に記載することなどを政党に義務付ける)
熊本日日新聞(3月8日付)の社説は、同紙の記事「議会アップデート」で取り上げた女性議員が、立候補に際して、家族や周囲から「どうしてお母さんがしなきゃいけないの」「家庭を大事にして。子どもが大きくなるまで待ったら」などと言われたことを紹介し、「果たして、男性の候補者が同じことを言われるだろうか」と問いかける。
そして、「社会の多様性が反映されなければ、少子化対策や生理の貧困、性と生殖に関する健康と権利といった分野で、議論の停滞が懸念される」と危機感を募らせている。
希望なき社会で子は産めぬ
神戸新聞(3月9日付)の社説は、「あらゆる政策の土台にジェンダー平等の理念を据えることが必要不可欠」とする。
なぜなら、「出生率向上のみを求める声は、国力や年金制度を維持するため、戦前戦中のように『産めよ殖(ふ)やせよ』と迫っているように響く」ことから、「子どもや女性関連の政策を巡る議論に、違和感を抱く女性は少なくない」からだ。
さらに、「女性は子どもを産み育てるのが当然」とする古い性別役割分担意識が、「男性の長時間労働の是正を難しくさせ、世界的にも突出して女性の家事負担が重い現状を生んでいる」と指弾する。
そして、「出生数の減少は、『将来に希望が持てる社会になっているか』との鋭い問いかけでもある」として、「性別にかかわらず、多様な生き方を尊重し、助け合う社会を目指す先にこそ、希望が見えてくるのではないか」と、進むべき未来を指し示す。
ところが、自民党少子化対策調査会長の衛藤晟一元少子化対策担当相が13日、子ども政策に関する党会合で、奨学金の返済免除制度の導入を主張し「地方に帰って結婚したら減免、子どもを産んだらさらに減免する」と述べたことを新聞各紙が報じている。
奨学金支援を巡ってはこれまで、自民党の教育・人材力強化調査会(会長・柴山昌彦元文部科学相)でも出産した場合に返済を減免するとの議論があった。
この連中の発言は、「所帯を持って、子どもをつくれ。そしたら借金チャラにしてやるぜ」と、その世界の言葉に翻訳される。これが、どれだけ、品性も知性もない連中が吐く言葉か、お分かりになりませんか。
そんなに結婚して、子どもをつくって欲しいのなら教えてやる。
異次元の少子化対策は、希望の持てる国づくり。つまり、戦争しない国づくり、なんですよ。
「地方の眼力」なめんなよ
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