(449)フードセキュリティの盲点:食卓を握る冷蔵・冷凍技術【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年8月22日
食料の安定供給というと物量の確保がすぐに思い浮かびます。しかし、現代の食生活は「冷やして保存」、つまり冷蔵・冷凍技術に大きく依存している点が見逃されがちです。
現代日本の食生活は実に7割以上が「冷やす」技術に依存している。以下、かなり粗い推定だが、その内訳を見てみたい。
まず、家計の飲食料費に占める「外食費+総菜・料理小売り品費」(つまり広義の外食費)の割合、これが「食の外部化率」で、2023年は約40%である。これに対し、家計の飲食料費に占める外食費の割合を「外食率」と言い、こちらは約30%である(いずれも公財:食の安全・安心財団)。これを踏まえた上で、家計の食支出のうち、「外食+中食(総菜・弁当)を仮に40%とする(現実ベース)。
次に、外食・中食における低温技術への依存度はほぼ100%と考えられる。理由は、商業施設では食材を数日単位で安全に保存する必要がある点に加え、生鮮魚介類や食肉などでは流通段階から冷凍・冷蔵保存が大前提のためである(コールド・チェーン)。全国展開するチェーン店などでは、セントラル・キッチンで調理した食材を急速冷凍して各店舗へ配送し、再加熱・盛り付けしている形式が中心である。そうなると食材のほぼ全てが低温保存されている訳だ。
ホテル・レストランなどの大量調理施設や、寿司店・和食店・ファストフードなど、基本的に外食で食べる料理は、どこかの段階で確実に冷凍・冷蔵技術の恩恵を受けていると考えて良い。そこで低温技術への依存度を控えめに90%としておこう。
家庭内調理での依存度は各家庭により異なるであろう。ここもかなり控え目に60%と仮定するが、日本では冷蔵庫の普及率は1970年代にほぼ100%に到達していることも覚えておきたい。余り意識していないが冷蔵庫は食生活に不可欠なインフラである。
まとめると、外食・中食は全食事の40%で低温依存度90%、家庭内調理は全体の60%で低温依存度は60%となる。これを単純計算すると、0.4×0.9+0.6×0.6 =0.72(72%)、つまり、全体の7割が冷凍・冷蔵などの低温技術に依存していることになる。体感的には8割以上という気もするが、この程度でも現状の再認識には十分であろう。
さて、フードセキュリティの観点からこれを見ると、かなり厳しいことがわかる。まず、低温技術は基本的に電力依存型である。備蓄はしていても電力が止まれば意味がなくなる。また、電力の元となるエネルギーの輸入依存度も高い。さらに大規模な冷凍・冷蔵保管施設は基本的に大企業の物流拠点に多くを依存している。言い換えれば、火災・自然災害・港湾トラブルなどで物流が止まれば食材は食卓には届かなくなるリスクが高い。
こうしたことを考えると、今後の日本におけるフードセキュリティの確保で検討すべき方向性のひとつが見えてくる。
第1に、低温技術を使用しない「保存技術」を見直すことだ。例えば、乾燥・発酵・缶詰など、日本の伝統的な保存技術には多くの事例がある。低温技術への依存は基本的に輸入エネルギーへの依存を高めるという根本を理解し、必要最小限にとどめる方が良い。
第2に、食料の備蓄・保存は大規模施設での集約的保存ではなく、家庭や地域レベルでの分散型保存、とくに「電気が無くても可能な保存」に対する知恵と知識を家庭レベルで普及・共有する必要がある。
第3に、「季節性」や「地域限定」での食生活を受け入れることも必要である。「いつでもどこでも」食べるためには、膨大なエネルギーによる低温技術が機能している。一人ひとりがこれを認識して行動するだけでも全体としては大きな違いが生じるはずである。
* *
「冷やすこと」が当たり前の現代だからこそ、それに頼らない食の在り方を考える視点が今後のフードセキュリティには欠かせないのではないでしょうか。
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