(448)郷愁とノスタルジー【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年8月15日
お盆で帰省した際にふと蘇る昔の記憶、それは郷愁?それともノスタルジー?
郷愁は、どちらかというと自らが経験したかつての生活や時代に対する個人的な懐かしさや恋しさなどを示している。心理的には内面を向き、感傷的な響きを伴う表現である。これに対し、ノスタルジーはやや異なる。元は英語と考えやすいが、英語はnostalgiaであり、「ジー」ではない。日本語の口語としてはノスタルジアより、ノスタルジーの方がはるかに定着している。恐らく、この言葉はフランス語のnostalgieから芸術・文学などを通して普及してきた可能性が高い。
現代日本語における使い方は概ね郷愁と重なるものの、ノスタルジーという言葉はより洗練された響きを持つかもしれない。映画・文化・デザイン・観光・地域おこしなど、様々な文脈で個人的な振り返りとは異なる形で使用されている。そして、今やノスタルジーはファッショナブルかつポップな印象すら醸し出している。「昭和レトロの雰囲気」とか、「戦前の文房具」などと言った場合、特定個人の感傷的な思いではなく、ある種のファッションとしての社会や文化の一面を示している。こうした感覚が広がるにつれて時代や個人を超えて共有される一種の集団的な「感傷的美意識」のようなものに昇華していると理解すればわかりやすい。
ここまでくると感情資本主義という言葉が思い浮かぶ。これは、「経済生活の感情化と感情生活の経済化が同時に起こる現象」である。簡単に言えば、感情が資本として扱われることだ。大学生であれば、就活においてコミュニケーション能力の重要性を何度も言われているであろう。これは、就活や採用という社会における経済活動で感情が財のように取引されている例である。こうなると、感情を効率的に管理し、消費することまで考えるようになる。実際、スマホとSNSは思いや感情をすぐに可視化できるツールとなっている。
企業側から見れば、単なる感情だけでなく歴史や文化そのものがビジネスの対象となる。そこで消費者の感情に訴えるにはノスタルジー・マーケティングという手法が用いられる。その結果、映画・音楽・雑誌・建築様式・ファッション・食品・調理方法など、日常生活のあらゆる断片に付随するすべての文化的・感情的な要素が「商品」化され、市場に流通し始める。広い意味では「文化の商品化(commodification of culture)」である。
アナログ・レコード、昭和喫茶、銭湯、アニメのリメイクやレトロゲームを始めとしたノスタルジックなモノの復刻などは良い例だ。こうした「商品」は、感情(emotion)と商品(commodity)を合わせたエモディティ(emodity)と呼ばれることもある。
さらに興味深い点は、海外への拡大である。台湾、韓国、香港などでは、昭和風の内装とメニューを備えた昭和喫茶が「異国情緒と日本への懐かしさ+憧れ」を併せ持ち、視覚や触感など五感で体験できる身近な場所として人気が出たり、米国やフランスでの盆栽教室に人気が集中する。あるいは世界中でジブリアニメや1980-90年代の日本のCity Popに人気が出ている。
これらの背景や理由を一言で言い表すのは難しい。考えられる理由のひとつは高度に発展・普及した技術に対する世界共通の「喪失感」のようなものがあるのかもしれない。何を喪失したかといえば、「曖昧さ」「中庸」「簡素さ」であろう。あるいは日本人が気づいていないままに喪失したかつての日本文化の良さが再評価されたのかもしれない。
デジタル化の進展を例に挙げるまでもなく、「曖昧さ」を許さない仕事や生活習慣に対し、その対極にありながらも全体として上手く調和しているかつての日本の技術や文化、生活様式が、現代社会に疲れた世界中の人の深層心理に響いたのかもしれない。
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お寺の鐘の音をぼーっと聞く、これはこれで良いと思える年齢になってきたようです。
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