原発再稼働は災禍をもたらす【小松泰信・地方の眼力】2024年12月11日
12月7日、中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)が原子炉を起動し、12年11カ月ぶりに稼働。
不安と不信の中での再稼働
「『ついにやって来た』と喜ぶのか『とうとう来てしまった』と嘆くのか。山陰両県民の受け止めは分かれるだろう」で始まるのは、山陰中央新報(12月7日付)の論説。
「エネルギー資源の乏しい日本の状況を見れば分からなくもないが、今も県外へ避難し、福島に帰れない被災者の気持ちを思うと、簡単には割り切れない」とした上で、再稼働をテーマに同紙(11月7日付)に掲載した読者投稿の一部を紹介している。
「電力供給が逼迫していると思えない中、なぜ再稼働しなければならないのか」
「避難計画の不備が露呈した能登半島地震を思うと、同じような条件にある島根半島で、原発事故時に避難できるか心配だ」 50通あった読者投稿のうちの約9割が再稼働に否定的な内容だった、とのこと。
避難の問題や、「核のごみ」の最終処分場の確保も全くめどが立っていないことなど、「いくつもの課題が積み残しにされた中での"見切り発車"では、いくら安定供給やコスト安をアピールしたところで、国民の納得も共感も得られまい」とする。
さらに、中国電力が11月22日、島根原発で実施した工事2件で、港湾法に基づいて必要な島根県への届け出をしていなかったことを、「信頼を損なう行為で、周辺住民の不安を払拭するどころか、増幅させかねない」と指弾し、「再稼働するのなら、住民の信頼確保と安全最優先が大前提」と正論で迫る。
同紙(12月8日付)には、識者2人の談話が紹介されている。その要点は次の通り。
藤堂史明氏(新潟大教授・環境経済学)は、「原発は立地自治体に経済効果をもたらすと言われるが、(中略)地域を活性化するほど波及しないのが実情だ。再稼働の恩恵を受けるのは主に電力会社や株主で、立地自治体は高線量の使用済み核燃料の増加や運転中の事故といったリスクを被る。事故時に住民が受けられる補償も十分ではない」とする。
広瀬弘忠氏(東京女子大名誉教授・災害リスク学)は、「原発の避難計画は、(中略)現状の計画では不十分だ。(中略)国の支援は足りていない。島根原発は近くに県庁や県警など重要な施設が集中している。事故が起きれば行政は混乱するだろう」とする。
原発より再生可能エネルギー
広島市に本社を置く中国新聞(12月7日付)の社説は、島根原発が全国で唯一、県庁所在地に位置し、島根・鳥取両県にまたがる原発30キロ圏内には約45万人もの住民が暮らしていることから、事故発生時の避難誘導が円滑に進むのか、とりわけ島根半島部に住む約65000人の誘導に疑問符を投げかける。なぜなら、「能登半島地震では北陸電力志賀原発の半島部の避難路が寸断され、屋内避難して放射線を避ける家屋の多くも被災した」からだ。
島根県の丸山達也知事が会見で「防災対策・避難対策を、残念ながら政府は大したことだと思ってない」と不満を述べたことを紹介し、「避難計画や安全対策に政府は十分な目配りと支援をするのが当然」と訴える。
また、「そもそも原発より再生可能エネルギーを推進するべきだろう」とした上で、「中国地方は再エネ事業者に発電制御を求める出力調整が全国の10エリアで3番目に高い。島根2号機再稼働で原発の発電比率が増し、再エネがさらに抑えられる事態になれば本末転倒ではないか」「再エネ発電をあえて抑制してまで2号機再稼働を急ぐ必要がどこまであるのか。30年度までにさらに3号機の運転開始も目指す中電の方針に説得力は感じられない」と厳しく迫る。
避難計画は「絵に描いた餅」
岡山市に本社を置く山陽新聞(12月7日付)の社説は、事故時の司令塔となる島根県庁が原発から10キロ以内に立地しているため、「避難指示が出された場合、県庁機能を市外へ移さなければならない」として、「立地条件から見て多くの課題を抱えた原発だ」と断じる。
能登半島地震において、石川県の北陸電力志賀原発の半径30キロ圏内で道路が寸断され150人以上が孤立。家屋倒壊が相次ぎ、屋内退避すら難しい状況だったことに言及し、「避難計画が『絵に描いた餅』であることを浮き彫りにした」とする。
日本が地震多発国であることから、「地震と原発事故が同時に起きる複合災害への対策が不可欠」と指摘する。しかし、「避難計画の策定は自治体に委ねられ、規制委の審査対象には含まれない」ことに疑問を呈し、「政府が原発の活用を進めるというのなら、避難計画の実効性を政府自身が責任を持って検証する仕組みを構築すべきではないか」と、政府に責任ある対応を求める。
東京新聞(12月8日付)は、避難時に要支援高齢者が、推計約4万人と他の原発立地地域に比べて多いことに注目する。
「事故が起きれば、籠城するしかないと思っている。ただ、電気や水が止まったら、籠城することも難しくなってくる。事故が起きないことを祈るしかない」と語るのは、島根原発から約11キロ離れた地域で特別養護老人ホームと軽費老人ホーム(ケアハウス)を運営する社会福祉法人の幹部。
2施設で生活する高齢者は約130人。うち約80人は寝たきりや車いす利用者。施設職員約70人。避難先は200キロほど離れた岡山県内。人手が足りない時には、市が外部から手配することも想定されているが、「本当に来てくれるのか。職員も大変な中、『施設に来てくれ』とは言えない」と本音を語る。
松江市原子力安全対策課の担当者は「県内の施設やタクシー会社と協定を結び福祉車両を派遣できるようにしている。中国電力の社員も運転手役になることも決まっている」と語っているが、画餅に帰す可能性大。
原発は廃炉へ
日本海新聞(12月11日付)によれば、中国電力の中川賢剛社長は10日の会見で、実効性の問題が指摘されている自治体の避難計画について「2県6市で複合災害を想定した避難計画が作成され、われわれもその中で必要な役割を果たしたい。今後も自治体の訓練に参加し、安全性向上、避難計画の高度化に貢献したい」との考えを示した。
原発は、異次元の避難計画を必要とする時点で迷惑施設そのもの。ひとたび重大事故が発生すれば、過酷な避難行動と避難生活を人びとにもたらすことは明らか。これほど災禍をもたらす原発を存在させる理由はない。廃炉あるのみ。
原子力規制委員会の審査会合で、安全追求への姿勢が不十分だと厳しく指摘されることが少なくなかった札付きの中国電力。
そのトップが語る、他人事然とした言葉を信じる者は救われない。
「地方の眼力」なめんなよ
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