北陸電力志賀原発が発する警告【小松泰信・地方の眼力】2024年12月18日
前回の当コラムは、「これほど災禍をもたらす原発を存在させる理由はない。廃炉あるのみ」と断じた。この判断に間違いがないことを、見応えのあるドキュメンタリー番組が教えてくれた。
破綻した避難計画
それは、「揺らぐ避難計画。住民の安全を守ることはできるのか?傷ついた道路が問いかけています」のナレーションで始まる「テレメンタリー2024『地震と原発 〜住民避難計画の現実〜』(12月15日瀬戸内海放送、制作著作は北陸朝日放送)。
番組の中核を担ったのは、北陸電力志賀原子力発電所から直線距離およそ10kmの志賀町富来地区に暮らす堂角直友氏。
「今回、現実に道路がストップしてしまう。ヘリも飛ばない。そんな状況で絶対無理ですよね。避難は。海は逃げられない。山も逃げられない。現実的にね、避難する方法はないと思います。正直」と、原発周辺における避難計画の現実が浮き彫りになったことを語っています。
原子力規制委員会が定める原子力災害対策指針では、原発が全面緊急事態に陥った場合、5キロ圏内の住民は即時避難、5キロから30キロ圏の住民は屋内退避と定めている。これを踏まえて策定されたのが、石川県や志賀町の避難計画。しかし、地震で交通網が寸断された。さらに、放射性物質の拡散があった場合、堂角氏が住む富来地区の住民の避難先は、半島のより先端に位置する能登町となっている。しかし同町は、最大5メートルの津波に襲われることに。もし志賀原発に重大事故が生じていても、避難者を受け入れることはできず、富来地区の住民は逃げ場を失い、間違いなく被曝したはず。
心もとない町の復興計画
10月6日、志賀町が復興タウンミーティングを開催。町策定の復興計画には、避難計画に関する記述無し。
堂角氏は、「現実にあの地震で逃げる場所もなければ、道路も被災してまったく動けない。この状況の中で、町として志賀原発をどのように捉え、そしてこれから稼働していくにあたり、私たち町民の本当に安全を守る、そのための議論がなされているのか。ここが全く、今これ見ましても原発問題が入っていない」と、町に鋭く迫る。
「道路の強靱化ということが、全くもろく崩れ去ってしまったということで、国に道路の強靱化であったり、迂回路であったり、そういったことを強く要望しているところです」と回答するのは、町の環境安全課長。町長も、同様の回答。
もちろん、堂角氏が納得できるものではない。
集団的な無責任体制
原子力規制委員会が定める原子力災害対策指針に基づいて避難計画は策定されるが、同委員会はその責任の重さに自覚なし。
地盤隆起などに関する現地調査で石川県に来た、石渡明氏(来県時、同委員会委員)は、記者から避難計画の見直しについて問われ、「避難に関しては、規制委員会が主体的にやるのではなく、内閣府がやるので、そちらにお聞き下さい」と回答。
山中伸介氏(同委員会委員長)も2月14日の会見で、道路の寸断問題や家屋倒壊時の対応などについては「われわれの範疇外」と明言し、原子力災害対策指針の大幅見直しは行わない方針であることを語った。11月13日の記者会見においても、大幅な見直しの必要性を認めなかった。
具体的な避難計画などの原子力防災を管轄する内閣府の原子力防災担当者が、記者に「住民の方々へのご理解を求めながら、計画の実効性を高めていくことが大事」と答えるに至っては、「何を理解したらいいの?」との疑問が湧くのみ。最後に、原発災害がいま発生したとして、避難計画が実行できると思うかと問われて、「それは『できる』じゃなくて、『やる』っていうことだとおもいます! はい」と精神論で締めくくる。
原発防災を専門とする上岡直見氏(環境経済研究所代表)は、このような関係者の姿勢を「集団的な無責任体制」と呼び、国、地方自治体、そして発電事業者、それらの責任の押し付け合いがあって避難計画などの議論に空白が生じていると分析する。
あいまいな責任と裏付けのない決意。
11月24日、石川県原子力防災訓練が、住民不在で実施された。
「こういう訓練を続けていくことで、安全な避難はできそうですか?」と記者から問われた馳浩石川県知事も、「『できそうですか』じゃなくて、『しなければいけない』」と精神論で締めくくる。
2日後の26日夜、訓練の成果に探りを入れるかのように石川県西方沖を震源とする地震が発生。志賀町は震度5弱の揺れ。
堂角氏は、「町に言えば県。県に言えば国。そんな形で逃げていくんでしょうけどね。あれでは、私たち志賀町そして、住民として、原子力発電所がある立地として、納得いかないですよね。昨日の地震でつくづく感じました。怖いね」と語る。
「あいまいな責任。そして裏付けのない決意。避難計画への不安が拭えないまま、能登半島は今も揺れ続けています」という、見事なナレーションで番組は終わる。
危険や不安を感じる国民がいることを忘れるな
12月17日、経済産業省は、国の中長期のエネルギー政策の方針を示す新しい「エネルギー基本計画」の改定案を公表した。2040年度には再生可能エネルギーの割合を「4割から5割」程度、火力発電を「3割から4割」程度、原子力発電を「2割」程度とする。再エネを初めて"最大の電源"と明確に位置付けたものの、原発については、東日本大震災以降盛り込まれてきた「可能な限り依存度を低減する」という文言を削除し、脱炭素電源として最大限活用する方針などが示された。
原発活用の論拠とされるのが、データセンターや半導体工場などの新たな需要ニーズ。
しかし、西日本新聞(12月16日付)の社説は、「半導体工場の新設と原発推進を結び付ける主張には違和感がある」とする。なぜなら、熊本県に進出した業界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は「再生可能エネの利用100%を目指す企業グループ『RE100』のメンバー」で、「このグループに名を連ねる米IT大手アップルは取引先に対し、使用電力を全て再生可能エネに切り替えるよう働きかけている」からだ。
そして、「名だたる企業群は原発ではなく、再生可能エネを求めている」として、「原発は危険な放射性廃棄物を生み、巨大事故のリスクがある。(中略)危険や不安を感じる国民がいることを忘れてはならない」と訴える。まったく同感。
「地方の眼力」なめんなよ
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