能登を救わずして地方創生なし 【小松泰信・地方の眼力】2024年10月23日
「正直、衆院選どころではなく、どの人に託すかは決めかねている」と語るのは、石川県珠洲市で最大の農業法人「すえひろ」の末政博司社長。(毎日新聞、10月22日付)

農業支援は国土支援
 「すえひろ」には、7月に訪問し、地震の被害の状況とそこからの立ち直りの過程をうかがった。能登豪雨の報道を聞く度に、無事であれと願うばかり。被災状況を知るのが怖くて電話一本かけておらず、今回の被害実態を新聞で知ることに。面目ない。
 今季は115ヘクタールの田んぼに稲を植えるはずだったが、地震で農地や水路などに大きな被害が出た。被災した水路に仮設のポンプを設置するなどの復旧作業をして、やっとの思いで83ヘクタールに作付けた。米価の好転が見込まれ、米の品質も良好で、明るい兆しが見えていた中での豪雨。事務所1階の床は泥だらけ。倉庫にあった、収穫直後の米6トンや特産の「能登大納言小豆」などの農産物、農薬を散布する際に使うドローン、米を保管する袋約5千枚などの資材が水につかった。
 末政氏は、「農業の復興に力を入れてほしいと思っているが......。今は、目の前の農地が復旧できるか、従業員がいつまで我慢して残ってくれるのか、というような状況で先が見えない」と、苦しい胸の内を吐露する。
 選挙戦で「防災庁」の設置が語られるが、「被災者を少しでも助けてくれるならいいことだと思う。でも、今は会社がいつまで持つかの方が心配です」との言葉が胸に突き刺さる。
 「被害の全容はまだ把握できていない。来年の作付けは、どれくらいできるだろうか......。地震の被害がかわいらしかった」と、不安と豪雨がもたらした災禍のえげつなさを教えるのは従業員の政田将昭氏。政田氏は、7月の取材時に被災現場を案内しながら、「震災で、この国の農業の潜在的課題が加速度的に顕在化している。能登農業の問題を解決しない限り日本農業の問題は解決しない」と、鋭い指摘をしてくれた。
 「すえひろ」が来秋、曲がりなりにも実りの秋を迎えることができるよう、徹底的な支援が不可欠である。それは、一農業法人の支援を間に挟んだ、傷みきった地域、そして国土への支援である。
地域スーパーは貴重なライフライン
 NHKおはよう日本(10月22日7時台)は、輪島市町野町でスーパーを営む本谷一友氏の苦闘の日々を伝えた。9月の豪雨で近くを流れる川が氾濫し、大量の水と土砂が店舗内に流れ込む。その惨状を見たときは受け入れることができず、「ただ傍観するだけ」だったとのこと。地震で被災したものの、何とか営業を続けてきたが、今度ばかりは営業休止に追い込まれた。
 営業再開のめどが立たない中、つながりのある全国各地の人たちから支援物資が届き続けている。氏は倉庫を開放し、その物資を地域の方々に配っている。
 スーパーの敷地内では炊き出しも。本谷氏とつながりのある料理人などが金沢市や全国から10人以上集まっての取り組み。そこに100人近くの住民が集まり賑わっている。
 「ここに来るとみんな活気があるじゃないですか。それにみんな救われています。活気がなかったら〝町野〟じゃないよ」とは男性参加者。
 本谷氏は、「〝またスーパーさん頑張って〟そういう人たちの思いも背負っているし、思いに応えたい。ここ(町野町)にもう一回明かりをともすこと。規模は小さくても明かりをともすことが僕の責任のとり方だと思う」と決意を語る。
 地域スーパーは、地域住民に食料を供給する貴重なライフライン。多方面からの支援なくして復旧なし。とりわけ細やかで手厚い行政からの支援は不可欠である。
行政が廃校で荒廃に拍車をかける
 ところが行政は、こんな現場の涙ぐましい努力に水を差すような動きを示している。
 輪島市において、市立小学校全9校を3校に再編する案が検討されていることを読売新聞(10月21日付)が報じている。
 その理由は、少子化に加えて地震による人口流出で児童数が急減していることや、地震で損傷した全校を修繕する財政的余裕がないこと。統廃合の検討は、有識者らの委員会が昨秋から進めてきた。再編案は今月下旬に予定される会議で示される見込み。
 和光大の山本由美教授(教育行政学)は、「学校には、避難場所や地域作りの拠点という役割もある。統廃合は、輪島市のような被災地ではなおさら、住民の合意形成を丁寧に図ることが不可欠だ」「学校統廃合は、さらなる人口流出と過疎化を招く恐れもある。長期的な自治体経営への影響も考慮する必要がある」とコメントしている。
 まったく同感。学び舎である小学校の廃校は、心の空洞化を地域住民にもたらし、地域の荒廃を加速させる。そして、重要な避難場所。まさに、地域の人々にとっての貴重な心身のよりどころである。目指すべきは、廃校ではなく、施設の充実化。
JAは遠きにありて困るもの
 日本農業新聞(9月1日付)の論説は、鹿児島県のJAあいらが、7月に管内の霧島市内に整備した子会社の事務所を、市との包括連携協定に基づき、一時避難所として提供できるようにしたことを紹介している。市と協議し、事務所内にはプライバシーを保つパーテーションや段ボールベッド、発電機を完備。災害発生時には市職員も駐在し、最大48人が3日間生活できるとのこと。台風10号の接近時にも住民12人が利用したそうだ。
 神奈川県全域・東京多摩地域の地域情報紙「タウンニュース」(秦野版、7月19日公開)によれば、神奈川県秦野市の西地区自治会連合会(関野辰夫会長)とJAはだの西支所が7月2日、地域振興・地域貢献や災害時の協力を目的とした協定を締結した。  
3月に関野会長が申し入れし、実現したそうだ。JAの農産物直売所「じばさんず」への出荷者でもある関野氏は、「両組織(小松注;JAと自治会)の良いところを活用していけば、より地域のためになるのでは」と考えていた。1月に起きた能登半島地震などの大災害を踏まえ、災害時に協力体制が取れるようにするため、日々の交流を通じた地域連携も目的としている。
 8月末、当コラムが属しているJAの支所が統廃合によって閉所。形容しがたき喪失感あり。JAは遠きにありて困るもの。 
 JAあいらの子会社事務所のように必要な物資をストックすることで、まさかの時に多くの人を助けることができる半公共的施設となる。行政も、施設整備に助成することで新規投資は不要。防災庁以前に、今できること、今すべきことはたくさんある。
 「地方の眼力」なめんなよ
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