先進的な農業に学ぶ アグリビジネス投資育成がセミナー2024年10月17日
日本政策金融公庫およびJAグループが共同出資し、農林漁業法人への投資育成を目的とするアグリビジネス投資育成株式会社は10月11日、都内で2024年度の交流会(トップセミナー)を開いた。日本気象予報士会東京支部長(農林中金総合研究所客員研究員)の田家康氏による「気候変動と農業の将来」の講演のほか、同社の出資を受けて先進的経営を展開する3法人が、それぞれ事例報告した。オンラインを含め80人が参加した。
日本気象予報士会東京支部長(農林中金総合研究所客員研究員)の田家康氏
田家康氏は地球温暖化について、現在のトレンドからすると2030年半ばには産業革命前に比べプラス1.5度の気温上昇が常態化する可能性を指摘。このため日本の農業は、①気温の上昇による生産適地の変化、②適応策としての品種改良、③降水量の変化の面で対応を迫られると報告。
一方、食料の安全保障に関しては、カロリーベースで供給量全体の85%を米国・カナダ・豪州・ブラジルの4か国で占められており、「いずれも友好国として長い歴史もあり、地理的分散もきいており、当面の不安は少ない」とみる。それよりも一時的な冷害(巨大火山の噴火など)によるリスクが大きく、それに備えた備蓄の必要性を強調した。
また気候変動で世界の農業適地が減少し、地域別には適地が北(ロシア、中国北東部、カナダ等)に偏るため地政学上のリスクが高まる恐れがあり、従って高温と水不足等に対応した品種の開発や精密農業、多年生穀物の活用など、21世紀後半には新しい農業(農業革命)が求められると指摘した。
事例紹介では「エコフィードを利用したローコスト経営」で(株)福山農興の佐藤拓永代表取締役、「就農10年目で語る現場力」で(株)ふしちゃんの伏田直弘代表取締役、「『低コスト栽培』と『高単価販売』で実現するこれからの水稲農業」で(株)NEWGREENの中條大希代表取締役が、それぞれ報告した。
◎「新しい養豚業」に挑戦
(株)福山農興の佐藤拓永代表取締役
福山農興(広島県福山市)は2015年創業の養豚、食品リサイクル事業を運営する企業で、東北・中国・近畿地方で5農場を展開する。現在母豚1000頭、肉豚2500頭規模で年間約10億円を売り上げる。
創業者の佐藤拓永氏は、もともと宮城県の養豚農家で、輸入トウモロコシを原料に自家配合の飼料を使っていたが、売り上げの6割を占める飼料代と、「輸入飼料を使った豚肉を国産といえるのか」と疑問を持ち、エコフィード(食品副産物による飼料)での「本当の国産豚肉」の生産をめざした。
福山市で競売に出ていた養鶏場跡の土地を確保し、資金調達に苦労したが、政策金融公庫などの融資を得て、母豚40頭からスタートした。当初はエサの品質に問題があり、まともな肉がつくれないなど、エコフィード養豚の立ち上げの難しさを実感した。現在、食品副産物を年間8000~9000t使用し、飼料コストを数パーセントにまで抑えているという。
◎大規模有機野菜で活路
ふしちゃんの伏田直弘代表取締役
ふしちゃん(茨城県つくば市)は、有機栽培の野菜を中心とする経営。社員6名にパートタイマ―15人、外国人実習生9人でハウス2.6ha、露地250aで小松菜を中心にミズナ、ホウレンソウ、ロメインレタス、イチゴ、それに今年から米を栽培している。売り上げは1.5億円を超える。
経営理念は「日本のものづくり技術を持って世界に打って出る」「オーガニックに付加価値(おいしさ、棚もちのよさ等)をつける」を掲げる。販売先は宅配のほか、スーパーマーケット、市場、直売所など多様だが、付加価値をつけて、少し高めでも購入する消費者を対象とする。また消費者に近い方が販売単価を高く設定できるため、消費者から遠い商社等とは取引しないと伏田氏はいう。
一方コスト面では人件費の削減のため、ハウスの電動ドリルによる温度管理、スマホでの潅水管理、防草シートの活用などを導入。コストの3割以上を占める出荷作業はB型障害者施設と業務委託契約を結び、就労の機会をつくるなど労力削減に努めている。
◎稲作の規模拡大を支援
(株)NEWGREENの中條大希代表取締役
NEWGREENは、山形県で54棟のハウス(すべてJAS認証取得)と、千葉県で4.3haの露地野菜を栽培し、農業生産・販売のほか農業用ロボットの開発、農業用資材開発・販売事業等も手掛ける。
中條氏は「農業の生産性向上と環境負荷低減を同時に実現する『緑の革命』を目指す」という。特に米に関して、今後、生産の減少が需要の減少を上回り、2040年には需給バランスが逆転すると推定する。同時に農業者は急激に減少し、農地の集約と大規模化が進み、売り上げ3000万円以上の中・大規模経営が今後、稲作経営の主役になるとみる。
特に同社が力を入れているのが生産者との連携による安定した有機米の供給事業で、今年度の集荷予定量は約1000tを見込む。有機米栽培のネックとなる除草を中心とする労働時間を短縮するためには、特に除草作業時間6割の削減が見込まれるアイガモロボの活用に努めている。
(株)農林中金総合研究所の石田一喜主事研究員
このほかセミナーでは(株)農林中金総合研究所の石田一喜主事研究員が資材高騰と人手不足について情勢報告した。同氏は気候変動による高温で管理・防除の負荷が高まるなかで、労働力不足が制約要因になる可能性を挙げ、「特に高齢農業者を中心に防除負荷の高まりに限界の声が上がっており、技術選択にこれを加味する必要がある」と指摘した。
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