【浜矩子が斬る! 日本経済】暗号資産危機に日本はどう対応するつもりなのか 怪しげな仮想空間憂う2025年8月20日
最近、「暗号資産」を巡る状況が気になっている。暗号資産のかつての代表選手がビットコインだった。イーサリアムも注目を集めていた。リブラというのが脚光を浴びたこともあった。テザーも注目された。そして今、最も話題を集めているのが「ステーブルコイン」だ。これらは一体何者か。そもそも、暗号資産とは何か。このテーマとの関わりで、日本の投資家たちや通貨金融当局はどのようなポジション取りをしているのか。それが見えない。筆者の調査不足も大いにあると思われる。だが、それはそれとして、ひょっとして、またしても、日本は世の中を騒がせているテーマとの関わりで、ただただ巻き込まれ、小突き回されるばかりの狼狽(ろうばい)と無定見ぶりを露呈するのか。それでは、情けなさ過ぎる。
エコノミスト 浜矩子氏
このほど、米国議会が「ステーブルコイン」の発行推進につながる(らしい)「ジーニアス法」なるものを可決した。同時に、ホワイトハウスが「暗号資産の黄金時代」と題するリポートを公表するなど、何やら暗号資産狂乱ムードが漂い始めている。デジタル・クリプト・仮想・暗号・トークン...様々な怪しげ用語が飛び交う状況も嫌な感じに満ちている。リーマンショックの次はクリプトショック、という展開になるのか。
ビットコインが初めて出現した当時、その性格を表象する言葉として、「仮想通貨」という言い方が広がった。英語で"virtual currency"だった。「事実上の通貨」というニュアンスだった。筆者はこの言い方に強い違和感を抱き、異論を唱えた。なぜなら、全ての通貨は、基本的に「仮想」に基づいているからだ。通貨というものは、あくまでも人間がそれを通貨だと仮想あるいは認知するから、通貨としての通用性を帯びる。
1000円札も1ドル札も、それらに人々が通貨価値を認めなくなったら、単なる紙になる。金貨だろうが、銀貨だろうが、それらを人々がそれで物が買える手段だと認知しなければ、通貨としての価値を失う。いまや、小判に通貨性は無い。それは単なる骨董品だ。
かくして、全ての通貨は本源的に仮想通貨だ。だから、ビットコインだけを仮想通貨と命名するのはおかしい。筆者は必死でそう主張した。そのかいあってというのは勝手な手前みそだが、その後に、英語のvirtual currencyはcrypto currencyあるいはdigital assetと言い換えられるようになり、日本語でも、暗号通貨もしくはデジタル資産などと言い換えられるようになった。
ところが、ここに来て、また仮想通貨という言い方も復活して来ている。そして、米中間における通貨覇権争奪戦の手段として、ステーブルコインなるものが、一つの焦点として浮上しているのである。ステーブルは安定の意だ。コインは硬貨。ステーブルコインは暗号資産だが、その裏打ちとして、暗号ではない資産が蓄えられている。今のところ、この裏打ち資産は米ドルと米国債に限定されている。この体制を確立しようというのが、上記の「ジーニアス法」の狙いだ。
この体制が整えば、ステーブルコインの世界的な普及を通じて、ドルはその通貨的覇権を再び不動のものにすることが出来る。ステーブルコインの発行者が裏打ち資産として米国債を大量に購入すれば、アメリカの巨額の財政赤字も受け皿が圧倒的に強化される。
こうした状況を確かなものにしようとするアメリカに対抗して、中国が人民元を裏付けとするステーブルコインの発行が可能となる状況にむけて、地ならしを始めようとしている。
かくして、暗号資産の世界は、今や、地政学的武器化の方向に進みつつある。これは実に異様なことだ。通貨は、人々が経済活動の円滑化を図るために発明したものだ。その通貨を暗号化することで、権力奪取の手段とするとは何事か。怪しげな暗号資産用語が飛び交う中で、こんな「仮想空間」に引きずり込まれてはいけない。
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