小泉農相の減反廃止策を換骨脱胎しよう【森島 賢・正義派の農政論】2025年7月14日
●減反廃止案を換骨奪胎しよう
小泉進次郎農相が減反廃止を言い出した。減反を廃止し、コメを増産して、農業者に対しては販売金額を増やし、消費者に対しては米価を下げるという。それと同時に、輸出し、あるいは飼料にするというのである。なかなか良い政策だ、と思う人がいるかもしれない。
だが、そうはトンヤがオロさない。
輸出は実現不可能だし、飼料化は法制化する気がない。だから、米価を下げるだけになるだろう。その結果、離農を加速するだろう。そういう最悪の策である。これは、換骨脱胎しなければならない。
●減反は次善の策
さて、小泉農相は、減反を廃止して増産を促進するという。増産して、農家の手取り額を増やそうというのである。耳ざわりだけはいい。販売量が増えれば販売金額も増える、という理由のようだ。
だが、それほど単純なことではない。
昔から、農村には「豊作貧乏」という経験則がある。豊作だ、といって喜んでばかりはいられない、豊作になれば、販売量は増えるが、それ以上に米価が下がるので、掛け算した販売金額は、結局のところ減ってしまう。
そういう苦い経験則がある。これは、市場原理の罪悪である。だから、それを防ぐために、これまで減反を続けてきたのである。
そういう意味で減反は、供給増による米価の下落を防ぐための、次善の策だったのである。小泉農相が、このことを知らぬはずがない。
●輸出振興は目眩しの陰謀だ
どうするのか。そうしないために、輸出を振興するのだという。
だが、これは実現不可能だろう。
輸出振興は、過去32年間、失敗し続けた目くらましの悪政である。今度こそ成功する、というのだろうが、それなら実現できる根拠を示さねばならぬ。だが、その気は全くない。根拠が無いからである。
せめて、輸出先で市場調査を行えばいいのだが、その気配さえもない。せいぜい〇〇国の〇〇町で、日本米が〇〇円ほどの高い価格で売っていた、という程度のものである。そんな、あやふやな根拠ではなく、きちんとした市場調査を行うべきである。そうして、輸出振興による食糧安保の確保、などいう幻想は捨てるべきである。作ったコメは国内で消費するしかないのだ。
●輸出米のほとんどは日本人の現地駐在員が食べている?
筆者の断片的な現地調査では、日本米を買っている人は、日本人の駐在員が圧倒的に多いといっていた。
ちなみに、日本の駐在員の人数は、全日本人の1.04%である。また、全世界に輸出しているコメの量は、日本米の全生産量の1.25%である。ほとんど同じである。
これは偶然の一致だ、というのかもしれない。そうなら、どんな人が、高い日本米を買っているのか、きちんとした市場調査を行って、その結果を示すべきである。事は食糧安保という安全保障に関わる問題なのである。
●コメの飼料化は法制化を急げ
政府は、減反を止めたとき、供給過剰にしないための方策として、過剰米を飼料にすればいい、とも言う。だが、なぜかパンやメンにする、とは言わない。
その上、飼料化とはいうが、それは口先だけで、具体的な法令化と制度化まではいわない。その骨格さえも示さない。これでは、本気かどうか、と疑われてもしかたがない。
●小泉農相の減反廃止策は最悪
ここで、改めて言っておこう。農政の最重要問題は食糧安保である。政府は、このことを何故か忘れているようだ。だから、減反をやめて農家所得を増やすという議論は、浅はかな俗論になってしまう。
それどころではない。小泉農相の減反廃止策は、増産したコメの行き場がない。国内市場に溢れるばかりになる。米価は暴落する。離農が加速する。
小泉農相の減反廃止策は、減反廃止まではいい。だが、離農を加速させる最悪の策である。
●最善の策は、備蓄米を増やしてパン・メン化と飼料化
最善策は何か。何より重要なことは、今度の経験を教訓にした、備蓄米の量の抜本的な拡充である。
かつて、神谷慶治先生が言われたことがある。農政の神様といわれる二宮尊徳は、備蓄米の適正量は、3年分だといった。
いまの在庫量は、47日分しかない。せめて、半年間くらいは食べていける程度の量を備蓄しておくべきではないか。
その上で最善策を構想すれば、それは、備蓄の役割りを果たして古古古米になったコメを、パンやメンにし、または飼料にすることである。そして、法制化することである。
●小泉農相の減反廃止策を換骨奪胎しよう
これは、米価政策の最善策というだけでなく、コメ政策の、そして日本農政の最善策でもある。そして、その中に減反廃止を位置づける。減反を廃止して、コメをパンやメンや飼料にする。
そうすれば、これまで外国からの輸入に依存していた穀物の国内自給率を飛躍的に高めることができる。食糧安保を今より確かなものにできる。
そうすれば、農業者は、勢い込んで増産に励むだろう。
まさに換骨奪胎である。
●小泉農相は農業者と農協への偏見を断て
政府は、公式文書の中の、「意欲ある農家を・・・」などと、差別的というだけでなく、侮蔑的な文言を削除すべきである。意欲のない農業者がJAに巣食っている、などという悪意に満ちた認識を反省し、そうした偏見を断つべきである。
そうすれば、減反廃止は米価政策の最善策というだけでなく、農政の最善策になる。
この策こそが、農政の最重要課題である食糧安保への本道なのである。この道を進むには、農業者の政治への信頼と、政治の農業者への支援が必要不可欠である。
これ以外の道の行き先には、暗い奈落が大きな口を開いて待っている。その底には、大勢の餓鬼がたむろしていて、食糧を外国に依存するしかなく、そのために、外国に隷属する日を待っている。
こんな光景は見たくない。
(2025.07.14)
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