【今川直人・農協の核心】全中再興(4)2025年8月18日
1.営農団地の遺産
③共同利用施設と農協合併
農業施設学の森野一高東教大(現つくば大)教授は「農村計画における営農団地計画の手法」(農業土木誌1970年)で、農地、農業施設、農業機械、技術の4つの生産要件の中で、家族労力主体のわが国農業の体質から農業施設技術だけが取り残されてきたことを強調している。営農団地はこの補強に強く与った。共同利用施設は合併のたび機能が強化され、合併を推し進める要因ともなった。そして共同利用施設は、個別経営を補完する不可欠の機能をもって、結集の拠点としてさらに重要性を増している。
2.シェア拡大対策は組織を挙げた課題
(1) 不動の基軸
中央協同組合学園(1969年開校)は3年制の本科と、主に都道府県教育施設の教師を対象とする研修科の2本建てであった。営農指導論研修コースに出講をお願いしていた川俣茂東教大(現つくば大)教授は営農指導の意義を呼吸の話を引き合いに出して説明されるのが常であった。息を吸おうと思ったら肺の中の空気を全部吐き出すのが先だ。得るためには先ず与えるというのは少し即物的に聞こえるが真理であろう。
小林一鳥取大学教授は「営農指導事業の強化にどう取り組むか」(本紙2005年5月16日)の中で、1990年から2005年までの16年間で正組合員(戸)の減少を上回る営農指導員の減少割合が販売事業総額や各事業を合計した事業総利益が減少している事実を挙げ、今後の営農指導事業の任務を生産指導体制の強化(担い手育成、大型農家・農業法人との連携、農業普及事業との協力等)、営農指導事業の多面化(マーケティング能力、計画的生産・生産資材供給等能力)、地域農業振興計画の策定、情報対応力の強化の四つとしている。営農経済事業全体の推進・調整が営農指導事業の役割ということである。そして「営農指導事業重視の提起がスローガンにとどまってはならない」と締めくくっている。
(2)組織離脱の要因
頼平京大教授は「共同組織と営農団地」(「農業計算学」第9号、1976年)のなかで、経営集団の組織・参加のインセンテイヴに触れている。まず、「農家はできるだけ自己完結的に行おうとし、総合的に有利である場合のみ参加する」としている。この前提は今日を語るようである。インセンテイヴを3種の「組織化便益」に区分している。
第Ⅰ種便益:生産用役(出資、出役、管理)<報酬(配当収入、労賃,管理手当)
第2種便益;用役への料金<市場購入または自己生産の費用
第3は平等の問題である(頼氏は第3の便益とはしていない)。集団への貢献度,受け取る便益共に平等であることが望ましいが、現在は自立専業農家側に欲求不満がうっ積して,共同組織からの脱退を希望している段階であると述べている。
(3)農協利用向上対策への取り組み
これまで経済事業のシェアは長期間低落が続いた。機能を充実し組合員の満足度を高めれば農協への結集が高まる。これは大原則である。しかし、これまで決して努力を怠ってきたわけではない。事業機能の充実を図ると同時に、機能・活動が効果的か。通常の努力以外に何か有効な結集強化の策はないか、と言ったシェアを高めることに照準を当てた検討が必要な時期に来ているのではなかろうか。
1983年全中組織課で、当時全体の1割に当たる500農協を対象に、主要事業について体制と実施事項、それに対応する農協利用率併せて千以上の項目を数量化を配慮し調査(調査票)し、統計処理した(「農協利用向上対策」)。肉豚・肥育牛では組合員戸数・飼養頭数当たり営農指導員数が販売、飼料購買の利用率と高い相関がみられたほか、肉用牛では台帳の記帳管理指導、肉豚では経営分析指導、農機具の指導・点検・修理や共済(事故査定員)・信用事業における専任者など、「技術者」の配置がカギとなっている。とくに肉用牛販売では獣医(職員・嘱託)が販売と高い相関を示した。調査結果は「農業協同組合」1984年4月号で特集したほか書籍にも収録している。
今日的課題、即ち大規模農家の視点を加えた、経済事業における広角的な紐帯強化対策の研究を期待したい。
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