【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】農村は国の本~GHQに消された本2023年4月13日
外国依存主義は食糧の独立を軽視し亡国となるとし、「農村は国の本」「食糧自給自足国」を掲げた『食糧戰爭』(1944年)は焚書になり、『食の戦争~米国の罠に落ちる日本』(2013年)が現実に。
食糧自給体制の高度化
丸本彰造著『食糧戰爭』(新大衆社 / 昭和19年)という本がある。太平洋戦争下で戦局が悪化し始めた昭和18年12月に書かれている。本書は戦後GHQから焚書として世の中から消された本である。数ある丸本氏の著作の中で焚書になったのはこの一冊だけであることからも、特別に目をつけられたことがわかる。
丸本氏は、陸軍少将・胚芽米普及会長の立場で、女子栄養大学『栄養と料理』( 昭和13年第4巻第9号)に「胚芽米ますます普及の要について」を著すなど、栄養知識、食材管理、調理法に至るまで具体的な知識が豊富で、兵士の食料管理を統括していた。
丸本氏は、政府の「食糧増産応急対策要綱」(昭和18年6月4日)を、一言で言えば、「安定せる食糧自給体制を確立するために、あらゆる手段を尽くすこと」だとして評価している。
氏は「食糧自給体制の高度化」を力説している。食糧自給自足政策が困難だと主張し、国民食糧を外地依存に委ねる論者がいるが、国防国家建設の見地からすれば危険である。内地に於いても可能な限り各地域ごとに食糧自給自足を施策するのが要である。
そして、「農村は国の本」だとして、次のように言う。食糧こそ国防の第一線である。食糧確保と民族増強の基地たる農村の振興が最も必要である。農村の消長は国運の消長、農村の興発は国家の興発を左右する。
外国依存主義は亡国
近年では、商工主義・重商主義に傾き農業が疎んじられた向きがあったが、これらは貿易主義、外国依存主義であり、①食糧の独立を軽視し、②国防の基礎を危うくし、③結局亡国となる。農業を国の本とせず軽視する国は危険である。食糧の確保と民族の増強が伴わない都市の繁栄政策は決して国家を興隆することにはならない。
また、丸本氏は、昭和8年が大豊作で「米価低下で農家が困難する、減反すべき」と減反政策が決定されたことに対し「大豊作だからと言って減反するのは国防の将来を危うくするのみあらず、農民心理に悪く影響する。農民は国民食糧の供給を天職として一粒でも多く生産するよう努めてきた。この際、国家が買い上げ全国の倉庫に籾貯蔵すべきである」と反論した。
次のようにも主張している。
食糧は国内に於いても出来るだけその土地で供給できる様にありたい。工場の立地は食糧の立地と一致すべきであり、農家も自らの食糧を自給することに重点を置くべきである。「人体の在る所には人体を作り上げる食糧がその付近にあること」を原則とすべきである。しかして、"農業の姿を都市にも及ぼせ"が私の主張である。
「食糧増産応急対策要綱」にもあるように、休閑地こそ食糧の増産に利用すべき貴重なる国土である。一国民として推進出来ることが休閑地の活用である。今や家庭においては出来るだけ閑地で豆や野菜を栽培し自給に努めるのが肝要である。
玄米食と併せて「あらゆる創意工夫を発揮して国民食糧の自給確保のため一路邁進すべき」との見地からパン食普及を提唱する。食糧に対する絶対安全感の確立のためには、米飯中心の食生活を多角化し危険分散を図ることである。その際の「パン」は日本的パンであり、全国1千万の学童に対し栄養パンの学校給食を実施する。
米国の意図は実現された
GHQの日本占領政策の第一は、日本農業を弱体化して食料自給率を低め、①日本を米国の余剰農産物の処分場とすること、②それによって日本人を支配し、③米国に対抗できるような強国にさせないこと、であった。①のためには、日本人がコメの代わりに米国産小麦に依存するようにする学校給食を使った洗脳政策も行われた。
本書は、食糧こそ国防の第一であり、外国依存主義は、食糧の独立を軽視し、結局亡国となる。農業を国の本とせず軽視する国は危険とし、食糧自給自足国を掲げ、かつ、玄米と日本的パンの普及も提唱した。まさに、米国の思惑と見事にぶつかる、日本人に認識させてはならぬ「真実」がここにある。
丸本氏の著書の中で、『食糧戰爭』の1冊だけが焚書となったことからも、その内容が、いかに米国の占領政策とバッティングしたかがわかる。米国の意図が成功したことは、題名が類似する拙著『食の戦争~米国の罠に落ちる日本』(文春新書、2013年)以降の著作で鈴木が解説してきた食と農をめぐる歴史的展開が如実に物語っている。
食料・農業危機に直面する今の日本こそが、丸本氏の提言を実施すべきであるが、やはり、残念ながら、現実はその逆に向かっている。詳しくは「GHQ焚書アーカイブス」も参照されたい。
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