(371)見てわかることを文章で書く【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年2月16日
勤務先の大学でも卒業研究の発表日です。例年のことですが、学生達には4年間の総まとめであり、これが過ぎればあとは来月の卒業式となります。
大学により学期の終了時期は多少異なるが、この時期は現役の大学4年生には色々と感慨深い時期である。筆者の勤務先の大学では卒論提出が毎年1月末、同時期に1週間にわたり期末試験がある。さらに概ね2週間後に卒論の最終発表会が開催される。
設立時から「文理融合」を掲げた筆者の所属学類(かつての学科)では、80名弱の4年生が2日間かけて順番に発表を行い会場からの質問に答える。
さて、大学卒業の要件には様々な形がある。所定の単位取得はもちろんであり、その中には卒論も含まれている。ただし、正式には卒業論文ではなく卒業研究という科目名称である大学も多い。芸術系の大学などでは卒業制作となることを思い浮かべればその意味がわかるであろう。筆者の所属する学類では、今でも通称はあくまで「卒論」である。これには慣習的な意味だけではなく恐らく別の意味がある。
つまり、大学生活の最後は卒業論文で締めるという基本的方針で教育を実施している訳だ。したがって、学生達は期日までに文章の形で卒業研究をまとめ、それに基づく最終発表を行い、質疑をこなすことでようやく教員による最終評価が行われる。
ところで、何故このようなことを書いたかには訳がある。
例えば、他人にある内容を伝える際には、画像やイメージ、図表などが有効である。最近は行政の配布物や報告書を見ても図表やイラストが多い。文章はその付属物のように誤解する時がある。もちろん、100万言の言葉を費やすよりは一枚の画像が全てを物語る、これはそのとおりだ。
だが、物事を伝える時に画像ではなく文章で伝えることは人類が蓄積してきた重要な知的技術のひとつであることも理解しておく必要がある。現在でも世界中の多くの大学ではそうした伝統を踏まえている。誤解してはいけないのは、映像や行動、あるいは作品の制作なども立派な成果であることだ。これらを卒業要件としている大学や専門分野も数多く存在するため、それを希望する場合にはその道を行けば良い。筆者の勤務先の学群は文章が要件であるというだけのことだ。
話を戻すと、調査などの結果を文章で成果として提出することが求められている場合、学生は1枚の図でわかることを、面倒でも文章で表現しなければならない。あくまで文章が主であり、それを補足するものとして画像や図表が用いられる。
ところが、子供の頃から様々な表現手段に囲まれた学生達は、画像や図表が主であり、文章はそれを説明するものという認識の場合がある。ここでは主従が逆転している。
現代の大学における卒論指導の大きな課題の一つはここにある。極端に言えば、目で見ればわかる内容を聞いてわかるように書くこと、これを指導することになる。だが、見てわかることを文章で書くのは意外と難しい。それをさらに難しくしているのが、他人の考えと自分の考えを明確に分けて書くことだ。
ここで言う他人の考えとは、書籍・新聞・雑誌・webその他において、既に誰かが何らかの形で記していることである。ある文章を読み、心から同感だと思っても、それをそのまま自分の文章として書いてはいけない。当たり前のことだが、これが重要である。そのため「引用」の方法を繰り返し指導する。さらに、長い文章を簡単にまとめた場合、それはあくまで誰かが記したものを自分が「まとめた」ものであり、自分がゼロから書いた文章ではない。
これらのことは頭では理解しても、実際に文章を書き、それを第三者に指摘されて初めて自覚することも多い。そうした過程を何度も経て、ようやく卒業研究が完成する。
* *
自分の学生時代を思い出すと冷や汗が出ることしきりですが、何とか学生達も乗り切ったようです。短い春休みを終えれば、また新学期です。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日