米:持続可能な水田農業へ 米政策の見直しに向けて
稲作と転作 両輪で体質強化【岩手県】2017年2月22日
生産調整の実効性向上へ
県再生協を核に計画実践
30年産からの米政策の見直しでは、国は全国の需給見通しは示すものの、国から県、市町村を通じた行政ルートによる生産数量目標の配分は廃止される。生産者は経営判断や販売戦略に基づいて主食用米の生産・販売に取り組むことになるとされているが、生産調整が不要となったわけではない。高齢化と人口減少のなか主食用米の消費が減退していることや、外食・中食需要の増大などマーケットを的確に把握して生産調整の実効性を上げていくことが米生産に求められている。同時に飼料用米や麦、大豆など水田をフル活用して、持続可能な地域の水田農業を確立していくビジョンを描き実践することが30年産以降も期待される。岩手県では県農業再生協議会を核に関係者が一体となって米政策への見直しに対応し、1月に対応方向の中間とりまとめを関係各機関に示した。「稲作と転作を両輪」として水田農業の体質強化をめざす岩手県の取り組みを紹介する。
◆作りすぎは米価暴落
これまで、岩手県では水田を有効に活用し、気象や立地条件などを活かした地域の重点推進作物と主食用米を組み合わせた生産・販売に取り組んできた。30年産以降もこの取り組みを基本とし生産調整の実効性を上げて地域農業の発展をめざす。
30年産からは行政による米の生産数量目標の配分が廃止され、同時に米の需給調整に協力した生産者への交付金(10aあたり7500円)も廃止される。
かりに、各地でこうした政策変更への対応が不十分なまま「米を作りたいだけ作る」状態になれば米価は下落する。岩手県では、米価が下がった26年産で129億円の米の生産額減となった。26年農業産出額2352億円の6%。米の産出額471億円の28%をも占めたことからもわかるように、米価下落は県経済にも大きな影響を及ぼすことが懸念される。
「主食用米を自由に作れば作りすぎて米の値段は必ず安くなる――。これを県をあげて関係者で共有することがもっとも基本です」と岩手県庁の農林水産部農産園芸課の松岡憲史水田農業課長は話す。
30年産以降の対応方向を考えるため、昨年6月、岩手県農業再生協議会は「平成30年産以降の対応方針検討ワーキングチーム」を設置した。県農産園芸課、JA岩手県中央会、JA全農いわてで構成され、東北農政局(岩手県拠点)もオブザーバーとして参加した。
ワーキングチームは7月から8月にかけて地域農業再生協議会と認定方針作成者に対してアンケート調査を実施した。
さらにアンケート結果をふまえて、9月には地域農業再生協(30協議会)と意見交換し、ワーキングチームから対応方向の検討素案などを提示して議論した。
◆水田フル活用で所得確保を
このような検討を経て1月に整理された中間とりまとめでは、米政策の見直しへ対応するため、「稲作と転作を通じた体質の強い水田農業の確立」を基本方針として打ち出した。
稲作では▽適地適品種の徹底、▽売り切れる量の主食用米生産目標の設定、▽市場競争に打ち勝つ販売戦略の展開を柱とした。一方、転作では▽水田が効率的・合理的に利用されているかなど転作営農を吟味すること、▽麦・大豆、飼料用米、園芸作物などの定着と拡大、団地化などを柱としている。
これをもとに再生協として検討を進め、5月に県段階で「水田農業の推進方針」を決定する予定となっている。方針策定は学識経験者、集荷業者、担い手代表などから意見を聞き、品目別の推進方針と担い手育成と農地集積の方策についてとりまとめる。さらにこれを受けて8月には地域段階の推進方針をとりまとめる。いずれも5年程度の計画として、2~3年で見直す方針で策定するという。
計画のポイントとなるのが、主食用米では業務用需要にも対応した品種の適性配置と複数年契約・事前契約の拡大。転作では単位面積あたりの収益性の向上に向けた体制整備が重要になる。
主食用米では県オリジナル品種で28年産から栽培が本格化した「銀河のしずく」や29年産から発売する「金色の風」に期待がかかるが、地域ごとに栽培研究会を設置して品質管理などを徹底し、需要に応じて生産していく方針だ。一方、業務用需要としてニーズが強い「どんぴしゃり」は収量が多いというメリットがある。こうした需要もふまえて地域で戦略を練り上げる取り組みを進める。
また、転作作物では、たとえば麦ではブロックローテーションによって地力が向上し、それが生産資材コスト削減と同時に高品質の確保にもつながっているという成果を一層活かすことが求められるという。また、藤尾会長が指摘するように、水田フル活用のため、ほ場全体で改めて排水対策を重視するなど、個々の経営で見直すべき技術もある。
県の松岡課長も「所得の確保には作物の組み合わせが絶対に必要です」と話す。
◆地域で積み上げ県で集約
基本となる推進方針を策定した後、30年産からは「地域水田活用計画」を毎年度策定する。
現在検討されている対応方向は次のようにイメージされている。
▽県農業再生協が国の情報から算定した県産主食用米の需要量を算定+市町村別の主食用米の生産量の目安算定(生産前年12月まで)、▽地域再生協で認定方針策定者との座談会などで協議、単年度の地域水田活用計画を作成(生産年の3月まで)、▽県再生協議会が地域水田活用計画を集計する(生産年4月まで)。
県で集約して地域の主食用米の生産計画が算定した需要量を大幅に上回ると見込まれる地域についてはヒアリングを実施して調整を図ることにしている。
県の再生協議会が各市町村の生産数量の目安を示し、それをもとに地域再生協が生産数量の計画を立て、さらにそれを県段階で再度検証するという仕組みだ。
松岡課長は「行政、JAグループ関係者一体となって農家所得向上につながるよう計画的に取り組もうということです」と話す。
◆販売を起点とした米生産へ
JA岩手県中央会のJAいわてグループ農業担い手サポートセンターの照井仁センター長は、県との連携のもとでJAグループが掲げる「販売を起点とした米生産へのシフト」を進める必要があると強調する。
「マーケティングと販売力をいかにつけていくか。業務用米の複数年契約の拡大などJAグループが新たな水田農業の体制づくりを主導していく必要があります」。
そうした販売戦略を検討するには地域から水田農業ビジョンを描き実践してきたJAの取り組みを改めて整理して「地域農業をどう再構築するか話し合いも求められる」という。30年産以降を展望するには、地域の水田農業をどう展望するか、単に主食用米の数量配分にとどまらない問題意識も求められている。
【県・市町村一体で取り組む】
JA岩手県中央会・藤尾東泉会長
生産調整には県と市町村、そしてJAグループが一体となって大きな方針を立てて取り組むことが課題ではないかと思っており、岩手ではその体制が整いつつあります。一昨年来、東北農政局自らも飼料用米生産による生産調整の必要性を説明するなど現場に意識が浸透してきました。
ただ、飼料用米生産をやはり継続・定着させるため法制化して助成水準をしっかり確保することも今後の国の課題だと思い、そこは行政とともに主張していきます。
転作では麦にも力を入れていますが、収穫期には一気に刈り取るなどJAの機械と集荷施設をフルに活用する体制が一層求められます。また、秋の播種を考えて夏の段階から乾田化を図るなど個々の農家段階でも取り組む課題もあります。そうした努力が高品質につながり所得確保になるからです。今後は園芸作物も導入して産地として複合経営をめざしていくことが大事だと考えており、その意味では30年産以降はJAによる生産者の集団化や、共同で行う集荷・販売体制の力の発揮がますます大事になるということだと思います。
低米価でも大規模化すれば経営が成り立つと指摘する声を聞きますが、適期作業が難しくなるなど、単純な規模拡大では対応できないのが現実です。業務用米の需要などもふまえて作物を選定し、国全体として米の在庫をきちんとコントロールしていく必要があります。 安心で安全な米生産のためにも生産数量の目安を示して生産に取り組むことが必要で、販売面ではJAグループの売る努力が求められます。売る努力をし、最終清算したときに農家にメリットを出せる取り組みも改めて大切になると考えています。
(写真)岩手県の水田、松岡憲史水田農業課長、照井仁農業担い手サポートセンター長、JA岩手県中央会・藤尾東泉会長
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