【緊急寄稿・稲作農家の声】精米5キロ3000円台は再生産に必要 愛媛の生産法人2025年6月2日
小泉農相の第一声は、精米5キロの店頭平均が前年度の2倍4200円台に高騰した米価を、備蓄米の随意契約で2000円に価格破壊するというものであった。生産現場ではどうかと、愛媛県西予市宇和町の「農業生産法人加茂ファーム」を、愛媛大学社会共創学部講師の山藤篤氏と本紙特別編集委員の村田武氏(九州大学名誉教授)が訪ねた。対応したのは、出水洋一代表理事(58歳)と稲葉克行理事(48歳)である。
農事組合法人加茂ファーム代表理事の出水洋一(左)と稲葉克行理事
加茂ファームがある宇和平野は標高約250m・約1000haの内陸盆地で愛媛県下トップクラスの良食味米産地である。加茂ファームの前身は、昭和57(1982)年の集落水田の25アール規模へのほ場整備を機に、加茂地区の水田農家40戸(平均50a)全戸加入で結成された「加茂生産組合」が、農業機械の共同利用と水田のブロックローテーションによる転作麦の集団栽培に取り組んだものである。
集落内水田23haの高度利用による保全をめざす
山藤 まず、農事組合法人加茂ファームの現状についてお聞きします。
出水 「加茂生産組合は、集落農家の高齢化に対応して、昭和61(1986)年に、機械作業オペレーターを選定し、集落全戸出役型営農体制から担い手中心の体制に移行しています。そのうえで、高性能機械を生産組合が導入を図りながら、無人ヘリ防除の利用も始め、、機械利用による転作大豆・水稲跡作タマネギ栽培など、水田作の省力低コスト化と水田利用率のアップに力を入れてきました。そのうえで、平成17(2005)年に、農事組合法人として法人化しました。その目的は、水田作経営の確立によって集落内農地の保全をめざすというものでした。
山藤 加茂ファームの現在の営農状況はどうですか。
出水 加茂ファームは集落内水田19haに加えて隣接する2つの集落の水田合計7・3haを利用権設定して集積しています。小作料は米1・5俵です。農作業担当者は、役員4名(うち常勤3名)と雇用3名(うち2名はブータン人技能実習生)です。経営面積26・3haの栽培作目は、主食用米4・4haうちコシヒカリ2・3ha(反収5・5俵)、にじのきらめき2・1ha(反収7・5俵)、WCS稲10・7ha、WCS稲種子0・7ha、裸麦4・1ha、小麦6・9ha、大豆4・8ha(反収231キロ)、ソバ3ha、春カボチャ12ha、カボチャ(12月出荷)1・8ha、春キャベツ(加工用)1・1ha、キャベツ1・6ha、白ネギ1・6ha、サトイモ1・1haです。野菜作を増やしているのは、雇用3名の冬期の農作業を確保するとともに、水田利用率をアップして収益を高めるためです。野菜の販売額目標を2000万円に置いています。水田利用率は160%台になっているでしょう。地区内で耕作放棄されていた畑地1・3haではユズを栽培しています。
肥料代や農業機械資材は高騰している
村田 昨今の米価高騰が消費者を苦しめるなかで、その責任は農家と農協にあるといった報道が消えていません。加茂ファームの米生産費はどうなっていますか。
稲葉 出水代表理事が紹介したように、加茂ファームは前身の加茂生産組合以来、徹底して水田作業の機械化による省力低コスト化を図ってきました。トラクター4台(33・34馬力3台、48馬力1台、3年前に買った33馬力1台は790万円)、田植機(5条植)2台、コンバイン(4条刈)2台、WCSコンバイン1台、大豆(汎用)コンバイン1台を装備しています。WCSコンバインは850万円かかりました(1200万円マイナス補助金350万円)。田植機2台は平成20(2008)年に購入したもので、修理しながら使っています。まともな利益が出ないと更新ができません。こうした機械化のなかで、10アール当たりの稲作作業時間は、10時間から12時間、水管理を含めて15時間です。
出水 この間の米生産費を引き上げているのは、とくに肥料代です。とくに窒素肥料です。平成29(2017)年対比で令和5(2023)年には、尿素は2・84倍、高度化成444は2・76倍、苗箱まかせ(窒素40%)は1・55倍になっています。米4・4ha、WCS稲11・4ha、合計15・8haの稲作にかかった物財費合計259万円の内訳は農薬が95万円、肥料土壌改良剤が110万円、種子苗が8・2万円、資材が46万円です。燃料代の高騰も頭が痛いです。免税軽油は2014年には1リットル102円であったのが、現在では130円になっています。年間7680リットル使うので、100万円を超えます。肥料土壌改良剤が110万円に抑えられているのは、西予市内の酪農経営との耕畜連携で、WCS稲や稲・麦ワラを供給し、牛糞堆肥を10アール当たり1~2トン、合計110トンを水田に還元していることによります。野菜栽培ほ場にも、市内の養豚農家の豚糞を投入しています。
村田 さてそこで、米価問題です。安倍政権下で、「農協が兼業農家を支えているが問題だ」と「農協改革」を主導した小泉進次郎農相ならばこそ、「備蓄米の随意契約5キロ2000円で店頭価格を価格破壊する」というのは、安倍政権下で相対取引価格が1万1000円台にまで落ち込んだ米価の再来をめざしているのでしょうか。
出水 石破首相の精米5キロの店頭価格3000円台というのは、消費者にも納得してもらいたいところです。私たち加茂ファームのように、集落水田の維持保全のために徹底して低コスト化を図ってきた生産者にとっても、肥料代や機械設備の高騰を補てんする生産者米価の引き上げなくしては、経営の存続が困難です。この間の米価下落のなかで、田植機などの更新ができませんでした。今後の経営維持や田植機など機械更新のためにも、最低2万円(玄米60キロ)であってほしいと願っています。
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