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【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】農業基本法改定に寄せて~日本の農家を守らずして国民の食料は守れない~2024年3月14日

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今何が求められているのか

基本法の見直しを今やる意義とは、世界的な食料需給情勢の悪化を踏まえ、「市場原理主義」の限界を認識し、肥料、飼料、燃料などの暴騰にもかかわらず農産物の販売価格は上がらず、農家は赤字にあえぎ、廃業が激増している中で、不測の事態にも国民の命を守れるように国内生産への支援を早急に強化し、食料自給率を高める抜本的な政策を打ち出すためだ、と考えられる。

しかし、新基本法の原案には食料自給率という言葉がなく、「基本計画」の項目で「指標の1つ」と位置付けを後退させ、食料自給率向上の抜本的な対策の強化などは言及されていなかった。与党からの要請を受けて、「食料自給率向上」という文言を加えるという修正は行なわれることになったが、そのための抜本的な政策については言及されていないのはそのままだ。

審議会関係者の中では、「食料安全保障を自給率という一つの指標で議論するのは、守るべき国益に対して十分な目配りがますますできなくなる可能性がある」とさえ指摘していたというのだから、理解に苦しむ。

戦後の米国の占領政策により米国の余剰農産物の処分場として食料自給率を下げていくことを宿命づけられた我が国は、これまでも「基本計画」に基づき自給率目標を5年ごとに定めても、一度もその実現のための行程表も予算も付いたことがなかった。

今回、少なくとも年1回、自給率目標などの達成の進捗状況を公表することが追加されたのは一定の前進と評価されるが、食料自給率向上の必要性とその具体的な施策の方向性についての言及はないままであり、自給率低下を容認することを、今まで以上に明確にしたとも受け取れる内容と言える。

なお、「国民一人一人が入手できること」を強調しているが、それはもちろん大事だが、そのためには、まず、総量としての自給率の確保が必要であり、分配を改善するには、政府による低所得層の食料アクセスの支援施策の強化などが明記されるべきではないのか。

有事立法だけ強化~国内生産強化でなく海外生産投資?

「平時」と「有事」の食料安全保障という分け方が強調されるが、「不測の事態でも国民の食料が確保できるように普段から食料自給率を維持することが食料安全保障」と考えると分ける意味はあるのだろうか。

平時からしっかりと自給率が向上できるようにするための政策は提示されないまま、平時は輸入先との関係強化と海外での日本向け生産への投資に努めることが強調されている(21条)。それが必要でないとは言わないが、いくら関係強化や海外生産に投資しても不測の事態にはまず自国民が優先だからあてにはならないし、物流が止まれば、生産しても運んで来れない。強化すべきは国内生産ではないのか。

一方で、有事になったら慌てて「花から芋へ」に象徴されるような増産命令と供出を義務付け、従わないと罰金を科すような有事立法はつくると言うが、平時は輸入に頼り、国内生産を支えずして、有事は強制増産させるというのは理解に苦しむ。できるわけがない。普段から自給率を高めておけば済む話だ。それをせずに罰金を科しても作物転換を強制する発想は農村現場としても受け入れられるものではない。

なお、国内生産に重大な支障を与える場合には関税率の引き上げや緊急輸入制限を行うことが追加されたことには一定の評価ができるが、国際ルール上、これは一方的にできることではないので、「食料安全保障に重大なリスクとなる」ことを説明して断固たる措置を採るだけの決意があるのかが問われるところである。

多様な農業経営体の位置づけ

狭い意味での目先の効率性を重視していることが全体を通じて行間から滲み出ている。ある官僚は「潰れる農家は潰れたほうがよい」と話したと聞いた。自給率向上を書きたくなかった理由には、「自給率向上を目標に掲げると非効率な経営まで残ってしまい、予算を浪費する」という視点もあったと思われる。

2020年「基本計画」で示された、半農半X含む「多様な農業経営体」重視が弱められ、今回の基本法では2015年「基本計画」に逆戻りし、再び「多様な農業経営体」を否定し、「効率的経営」のみが施策の対象とする色合いが濃くなっている(多様な農業者に配慮する文言は追加されたが)。

今、農村現場は一部の担い手への集中だけでは地域が支えられないことがわかってきている。定年帰農、兼業農家、半農半X、有機・自然栽培をめざす若者、耕作放棄地を借りて農業に関わろうとする消費者グループなど、多様な担い手がいて、水路や畔道の管理の分担も含め、地域コミュニティが機能することが求められている。

田んぼ「潰し」に750億円

コメ需要が減少しているとして、水田の畑地化も推進しようとしているが、加工用米や飼料米も含めて、水田を水田として維持することが、有事の食料安全保障の要であり、地域コミュニティ、伝統文化の維持、洪水防止機能などの大きな多面的機能もある。水田の短絡的な畑地化推進は極めて危険である。

中国は今、戦争に備えて14億人の人口が1年半食べられるだけの穀物を備蓄すると世界中から買い占め始めた。こうなると事態がよくなる見込みがない。かたや日本の備蓄はどれだけあるのか。コメを中心にせいぜい1.5カ月。がんばっても2か月分くらいしか無理だということで、全くレベルが違う。
日本は国内のコメの生産力も十分あるんだからもうちょっと増産して備蓄すればいいはずだ。そうすればみんなが困ったときに食料を国内でちゃんと確保することができる。コメはいま800万トンしか作っていないが、日本の水田をフル活用すれば1200万トン作れる。そうすれば1年半とは言わなくても日本人がしっかりとしばらく食べられるだけの備蓄はコメを中心にできる。

「そんな金がどこにある」と財務省が言えばおしまいになるが、これこそよく考えてほしい。トマホークを買うのに43兆円も使うお金があるというなら、まず命を守る食料をしっかりと国内で確保するために、仮に何兆円使ってでもそっちの方が先だ。田んぼ「潰し」に750億円(2023年度補正予算)使っている場合ではない。また、物流が止まれば意味のないような海外における日本向け生産への投資などに資金を使うなら、どうして国内生産強化に財政投入しないのか。

腰砕けの価格転嫁誘導策

コスト上昇を流通段階でスライドして上乗せしていくのを政府が誘導する制度の検討が目玉とされているが、参考にしたフランスでも実効性には疑問も呈されているし、小売主導の強い日本ではなおさらである、と筆者は最初から指摘してきた。

やはり、政府もこれは無理だとわかったので、目玉として掲げてしまった価格転嫁誘導策の旗をどう降ろしてお茶を濁すか、という段階に来ている。業界の皆さんを集めた協議会をやって何か「やった感」を出しておしまいになりそうである。

そもそも、消費者負担にも限界があるから、それを埋めるのこそが政策の役割と思うが、それはやらずに、あくまで民間に委ねようとする姿勢である。

欧米は「価格支持+直接支払い」を堅持しているのに、日本だけ「丸裸」だ。欧米並みの直接支払いによる所得維持と政府買上げによる需要創出政策を早急に導入すべきではないか。

種の自給の重要性への認識欠如

種の問題も深刻だ。日本の野菜の自給率は80%と言われるが、その種の九割が海外の畑で種取りをしてもらっている。コロナ・ショックでこれが止まりそうになって大騒ぎになった。本当に止まったら自給率は8%に落ち込む。でも種の輸入が止まったら、国内で種取りして植えればいいと言うが、ほとんどの種はF1(一代雑種)にされているので種を植えても同じものはできない。

だから、自分たちの大事な種を国内で循環させる仕組みをきちんと作らなければ、日本は持たない。食料は命の源だが、その源は種だ。それを含めて、日本の食料自給率を再計算すると、38%という自給率に、もしも肥料が止まったら収量は半分になるとすると、自給率は22%に下がる。その上、種も止められたらどうなるのか? 9.2%にまで落ち込む。

種については野菜だけじゃなくて、私は米や大豆や麦も海外に9割握られるという想定をした。そんなことないじゃないかと言われるかもしれないが、私たちはそういう方向性に今進んでいる。モンサントバイエルさんとか、グローバル種子農薬企業は「種を制するものは世界を制する」と言って、世界中の種を自分のものにして、それを買わないと生産できないような仕組みづくりを世界中でやろうとしているが、世界の農家市民が猛反発して苦しくなっている。苦しくなると、何でも言うことを聞く日本でもうけりゃいいじゃないかと、日本にいろんな要求がきた。

まず言われたのが、公共の種やめろと。国がお金出して、県の試験場で良い種作って、それを農家さんに安く供給する、こんな事業はやめろと言われて、種子法廃止。やめただけじゃダメで、良い種は企業に渡せといわれて、そういう法律まで作らされた。さらに、種もらっただけじゃダメだ。農家が自家採取できると次の年から売れなくなるので、自家採取を制限しろと言われて種苗法の改定。

シャインマスカットの苗が中国韓国に取られたから日本の種を守るんだと言って、いろんな改定をやったけれども、実際やったことは日本の大事な種を海外の大きな企業に渡していくような流れを自ら作ってしまってるんじゃないか、こんなことやっていたら、本当に9.2%に近づいているのだということを深刻に受け止めなければいけない。

このような流れに歯止めをかけて、種の自給を確立し、農家の自家採種の権利を守ることを基本法に明記しなくては、いざという時に、日本人の命を守ることはできない。種の自給なくて食料の自給はない。しかし、一言も触れられていない。

みどり戦略で掲げられた「有機農業」という言葉はどこにもない

基本法改定に先んじて、有機農業の大幅なシェア拡大(0.6%→25%、面積で100万haへ)を進めるという画期的な大方針が「みどり戦略」で今後の日本農業の方向性として出されたが、基本法改定においては、環境負荷軽減については、何カ所かで言及されているが、有機農業という文言がどこにもないのは、みどり戦略との整合性が大きく問われるのではないか。

相変わらずの規模拡大、輸出、スマート農業~誰の利益?

農家の平均年齢が68.4歳という数字は、あと10年足したら、日本の農業・農村が崩壊しかねない、ということを示しており、さらに、今、コスト高を販売価格に転嫁できず、赤字に苦しみ、酪農・畜産を中心に廃業が後を絶たず、崩壊のスピードは加速している。世界情勢の悪化で、海外からの輸入が滞るリスクが増大している中、不測の事態に国民の命は守れるのか。我々に残された時間は少ない中で、結局、それに正面から応える政策になっているかが問われる。

「市場原理主義」(貿易停止時に命を守る安全保障コストが勘案されていない)では、いざというときの国民の命は守れないことも明白になったのではないか。コロナ禍でも反省したのではなかったか。このままでは、逆の流れが加速しかねない。

ゲイツ氏などのIT大手企業らが描くような無人の巨大なデジタル農業がポツリと残ったとしても、日本の多くの農山漁村が原野に戻り、地域社会と文化も消え、食料自給率はさらに低下し、不測の事態には超過密化した拠点都市で疫病が蔓延し、餓死者が続出するような歪(いびつ)な国に突き進むのか。

そして、コスト高に苦しむ農家の所得を支える抜本的仕組みは提案されないまま、相変わらずの、「規模拡大によるコストダウン、輸出拡大、スマート農業」が連呼される現状に違和感を覚える。それが現状の危機への対策なのか。企業利益につながっても、どれだけ農家の利益につながるのか。

輸出の前に脆弱化する国内供給をどうするかが先だということが当然であるし、仮に、輸出が伸ばせても、農家の手取りが増えて、所得が増えるわけではない。多くは輸出に関わる企業の利益である。

また、スマート農業が現場で農家に有効に活用できる範囲は多くはないというのが現場の農家の実感と聞く。これも、関連企業への税制や金利の優遇で、企業支援の要素が強い。

さらに、これまで半分未満でないと認めなかった農業法人における農外資本の比率を2/3未満に引き上げて、農外資本の農業参入を緩和する。本当に農村現場を見ているとは思えない。誰の利益を考えているのか?

輸入途絶リスクが一段と高まり、「国民が必要とし消費する食料はできるだけ国内で生産すること」(国消国産)が今こそ重要になっている。規模拡大によるコストダウン、輸出拡大、スマート農業、海外農業生産への投資を否定はしないが、まずは、コスト高で疲弊が強まる農村現場を支え、早急に食料自給率を高める政策の提示が必要ではないか。国民の食料と農業・農村を守るために今が正念場である。今後の議論に期待したい。

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