米:JA全農米穀事業
【JA全農米穀事業部】多様な集荷対応の強化 目標310万トン確保-29年産米生産・集荷・販売基本方針2017年3月22日
事前契約を拡大目標130万トン
水田活用米穀へ作付け転換継続
JA全農はこのほど29年産米の生産・集荷・販売基本方針を決めた。28年産米は引き続き飼料用米の拡大などによる計画生産に取り組んだ結果、2年連続で過剰作付けを解消し需給は均衡を維持し価格水準も前年産を上回って推移している。販売面でも実需者との事前契約の拡大に取り組み、前年産を上回る実績をあげた。30年産から米政策が見直されることをふまえ、今後も引き続き需給環境を維持し、実需者との安定取引の拡大や、その前提となる集荷数量の確保などが29年産の課題となっている。28年産の取り組み結果と、29年産の主要な取り組みを紹介する。
◆28年産事前契約121万t
28年産米は飼料用米など非主食用米の生産拡大に引き続き取り組んだ結果、主食用米の作付面積は生産数量目標面積比▲2万2000haの138万haとなり、2年連続で過剰作付が解消された。
集荷については、委託販売・共同計算による対応だけではなく買取や委託非共計など、担い手のニーズや地域実態に応じた多様な集荷手法を提案した。概算金も主食用米の需給が均衡を維持したため、前年産を上回る水準で設定することができた。
ただし、主食用米の需給改善によって集荷競争が激化。直売も増加したことなどから主食用米集荷見込みはJA段階で321万t(▲11万t)、連合会段階では244万t(▲7万t)となった。一方、水田活用米穀(加工用米、飼料用米、備蓄米等)の連合会段階の集荷量は前年より2万t増加して56万tとなっている。
販売・流通面では事前契約(播種前・収穫前・複数年契約)は、需給の改善傾向を反映して買い手側の関心が高く、成約数量は最終的に前年より14万t多い121万tとなった。このうち複数年契約は52万tとなり、前年比35万t増と大きく伸長した。
また、炊飯事業など付加価値を高めた販売の強化に取り組み、全農パールライス㈱が京都の炊飯業者「煌」を買収し、全農グループとしては全国6拠点で炊飯事業を推進する体制となり、28年度販売見込み金額は58億円と前年比19億円増となっている。
◆集荷が安定供給の前提
今後の需給は次のような見通しとなっている。
27年産米の28年10月末の持ち越し在庫は23万t(うるち米は20万t)、28年産米の生産量は750万tと見込まれることから供給量の合計は773万tとなる。
一方、主食用米需要量は国の見通しに基づき需要減を▲12万t~▲8万tとすると、748万t~752万tとなる。その結果、29年10月末の持越在庫は21~25万t程度と見込まれている(表1)。
【表1 今後の需給見通し(全農推定)】
28年産で計画生産を達成したことによって需給環境は改善し、価格水準も前年産を上回って推移している。ただ、主食用米は商系集荷業者との競争が激化するなど連合会集荷は前年産を下回ることになった。このためJA全農では29年産に向けた課題として▽29年産以降における需給環境の維持、▽実需者、とくに需要拡大が見込まれる業務用向けの安定取引のさらなる拡大、▽実需者への安定供給の前提となる集荷数量の確保などを挙げている。
【29年産米の基本方針 重点10事項に取り組む】
◆安定取引の確保と需給の均衡
29年産米は、マーケットインに基づく生産から販売まで一貫した系統バリューチェーンの構築による生産者手取りの確保と経営安定の実現に向けて(1)安定的取引の確保と需給の均衡、(2)精米直接販売事業の強化、(3)多様な手法による集荷対応の強化を3つの柱とする(図1)。この基本方針のもとに10項目の重点事項に取り組む(図2)。ここではそのうちの主要な取り組みを紹介する。
【図1】
図1のPDFはこちらから
【図2 重点取組事項(10項目)】
図2のPDFはこちらから
主食用米の需要は少子化、高齢化、食生活の変化などによって、国の見通しでは毎年8万t程度減少していくことが見込まれ、さらに政府備蓄米の買い入れ数量減もあって約11万t程度の作付け転換が必要となると考えられる。
こうしたなかで主食用米から飼料用米・加工用など水田活用米穀への作付け転換を継続して推進していく必要がある。とくに飼料用米はさらに生産拡大をめざし、29年産では28年産比25%増の60万tを目標とする。
また、水田活用米穀では、加工用米が不足しており、これを水田をフル活用して国産米でしっかり供給していく必要がある。とくに加工用米については複数年契約で需要を早期に確定して、将来にわたって需要にみあった生産を確保していく(図3)。
【図3 水田活用米穀の取組拡大】
一方、主食用も消費減少だけでなく、消費構造が家計消費から外食・中食などの業務用にシフトしている変化をふまえる必要がある。このため今後も増加が見込まれる業務用を中心に、実需者を明確にした事前契約(複数年契約)など安定的な取引をさらに拡大し、29年産は130万tを目標とする。29年産で複数年契約を含めた事前契約数量を拡大させることは、30年産以降の需給と価格の安定にとっての「礎」となる取り組みと位置づけて推進を図る。
◆精米直接販売事業の強化
販売面では実需者への全農直接販売、パールライス会社経由での精米販売を基本とする事業へ転換する。精米販売は29年度は82万tを目標とする。そのため卸・工場の整備等による流通コストの削減と体制強化、精米HACCPの取り組みなどパールライス製品の品質強化などに取り組む。
また、実需者への安定的販路を確立している米穀卸や実需者への出資、業務提携も推進し精米販売を拡大する。炊飯事業の拡大にも取り組む。
消費者への直接販売では近年、大きく伸びているネット通販のマーケットに対応するため、特徴ある産地精米やオリジナル商品の開発など、バラエティ豊かな精米商品を提案し消費者接近型の事業を拡大する(図4)。
【図4 消費者直接販売の拡大】
◆多様な集荷対応の強化
基本方針では多様な手法による集荷対応の強化も掲げた。生産者・JAのニーズに対応し集荷の確保をはかるため、買取販売・委託非共計やフレコン集荷・庭先集荷などを拡充する。
とくに生産者にとって有利な条件で販売するため、買取販売などの条件をJAや生産者に提案していく。具体的には事前契約の早期化・拡大と並行して取り組む。実需者、JAと結びついた事前契約を増やし、また取引確定を早めるなどの取り組みによって、精算を早期化することで生産者のメリットを出すなど、共計と区分した買取販売を拡大させる。また、集荷量が少なく、全量を県内で販売している産地等は産地の合意を踏まえて、全量買取への移行も検討する。
いずれにしても各産地で「委託」、「買取」、「委託と買取の併用」など、多様な取り扱いメニューの提案を通じて、生産者に有利な条件を提示する取り組みを進める。
また、フレコン集荷量は毎年拡大しており、生産者の労力軽減など利便性向上につながるメリットを庭先集荷も含めて生産者に伝えるなど拡大をはかる。
多様な集荷手法を拡充し29年産は連合会集荷目標を310万tとしている。買取販売は主食用で前年産比36%増の30万tが目標だ。
実需者ニーズをふまえた多収性品種の契約栽培の推進・拡大も集荷対応の手法として重視する(図5)。
【図5 多収性品種等による契約栽培の取組み拡大】
図5のPDFはこちらから
実需者ニーズにもとづき開発した有望品種の試験栽培を行い、生産技術の確立と収量性を確保しながら、JA・生産者に対して契約栽培を提案し取り組み拡大をめざす。あきだわら、やまだわらなどの多収性品種が実用化しており、また、28年産では9産地、24JAが試験栽培に取り組んだ。
JAや生産者には複数年・買取契約の提案を推進し長期安定的な取引を構築する方針だ。冷凍食品メーカー等から長期的な原料米の調達意向が示されているといい、今後も実需者ニーズを把握し、品種の選定と産地JAへの栽培契約提案などに積極的に取り組む方針だ。
そのほか生産面でも新技術の開発・普及と生産コスト低減という重点事項がある。
◆消費拡大へ情報の発信
鉄コーティング種子は28年度は前年比136%の1万5000haに拡大。地下水位制御システム(FOEAS)は同118%の1万2000haまで普及しており引き続き普及をはかる(図6)。資材コストは肥料銘柄の集約、オーダーメイドBB肥料の拡大・広域供給、農薬担い手直送規格の拡大などを進める。
【図6 新技術の開発・普及にかかる主な取組み】
販売では新たな需要を開拓するために不可欠な事業として輸出への継続的な取り組みも重点事項としている。台湾、香港、シンガポール、米国などを当面の重点国とし、重点品目の絞り込み、重要見込み先のリスト化、消費動向や競合品の徹底調査など実態把握を行って輸出体制を構築していく。同時に現地需要に対応するため産地JA、生産者との連携を強化し輸出産地づくりの取り組みも行う。
米消費拡大に向けて29年度は「お米は太るという誤解の払しょく」に引き続き取り組むとともに、「お米を楽しく」をキーワードに楽曲の制作・普及や料理パンフレット配布など消費拡大につながる情報発信の取り組みも実施する(図7)。
【図7 米需要拡大】
図7のPDFはこちらから
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