【浜矩子が斬る! 日本経済】『今のため』か『念のため』か~令和の米騒動をどう謎解きするか2025年5月21日
「令和の米騒動」は謎だらけだ。ことの本質はどこにあるのか。
エコノミスト 浜矩子氏
問題は米に関する供給力不足なのか。そうだとしたら、米離れが進んでいるといわれる中でなぜ? 流通経路に不備があるのか。そうだとしたら、隘路(あいろ)はどこにあるのか。はたまた、地球環境の変動がもたらす異常気象が問題なのか。あるいは、日本の農政のどこかに時代錯誤的な歪みが潜んでいるのか。筆者の知識不足と勉強不足のなせる業である面が多分にあるが、謎は深まるばかりだ。
こんな具合に頭を抱えているさなかに、江藤拓農林水産大臣の爆弾発言問題が持ち上がった。この発言のおかげで、江藤氏はたった今、辞任に追い込まれたばかりだ。この顛末については、後ほど立ち戻りたい。
問題の核心を見極めようとする中で、筆者の頭の中に次の二つのフレーズが浮かび上がってきた。「ジャスト・イン・タイム(just in time)」と「ジャスト・イン・ケース(just in case)」だ。ジャスト・イン・タイムは「ちょうど間に合う」の意だ。トヨタの看板方式を英語でこう呼ぶ。それに対して、ジャスト・イン・ケースは「念のため」だ。まさかの時のために、抜かりなく用意しておく。備えあれば憂いなし。「念のため」と対をなす形でジャスト・イン・タイムを言い換えれば、「今のため」という感じになる。
「今のため」方式は効率性を重視し、無駄を極力省き、過剰供給の発生を回避する。「念のため」方式は、継続性を重視し、ゆとりを持つことに気を配り、供給不足の発生を回避する。モノもサービスも供給体制が国境を越えて広がり、その管理体制が高度化する中で、グローバル経済は「今のため」方式に大きく依存するようになった。ところが、この広大なジャスト・イン・タイムの体制が、コロナ感染やロシアのウクライナ侵攻によって大激震した。その結果、「今のため」的綱渡りが「念のため」的安全指向に切り替えられつつある。世界経済的に、そんな現状がある。米の供給体制については、どうなのか。
筆者の理解に間違いがなければ、日本の米生産は「今のため」方式に向かって効率化と生産調整を進めることで、過剰供給による価格崩壊を回避しようとして来た。全般的に経済体制が自由化に向かい、米の輸入も限定的ながら解禁される中で、日本農業の存立の安泰をどう確保するか。この問題意識が渦巻く中で、今の米の日本型サプライチェーンが出来上がって来た。そういうことではないか。
そうだとすれば、このサプライチェーンは今、大いなる試練に当面している。綱渡りの安定供給を追求しているところに、突如として綱渡りが通用しない事態が持ち上がった。これは、あくまでも一時的な気象条件による突発的な状況なのか、長年にわたる綱渡りの中で次第に形成されて来た需給バランスの脆弱化によるものなのか。浅学な筆者にはこの見極めがつかない。
だが、一つ間違いない点がある。「今のため」方式の流通リレーは、ひとたび、そのどこかに変調が生じれば極めてもろい。「今のため」リレーだったはずなのに、リレーの髄所に「念のため」姿勢が芽生えてしまった。そのため、ついに正真正銘の「念のため」の備蓄米を放出せざるを得なくなった。ただ、盛んに言われる通り、問題が「流通の目詰まり」なのであれば、「念のため」を取り崩してまでの量的供給拡大は、果たして適切な対応なのか。
最後に、爆弾発言問題について一言、付け加えておきたい。江藤氏の「米買ったことない。」発言については、もっぱら、その不適切性が指摘されている。だが、問題は発言としての不適切性ばかりではないだろう。江藤氏をして、あのように言わしめる支援者サポートが本当にあるのだとすれば、そこにも重大な不適切性があるように思われる。
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