【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「コメ不足」「バター不足」を猛暑のせいにするな~農家を苦しめる政策が根本原因2024年7月4日
過剰を理由に買いたたき、こんどは足りぬ?
過剰、過剰と言われたコメが、突如足りないと言い始めた。昨年の猛暑による減産・品質低下と訪日客の急増による需給ひっ迫と言われるが、猛暑などの異常気象は頻度が高まっているし、インバウンドも、コロナ前に戻った部分が大きいのだから、想定外とは言い難い。
根本原因は別にある。過剰在庫を理由に、①生産者には生産調整強化を要請し、②水田を畑にしたら1回限りの「手切れ金」を支給するとして田んぼ潰しを始め、③農家の赤字補填はせず、④小売・流通業界も安く買いたたくから、農家が苦しみ、米生産が減ってきているのが根底にある。
さらに、⑤増産を奨励し、コメの政府備蓄を増やしていれば、その放出で調整できるのに、それをしないから、対応できないのだ。
国内酪農を疲弊させ、輸入で賄う愚
酪農も同じだ。過剰、過剰と言われたが、バターが足りないと言い始めた。昨年の猛暑による減産のせいだと言うが、根本原因は別にある。過剰在庫を理由に、①酪農家には減産を要請し、②乳牛を処分したら一時金を支給するとして乳牛減らしを始め、③酪農家の赤字補填はせず、逆に、脱脂粉乳在庫減らしのためとして酪農家に重い負担金を拠出させ、④小売・加工業界も乳価引上げを渋ったため、廃業も増え、生乳生産が減ってきているのが根底にある。
さらに、⑤増産を奨励し、政府がバター・脱脂粉乳の政府在庫を増やしていれば、その買い入れと放出で調整できるのに、それをしないから、対応できないのだ。その結果、酪農家を苦しめた失政のツケを、さらに輸入を増やすことで、いっそう酪農家を苦しめる形で対応するというのだから、あきれる。輸入を国産に置き換えて自給率を高めるべきときに、国産を減らさせて輸入で賄うという「逆行政策」が進んでいる。
農家がどれだけ苦しんでいるか
どれだけ、稲作農家が苦しんでいるか。実際に、農水省公表の経営収支統計を確認すると、農家の疲弊の厳しさに驚く。2020年で、稲作農家が1年働いて手元に残る所得は1戸平均17.9万円で、自分の労働への対価は時給にすると181円、2021年、2022年は、両年とも、所得は1万円、時給で10円というところまで来ている。
ある稲作農家は話してくれた。「家族農業の米作りは自作のコメを食べたい、先祖からの農地は何としても守るという心意気だけが支えているように感じています」と。
酪農経営も深刻な事態である。酪農経営では、平均で所得はマイナス、特に、酪農業界を牽引して規模拡大してきた最大規模階層(平均330頭)では、赤字が平均で2,000万円を超えている。
今後も放置すると「基本法」で定めて、果ては「有事立法」
さらに、25年ぶりの農業の憲法たる「基本法」の改定で、誤った政策を改善するどころか、政策は十分であり、潰れる者は潰れればよい、農業・農村の疲弊はやむを得ない、一部の企業が輸出やスマート農業で儲かればそれでよい、という方向性を打ち出した。
しかも、この深刻な総崩れの事態を放置して、支援策は出さずに、有事には、罰則で脅して強制増産させる「有事立法」を準備して凌ぐのだという。そんなことができるわけもないし、していいわけもない。
フードテックの推進も、今頑張っている農業を地球温暖化の主犯として、農家の退場を促すかのようにして、一部の企業の次の儲けにつながる、昆虫食、培養肉、人工肉、無人農場などを推進するとしている。
今、農村現場で頑張っている人々は支援せず、支えず、農家を退場させて、一部の企業の利益につながるような政策を推進するというのは、フードテック推進も、改定基本法にも共通する流れだ。
このようなことを続けたら、農業・農村は破壊され、国民に対する質と量の両面の食料安全保障も損なわれる。これほどに日本の地域と国民の命をおろそかにしてまで一部企業の利益を重んじることが追求される。どうして、ここまで「今だけ、金だけ、自分だけ」の政治になってしまったのだろうか。
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