【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】サツマイモを消せば世論が収まると考えたお粗末さ2025年1月24日
国際情勢は、お金を出せばいつでも食料が輸入できる時代の終わりを告げている。かたや、日本の農家の平均年齢は68.7歳。あと10年で日本の農業・農村の多くが崩壊しかねない深刻な事態に直面している。しかも農家は生産コスト高による赤字に苦しみ、廃業が加速している。これでは不測の事態に子ども達の命は守れない。私達に残された時間は多くない。
しかし、昨年、25年ぶりに改定された「食料・農業・農村基本法」における政府側の説明は、これ以上の農業支援は必要ないというものだった。
農業就業人口がこれから減る、つまり、農家が潰れていくから、一部の企業などに任せていくしかないような議論は、そもそもの前提が根本的に間違っている。今の趨勢を放置したらという仮定に基づく推定値であり、農家が元気に生産を継続できる政策を強化して趨勢を変えれば、流れは変わる。それこそが政策の役割ではないか。それを放棄した暴論である。
いや、一つ考えてある目玉は「有事立法」(食料供給困難事態対策法)だという。普段は頑張っている農家にこれ以上の支援はしないが、有事になったら命令だけする。野菜を育てている農家の皆さんも一斉にカロリーを生むコメやサツマイモなどを植えさせる。その増産命令に従って供出計画を出さない農家は処罰する。支援はしないが罰金で脅して、そのときだけ作らせればいいと。こんなことができるわけもないし、やっていいわけもない。
今、頑張っている人への支援を強化して自給率を上げればいいだけの話なのに、それをしないでおいて、いざというときだけ罰金で脅して作らせるという「国家総動員法」のようなお粗末な発想がどうして出てくるのか。
しかも、サツマイモが象徴的に取り上げられて世論の批判を浴びたからと、増産要請品目リストからサツマイモを消しておけばよいだろうと、国はサツマイモを消した。サツマイモを消しても「悪法」の本質が変わるわけではないのに、なんと姑息でお粗末な発想だろうか。
もう一つ、農家のコスト上昇を流通段階でスライドして上乗せしていくのを政府が誘導する「強制的価格転嫁制度」の導入が基本法の目玉とされたが、参考にしたフランスでも簡単ではなく、小売主導の強い日本ではなおさらで、すぐに無理だとわかり、どうお茶濁すかの模索が始まった。法律もつくり、相応の予算を付けて、コスト指標を作成し、協議会で価格転嫁に取り組みましょう、と掛け声をかけるだけだ。こんな実効性のないことに法律をつくり、予算を付けるのは、ごまかしのためだけの無駄金だ。
価格転嫁というが、消費者負担にも限界があるから、生産者に必要な支払額と消費者が支払える額とのギャップを直接支払いで埋めるのこそが政策の役割なのに、財政出動を減らして民間の努力に委ねようとする。
とにかく、ことごとく、食料・農業・農村への予算を何とか出さないようにしようという姿勢が至る所に強く滲み出ている。それが財政当局の圧力であることは、最近、見事に確認できた。
2024年11月29日に公表された財政審建議で、財政当局の農業予算に対する考え方が次のように示された。
1. 農業予算が多すぎる
2. 飼料米補助をやめよ
3. 低米価に耐えられる構造転換
4. 備蓄米を減らせ
5. 食料自給率を重視するな
そこには、歳出削減しか念頭になく、呆れを通り越した、現状認識、大局的見地の欠如が露呈されている。食料自給率向上に予算をかけるのは非効率だ、輸入すればよい、という論理は危機認識力と国民の命を守る視点の欠如も甚だしい。
財政当局の誰に聞いても、日本のやるべきことは2つしかないと言う。
① 増税
② 歳出削減
これでは負のスパイラルになるに決まっている。今が財政赤字でも、命・子供・食料を守る政策に財政出動して、みんなが幸せになって、その波及効果で好循環が生まれて経済が活性化すれば財政赤字は解消する。
今、「住むのが非効率な」農業・農村の崩壊を加速させ、人口の拠点都市への集中と一部企業の利益さえ確保すれば「効率的」だとする動きが、改訂基本法だけでなく、全体に強まっている懸念がある。
能登半島の復旧支援に行かれた方はわかると思うが、1年たっても復旧していない。国は金を切ってきている。「もう住むのはやめたらいいじゃないか。漁業も農業もやめてどこかに行け」と思わせるような状態だ。また、全国各地で、台風で被害を受けた水田に対して復旧予算を要求したが出さないと言われたという声も聞く。
もっと驚いたのが、「消滅可能性自治体」(人口戦略会議)のレポートだ。よく読んでみると「消滅しろ」と書いてあるという。そんなところに無理して住むのは金がもったいないから早くどこかへ行けという論調だ。目先の効率性だけでみんなの暮らしを追いやり、農村・漁村を住めないような状態にしてしまえば、日本の地域の豊かな暮らしや人の命は守れるわけがない。「目先の銭金だけの効率性」にこれ以上目を奪われたら、日本の子どもたちの未来は守れない。
重要な記事
最新の記事
-
協同の営みで地域再興 茨城県JA常陸組合長 秋山豊氏(2)【未来視座 JAトップインタビュー】2026年2月17日 -
農研機構とJALグループが包括連携協定 イチゴ起点に世界へ発信2026年2月17日 -
消えた先物価格を活用した収入保険Q&A【熊野孝文・米マーケット情報】2026年2月17日 -
JAタウン「ココ・カラ。和歌山マルシェ」対象商品が20%OFF2026年2月17日 -
くだもの王国おかやまのブランドイチゴ「岡山県産晴苺フェア」開催 JA全農2026年2月17日 -
【中酪1月販売乳量】3カ月連続減産 受託酪農家9331に2026年2月17日 -
【消費者の目・花ちゃん】「ぬい活」と農体験2026年2月17日 -
【浅野純次・読書の楽しみ】第118回2026年2月17日 -
「ファーマーズ&キッズフェスタ2026」に出展 2月28日・3月1日、代々木公園で農業機械展示 井関農機2026年2月17日 -
日鉄ソリューションズと「農産物流通のビジネスモデル変革」事業提携契約を締結 農業総研2026年2月17日 -
女性部員が高校生に伝統料理を伝授 JA鶴岡2026年2月17日 -
国産ジビエの魅力発信「全国ジビエフェア」28日まで開催中2026年2月17日 -
香港向け家きん由来製品 北海道ほか5県からの輸出再開 農水省2026年2月17日 -
2026年度第10回「バイオインダストリー大賞・奨励賞」応募受付中 JBA2026年2月17日 -
「全国やきいもグランプリ2026」チャンピオンは「尾張芋屋 芋吉」2026年2月17日 -
「生活協同組合ユーコープ」と個別商談会を開催 山梨中央銀行2026年2月17日 -
富山のおいしい食と技が集結「とやま農商工連携マッチングフェア」26日に開催2026年2月17日 -
農機具全般のメンテナンスに「ファーマーズアクリア 農機具クリーナーストロング」新発売 ニイタカ2026年2月17日 -
日藝×生活クラブ 産学連携プロジェクト2025年成果発表会を開催2026年2月17日 -
日清オイリオとキユーピーが協働 油付きPETボトルの水平リサイクル技術を検証2026年2月17日


































