アケビの皮・間引き野菜・オカヒジキ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第356回2025年9月18日

前回紹介した変わり者の山形内陸人、さらに変わっているのは、アケビの皮を食べることである。
今から30年も前になろうか、当時秋田県立短大で教えていた後輩のKA君(後の東北大教授)が仙台に住んでいた私を訪ねて来たとき、私と同じ山形出身のおかみがやっている小料理屋で飲もうと連れて行った。カウンターに座ったところ、目の前にあるかごの中に季節を思わせるアケビの実が入っている。秋田の山国育ちの彼は早速その中身を食べ、皮を屑かごに捨てた。とたんにおかみから怒られた。KA君はキョトンとしている。思わず私は笑ってしまった。秋田県人の彼にはなぜ怒られたかがわからないのである。
実は山形県人である私ども、アケビの甘い中身も食べるが、それよりも皮をいろいろ調理して食べるのである。油で炒めたり、半分に割れた皮のなかに味噌(最近はそれに肉を和えたりもする)を詰めて煮たり、揚げたりして食べる。それなのにその大事な皮を捨ててしまったのでおかみは怒ったのである。しかし彼には何であんな苦い皮を食べるのかがわからない。
このように、やはり山形県人(とくに内陸人=日本海に面していない地域に住む人間)は変わっている。一般に雑草といわれ、他の地域では食べない山野草も食べるのである。アケビに関して言えば皮だけではなく、春の新芽や伸びたばかりの蔓も食べる。これはさらに苦い(けれどうまいのである)。
また、ウコギの葉も食べる。その新芽をさっとゆでて細かく刻み、焼いた味噌と和える。真っ白いご飯の上に載せた鮮やかな緑、ほのかな苦みと甘さ、それを引き出す味噌の塩味、とにかくうまい。まさに春の味、ご飯が進む。
味噌和えといえば、間引きした小さいニンジンの葉を細かく刻んで味噌和えにし、ウコギと同じようにして食べる。この青味の青苦さと味噌の塩味との絶妙な取り合わせ、これまた食欲をそそる。
ダイコンやハクサイなどの間引きしたものは「けんちん汁」にし、間引きしたソバの芽はお浸しにする。間引きした野菜も無駄にはしないのである。
収穫の終わったトウガラシの葉っぱを採って佃煮にしたりもする。同じく収穫の終わったトマトやマクワウリの茎に残っている小さい青い実をとって塩漬けにする。ともかく食べられるものは工夫して何でも食べる。
大根飯(これはさすがの私も食べたことはない)の「おしん」(注2)の生まれ育った土地であることからわかるように何しろ山形県の内陸部は貧乏である。だから内陸人は雑食性で何でも食べるのかもしれない。
最近は菊の花などは仙台でも食べるようになり、全国ほとんどのデパート、スーパーの野菜売り場に並ぶようになった。しかしスベリヒユやアケビの皮が他の地方でも食べるようになったとはまだ聞いていない。
もう一つ変わっているといえば、雑草を栽培植物化して食べていることである。オカヒジキがそれである。
もちろん私はそれがそもそもは雑草だったとは知らなかった。少なくとも私が物心ついたときはすでにスズギという名前で畑で栽培され、山形の市場に出されていたからである。ただし1950年代の仙台ではだれも食べていなかった。60年代の初め、農家向けの雑誌『家の光』の仙台駐在の記者をしていたSYさんが山形に取材に来たので生家に連れて行ったとき、母がお茶請けにスズギのおひたしを出した。そしたら彼は驚いた、こんな高価な山菜を一(ひと)どんぶり出すなんてと。仙台の料亭で山菜としてたまに出されるが、小皿にちょっぴり盛ってべらぼうな金を取っているという。これは山菜ではなくて栽培作物なのだというと彼はさらに驚き、父にその栽培方法を詳しくたずねていた。そのころ、山形でいうそのスズギは和名では「オカヒジキ」ということを私は知った。
さらにかなり時間がたってから、そのオカヒジキはそもそも雑草だったことを知った。山菜どころか海浜に生える雑草だったのである。これを知ったのは、東北大学農学部の修士論文発表会で園芸学研究室の大学院生が、オカヒジキは日本中の海岸に生えている雑草であるが、それに二種類あることがわかったという研究発表をしたのを聞いたときだった。それからまたかなりたってからだったが、実際に雑草として生えているところを初めて北海道の網走(私が晩年勤めた東京農大生物産業学部がある)の海岸で見た。
オカヒジキは海藻のヒジキと姿形が似ている。しかしそれは陸(おか)に生える。それでオカヒジキと命名したのだろう。そしてこのヒジキを山形語で発音したのがスズギだったのである。
なぜ海岸の雑草が山形の内陸で栽培され、食べられるようになったのだろうか。不思議である。種が海岸から最上川を伝って船で内陸に運ばれ、そこから芽生えた草を食べてみたらうまいと気づき、それから栽培して食べるようになったのかもしれない。なお、網走にもオカヒジキを栽培している人がいた。この人たちの先祖は山形ではなかったろうか。
最近は仙台のデパートなどでオカヒジキが売られるようになってきているが、少なくとも50年前まではやはり山形の食べ物は変わっていると言われてもしかたがなかったのである。
東京はどうだろうか。近くのスーパーでは売られていなかったが、見落としているのかもしれない。来春を楽しみにして待っている。
(注)
1.このウコギ、山形の生家から根分けして仙台のわが家でも庭に植え、その新芽を味噌和えにして食べる、毎年この春の味を楽しんできたので、今回の引っ越しの時に根分けして東京の新家庭の「ベランダ庭園」で育てようとしたのだが、残念ながら運送途中枯れてしまい、来春からその新芽の味噌和え、春の味を味わえなくなってしまった、淋しい。
2、1983年4月から1984年3月まで放送されたNHKの朝の連続テレビ小説「おしん」(原作・脚本 橋田壽賀子)の主人公。
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