歯止めがかからないスポット価格の下落と7年産米動向【熊野孝文・米マーケット情報】2025年6月10日
随意契約の備蓄米がスーパーやコンビニの店頭に並び始めてから市中で取引される6年産米のスポット価格は急激に値下がりはじめ、週明けにさらに下げ足が加速して各産地銘柄とも高値時に比べ1俵1万円以上値下がり、まさに「暴落」という表現がぴったりの状況になっている。短時日の間に1万円以上値下がりするというのは平成5年産米(1993年産米)の大不作により、市中価格が高騰、翌年の緊急輸入や平成6年産米(1994年産米)の豊作で生産量が増えて急落した以来のことで31年ぶりの出来事。平成5年産米の大不作によるコメ価格高騰と令和のコメ不足による価格高騰が決定的に違うのは、今回は大不作という供給面の大きな変動はなかったにも関わらず、需給の不安定化をもたらしたことで、明らかに人為的な政策の失敗に原因があることが極めて重大だ。
東西の仲介業者がコメの売買するために米穀業者に発信している売り買い情報を見ると、先週から下げ足が加速した6年産各産地銘柄の価格は、週明けにさらに値下がりして、売り唱えでは関東コシヒカリは3万6000円台、比較的高値が通っていた秋田あきたこまちも3万8000円台、雑銘柄は3万5000円を割り込んだ銘柄もあり、軒並み大きく値下がりしている。これに対して買い注文は少なく、希望価格は関東コシヒカリで3万2000円台、新潟コシヒカリでも3万8500円と言った唱え値で、売り買いの唱え値の差が大きく開いている。
スポット市場の先行きの値動きを予想するのは当業者でも至難の業であるが、食管時代でも同じように「自由米取引」という名で売り買いされていたという長い歴史がある。その時、政府が抱える過剰米の処理の一環として「徳用上米」などと言った名称で古米を安値で売却するケースがあった。そうした古米の売却がなされたときコメ業界では「悪貨が良貨を駆逐する」という経済用語を持ち出して、銘柄米の価格下要素になると盛んに言われていた。今や食管時代の自由米相場を知る人も少なくなったが、現在起きている現象はまさに「悪貨が良貨を駆逐する」というグレシャムの法則がピタリ当てはまる。
備蓄米を買い受けた米穀業者がまず行うのは、入荷した備蓄米の品位や食味のチェックである。分析を行った米穀業者が結果について「正直驚いた」というので、その分析データを送ってもらった。そのデータには、わかりやすく備蓄米4年産福井ハナエチゼン、6年産富山コシヒカリ、栃木コシヒカリの3種類のコメを穀粒判別器で分析した品位データと参考値としてそれぞれの食味値が記されていた。食味値は、備蓄米4年産福井ハナエチゼンが76点、6年産富山コシヒカリが74点、6年産栃木コシヒカリが81点と記されていた。言うまでもなく同じ産地銘柄でも生産者によって品位や食味値が違うのは当然だが、測定した米穀業者は「4年産備蓄米の食味値がこれほど高いとは思わなかった」という。食管時代に売却された古米は臭いがするのが常識であり、食味も劣り、その分、米穀業者や消費者から嫌われたが、この古米を独特の精米方法で臭いを消し、商品として販売、今日の大手卸としての礎を築いた業者もいた。国も品位や食味を落とさない保管技術の開発を進め、現在では低温保管で長い保管期間であっても品位や食味を落とさない手法が開発され、図らずも今回の備蓄米放出で備蓄米は悪貨でないことが証明された。
悪貨でない備蓄米が半値で店頭に並ぶとどうなるのか?敢えて6年産米を良貨というのならそれでも駆逐され、売れ残ってしまうのは言うまでもない。新米が出回る9月末まで6年産銘柄米の販売計画を立てていたところは売れ残って値がつかなくなる前に急いで換金する必要がある。これが現在起きている現象である。ここで最大の問題になるのが、どこで下げ止まるのかにある。このことは新米の収穫時期が近づいている今日、6年産米手持ち業者にとっては最大の関心事で、産地にとっても7年産米にどう取り組むのかの方針に直結する。ひとつ確実に言えることは「最低保証価格」を生産者に提示した時点で価格変動のリスクが発生するということ。
米穀業者の中には、農協系統が生産者に提示した概算金が当面の下値の水準になると見ているところが多い。これまで新米の庭先価格は農協系統の概算金が基準になっていたのだからやむを得ないが、7年産はこうしたこれまでの常識は通用しなくなる可能性がある。それは農協系統の集荷量は商品化されるコメの3分の1を切っており、マーケットの価格形成を左右するほどの力がなくなっていることが第一にあげられる。それに拍車をかけるのは大手資本が7年産から全農系統本部との事前契約を止めて、個別農協と契約する方針に切り替えたことにも現れている。
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