「ひこばえ」でも欲しい加工原料米業界【熊野孝文・米マーケット情報】2023年12月19日
農水省が12月12日に発表した令和5年産水陸稲の収穫量に収量構成要素(水稲作況標本調査成績)の詳しいデータが出ており、これにより生産量には加えられないライスグレーダーの網目1.7ミリ下のくず米発生量が推計できるようになった。加工原料用米の搗精業者で組織される全米工の会員社の推計では1.7ミリ下のくず米発生量は、全国計10万5547tで4年産に比べ7万1803t、率にして40%も少ない。これに農家が主食用米の品位を確保するために使用するライスグレーダーの平均的な網目1.85ミリ以下に落ちるくず米の発生量22万0780tを加えると32万6327tになり、これがいわゆるくず米の発生量になる。
ライスグレーダーの網目から推計した5年産米のくず米発生量は左表のようになるが、32万トン台の発生量は農水省が網目別の統計を出すようになってから最も少ない数量である。
特定米穀と言う表現は必ずしも網下のコメだけを指すものではないが、この業界の市場規模とすれば大体50万t程度と言われるので5年産米のくず米発生量は異常に少ないと言える。このため13日に行われた全米工の取引会では11件の163tの売り物が出たが,買い気が旺盛で中には同値の買い手をじゃんけんで決めるということまで行われ8割方成約した。
成約価格は中米、規格外クラスで60キロ当たり1万2500円から1万3900円、未検査米は1万4300円で成約するなど高値に歯止めがかからない。もちくず白米もkg260円で買われるほど高騰している。わかりやすく言えばくず米が1俵1万2000円もするという異常事態。
それにしても5年産米はなぜこれほどまでにくず米の発生量が少ないのか?全米工の情報交換会では、執行部から研究者の見方として「高温で稲が生きていくためにぬか層が厚くなる。未熟粒が少なくても整粒のぬか層が厚くなればその分歩留まりが落ちる」と言う見解も紹介された。どういうこと言うと、本来未熟粒になるようなコメが整粒になっても今年の場合、暑さから稲が実を守るためぬか層が厚くなり、その分歩留まりが落ち、精米での商品化率が低下するというもの。そのことは5年産米の検査結果に現れており、等級落ちの著しい主産県も多く、商品化率低下もひっ迫感に拍車をかけている要因になっている。
情報交換会では、埼玉県の会員社から埼玉県では12月に入って刈取りする生産者もいるという情報も紹介された。埼玉県は高温障害が多発している県で、これを回避するために7月に田植えして12月に収穫作業に入る生産者もいるとのこと。作付けしている品種は「大地の風」と言う名前で、硬質米で草加せんべいの原料用米として好まれているという。この会員社は肥料商も兼ねており、自らいろいろな品種を試験栽培して「高温障害に強い品種を農家に勧め、それに合う施肥設計」するとしており、6年産は埼玉県のオリジナル品種で高温障害に強い品種を作付けしてもらうべく種子の手配も済ませているという。
同じ日の13日には第4回目のSBS入札が行われたが、砕精米枠2500tは全量落札され、中にはkg225円(税別)で落札されたものもあった。これはアルゼンチンの有機砕米で特殊な用途だが、国から実需者への売り渡し価格はタイ産うるち砕精米でkg157円68銭、アメリカ産うるち砕精米が167円14銭から169円18銭もしている。国内のくず白米価格に比べれば割安だが、枠が2500tに設定されており、加熱する相場を冷やす材料にはなり得ない。
こんな情勢からか全米工の会議では執行部から「ひこばえ」(再生2番穂)の話題が提供された。宮崎ではひこばえを商品化する動きがあるほか、中国では河南省でひこばえの商業栽培が行われ食糧増産に一役買っているという。ひこばえについては九州農研機構が実証テストに乗り出し反収1㌧を超える収量をあげる栽培方法を編み出しており、加工原料米としての契約栽培が有望視される。埼玉県のように12月に入っても刈取り出来るような産地であればひとばえを栽培、加工用米として助成金を得られるよう制度設計をすれば生産者の収益アップになり、実需者も低廉な価格で原料米を確保できるという一石二鳥の効果が得られるはずである。
加工原料米は主食用米のように食味を重視しているコメばかりではなく、様々な特性が求められ、なかでも価格は重要な要素で、こうしたニーズに対応できるコメ政策が今求められている。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日