【年末年始の生乳廃棄回避】業界一体で奏功 課題は需要拡大と非系統2026年1月13日
酪農・乳業界の当面の最大課題だった、12日までの年末年始牛乳不需要期での処理不可能乳発生は未然に防げた。Jミルクでは「酪農・乳業界挙げた対応の結果だ」とする。課題は生乳需要拡大と非系統も含めた業界協調の需給対応だ。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
JA全農の新年賀詞交歓会は年末年始余乳対策も念頭に、「牛乳で乾杯」でスタート
左端は折原敬一会長(1月6日、東京都内のホテルで)
■「牛乳で乾杯」消費後押し
余乳処理には飲用牛乳の消費拡大が最も効果的だ。内外にアピールするため高市政権の閣僚たちも「牛乳をもう一杯飲もう」との動きが年末から相次いだ。
スタートはむろん、所管官庁の農水省から。鈴木憲和農相が定例会見時に「牛乳をもう一杯飲もう」を自ら実践し各種メディアで紹介された。さらに高市早苗首相も自民党役員会で幹部らと牛乳を飲み干す。長井俊彦畜産局長は年明けの酪農・乳業団体の新年賀詞交歓会あいさつで、「酪農・乳業の持続的な安定には需要拡大が欠かせない」としたうえで、自民党役員会での牛乳を飲み干す様子を「なかなか壮観だった」と紹介した。北海道選出で畜酪振興にも熱心な鈴木貴子自民党広報本部長も積極的に牛乳消費拡大のアピールに努めている。
JA全農も6日の新年賀詞交歓会のスタートを「牛乳で乾杯」で始めた。
■「コロナ禍に匹敵する厳しさ」
年末年始の生乳廃棄回避の取り組みは例年のことだが、「今回は極めてぎりぎりの対応だった。生乳需要が激減したコロナ禍に匹敵する厳しさとも言える」と関係者は振り返る。今年は年明け12日までの3連休までの異例の長期間が"年末年始"の生乳廃棄回避の対応となった。
小中学校の学校給食牛乳休止に加え、量販店の正月休みも長くなり、牛乳の行き場がそれだけ縮小している。それでも何とか加工向けへの完全処理ができたのは、全国規模の生乳広域調整が可能な指定生乳生産者団体と各乳業メーカーとの連携の成果だ」と中央酪農会議は強調する。
■当初、処理不可能乳は数千トン規模か
当初、処理が決まっていない生乳が数千トン規模であったとみられる。積み上がる脱脂粉乳在庫と飲用牛乳の販売不振から需給緩和が鮮明となった。
「最終的にはオーダーと受け入れ態勢が数量的にマッチングでき加工処理が可能となった」とJミルク。6日の乳業13団体新年賀詞交歓会で主催者を代表しあいさつした日本乳業協会の佐藤雅俊会長(雪印メグミルク社長)は、「処理不可能乳発生の不安があった。指定団体の努力や乳業工場への効率的な配乳で最悪の事態は免れた」と、まさに"綱渡り"だった年末年始の対応を振り返った
■関東から車30台分、九州で処理
北海道に次ぐ生乳生産量を持つ関東生乳販連。菊池一郎会長は「あふれそうになった生乳を処理するため、車約30台分を九州に走らせた」と明かす。「コロナ禍に匹敵する厳しさ」を物語る事態だった。ミルクタンクローリー30台分といえば、生乳で数百トン規模に達する。
生乳に季節的な需給不均衡はつきものもだが、不需要期に飲用で行き場がない生乳をどう処理するのか。難題は、大規模乳製品工場が主産地・北海道に集中して、本州に加工処理可能な工場が少ないことだ。都府県の乳製品調整工場は、系統の全酪連北福岡工場(岩手・二戸)、筑波乳業(茨城)、弘乳舎(熊本)など限られるうえ、処理能力、施設の老朽化などの問題も抱える。酪農経営の持続的な生産を担保するため昨秋、JA全農、全酪連、東北生乳販連、関東生乳販連が共同出資し福島・郡山で「らくのう乳業株式会社」を設立したのは、こうした課題の対応だ。総合農協系と専門農協系が、国内酪農維持へ異例の連携となった。ただ、同社の新乳製品工場が稼働するのは3年後で、その間の不需要期対応が引き続きの課題となる。
■年初「需給短信」で「大きな混乱なし」
Jミルクは9日、2026年初めての「需給短信」を公表し、余乳処理に関連し「現時点で大きな混乱はない」と明記した。さらに、「大幅な需給緩和に見舞われたが、全国協調のもと円滑な生乳処理に取り組んだ結果だ」として、年末年始対応が"綱渡り"の調整だったことを裏付けた。
一方で生乳需給環境は厳しさが続く。「需給短信」で、年末に当たる直近週(2025年12月22日の週)の牛乳・乳製品販売動向データでは牛乳の消費不振と脱粉需要にもつながるヨーグルトなどの発酵乳の販売苦戦が分かる。直近週の牛乳販売単価は1リットル当たり235.7円とやや上がっている。
しかし、あくまで平均で実際の店頭価格は二極化が鮮明となっているのが実態だ。非系統の原料使用の牛乳や中小メーカーでは同200円前後の低価格も目立つ。大手安売り量販店オーケー・ストアでは北海道原乳の主力牛乳を同193円と、「他店対抗価格」と銘打ちかえって前年から数円下げて販売し、売り上げ維持を図る。半面、大手乳業のNB(ナショナル・ブランド)牛乳は同300円前後と乳価改定のコスト転嫁から販売伸び悩みのケースもある。
■ホクレン道外移出苦戦の"本末転倒"
全国生乳の約6割を占める北海道は、年末年始対応で道内の乳製品工場フル操業で処理不可能乳を未然に防いだ。
だが、改正畜安法に伴う流通自由化は、年々厳しくなる余乳処理でも悪影響を及ぼす。指定生乳生産者団体ホクレンを経由しない自主流通など非系統扱いの道外送り生乳が拡大している。そのため、ホクレンの道外送りの販路が狭まり、その分を道内の乳製品工場で加工処理するとの構図が一段と強まりつつある。結果的に、飲用に比べて乳価の低い加工仕向けが増え、多くが結集する系統傘下の酪農家のプール乳価は押し下げられかねない。改正畜安法が招いた"本末転倒"の悪影響と言えよう。
■三つの山「年末年始」「年度末」「5月連休」
いずれにしても生乳需給の季節別変動は宿命的な特徴だ。今回は"綱渡り"で完全処理したが、今後は農水省が主導的な役割を果たし、より一層の全国協調の実施が問われる。
「年末年始」の次は、小・中学校の休校で学乳が休止となる3月下旬からの春季休みへの対応。さらに4月29日から5月6日までの大型連休での余乳処理と、酪農・乳業界の「難路」は続く。
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