JAの活動:米価高騰 今こそ果たす農協の役割を考える
【米価高騰とJAの役割】協同の理念発揮今こそ 中長期の米政策ぜひ JA松本ハイランド組合長 田中均氏2025年8月7日
「令和の米騒動」では米価に対する国民の関心が高まり連日多くのメディアで報道されたが、SNSでは真偽不明の報道や意図的な”切り取り”なども見られた。JA松本ハイランドの田中均組合長は「令和の米騒動」に冷静な視点で向き合い、備蓄米や農政の課題を指摘。食の安全と安定供給のため、農協の役割と中長期的な政策の重要性を改めて訴える。
JA松本ハイランド組合長 田中均氏
゛切り取り"曲解残念
JAcomに寄稿した私の記事「米の安定供給は長期的視点で」(4月24配信)をネタに、「JA組合長、米の値段6倍にするつもり」というユーチューブ動画が流れ、57万回再生(6月28日時点)された。どうも「米の値段6倍」のもとは、「ごはん一杯50円、コンビニのサンドイッチは300円」という部分からきているようなのだが、米の値段を6倍にすべきと主張したつもりは一切ない。令和の米騒動で米の値段が上がっているが、それでも他の主食と比べれば決して高くはないということを言いたかったのだが、その部分だけを切り取られ勝手に曲解されてしまった。
具材の入ったサンドイッチと比較するならコンビニの「おにぎり」にすべきだったかもしれない。その反省を踏まえ、5月15日、23日と2回にわたりテレビ朝日のスーパーJチャンネルの取材を受けた際、「コンビニのおにぎり2個とサンドイッチは、ほぼ同じ値段」とコメントしたのだが、特に反響はなかった。
後日談として、西日本新聞からこのユーチューブ動画について取材があった。地元の福岡県の女性から西日本新聞の「あなたの特命取材班」に、「動画の内容は本当なのかファクトチェックしてほしい」との情報がきっかけで、6月29日に1面トップ6段記事で「57万回再生動画 誤り」との記事が載った。JAcomの記事全文をしっかりチェックした上で、動画の内容は一部のみ切り取られ歪曲されたもので「事実ではなかった」と明確に報道している。
また、私の地元の信濃毎日新聞からもユーチューブ動画の反響がきっかけで取材依頼があった。じっくり2時間かけて取材を受けた内容が、5月30日に社会面5段写真付きで報道された。「備蓄米制度とは別の価格調整に関する制度設計と価格補償制度の導入」について、私の主張が正確に報道されていた。
一連の報道をみて、新聞・テレビなどのいわゆる既存メディアは、(当り前のことなのだが)事実に基づいて公正で偏りのない報道姿勢を保持しようとしている。これに対し、新しい情報ツールであるSNSはほとんどファクトチェックのハードルがなく、真偽不明の「らしい」情報が垂れ流されているのが現状。利用者には、自分で確認し、主体性をもって事実を見極めることが求められる。
今回のSNS騒動については、うれしい反応もあった。一つは、ある総代が支所総代会で「JAcomの記事は全くその通りであり、SNSの反応はおかしい」とわざわざ発言して頂いたこと。もう一つは、全く見ず知らずの県外の方から激励のメールや手紙を頂いたこと。これらは、数は少ないものの100万回の「いいね!」を得た思いがした。
危ういワンフレーズ
現代は、令和の米騒動に関する情報に限らず、情報の出し手も受け手も時間と文字数の制約などによって、より表面的で単純化したワードのやり取りでものごとの評価を決めてしまう傾向がある。「農協悪玉論」「五次問屋」も、そうした傾向の中で出てきたワードの一つだし、先の参議員選挙もワンフレーズ選挙だった。これに対して、理解を求める説明は必要ではあるが、長文は敬遠される。広く大衆に理解してもらえる、即効性のある一言で「刺さる」ワードはなかなかみつからない。だとしたら、我々はどうしたらいいのだろうか。
それには、日常、地道に協同活動の賛同者を増やしていくこと、つまりJAの味方、農業・農協関係人口を増やしていくことではないだろうか。JAがいかにして農業振興を通して、安定的に安全な食料を提供しているか、それに理解を示す皆さんを准組合員として組織の中に受け入れていくことではないだろうか。
「小泉米」健康後回し
安全といえば、「備蓄米の放出とカビ」について警鐘を鳴らす報道があった。カビ毒は肝臓がんや腎臓障害を引き起こす危険性がある。随意契約の備蓄米については、購入する大手小売りが希望した場合は国(受託事業体)がカビのメッシュチェックを行うルールになっているという。
週刊新潮がいわゆる「小泉米」を扱う20社に質問状を送ったところ、3社が事実上の回答を拒否したとのこと。つまり、検査を希望しないでそのままスルーして販売された可能性が捨てきれない。ちなみに、生協からは検査済みの玄米のみを国から受け取っているという「しっかりした回答」があったという。同じ協同組合として、信頼の置ける組織であると改めて思う。仮に、カビ検査をしない備蓄米を流通させることを農水省が黙認しているとすれば、「安全性」より「迅速性」、「健康」より「経済」を優先した政治的判断と言わざるを得ない。
理にかなう概算金
政治的判断といえば、小泉進次郎農相は「概算金」の廃止をJA全中に要請した。「JAは米の買い取りを実施すべきである」ということなのだが、果たして買い取りが農業者・消費者のためになるのだろうか。この点は、元JA全中専務の冨士重夫氏が指摘する通り(7月15日号『農業協同組合新聞』)、JAと組合員は一体なのだから共同販売・共同計算が基本であり、買い取りは協同組合の本質からすると例外的な扱いにすべきである。実際、組合員からすると概算金で最低保障がされ、さらに本県でも今年から販売情勢によっては迅速に追加概算金を支払う仕組みが整ったので、最終精算まで待たなくても早期に手取りは確保されるし、インボイスの問題もない。
余談だが、参議院選挙の結果が出た。米どころ東北の一人区において自民党が惨敗したのは、農相の「じゃぶじゃぶ」発言が農業票に影響したことも大きな要因ではないか。今回の備蓄米の放出は緊急避難的な措置だとしても、中長期の米政策が示されていない中での「じゃぶじゃぶ」発言で、農家には不安感、不信感が広がった。
令和の米騒動で高騰した要因は、一言で言えば需給バランスが崩れたことによる。その状況を見越して、一部業者が農家の庭先まできて投機的思惑から高価格で買い取ったことが拍車をかけた。その結果、JAの集荷率が低下し安定的な供給ができなかったことが高騰につながった部分がある。
逆にいうと、JAの集荷率の向上が安定価格・安定供給に貢献するのである。今こそ、JAの果たす役割は大きい。
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