ニュージーランド北海道羊協力プロジェクト WEBセミナー実施2021年4月14日
ニュージーランド政府、アンズコフーズ、ファームエイジ(株)が主体となるニュージーランド・北海道羊協力プロジェクトは4月6日、羊の放牧に関するWEBセミナー「オンラインセミナー2021春」を開催。羊農家、関係団体など全国から70人が参加した。その内容を一部抜粋して紹介。
WEBセミナーの様子
今回のトピックは、ニュージーランド(NZ)のコンサルタントによる羊管理技術のアドバイスを受けた二つの羊牧場の(1)寄生虫管理、(2)分娩成績に関するキーポイントが紹介。その上で、NZのコンサルタントからのアドバイスやディスカッションが行われた。
■はじめに
ニュージーランド北海道羊協力プロジェクトに関して(ファームエイジ株式会社小谷栄二氏)
「日本における羊の飼養頭数は全国で14000頭、北海道でも1万頭といわれています。これは乳牛の場合、135万頭、肉牛の場合は255万頭と、産業として比較した場合、明らかに小さいものになっています。本プロジェクトは、このような現状に対し、羊牧場における課題解決をすることで、産業として成り立たせることを目的として、スタートしました。既に4年目を迎えており、様々な成果が現れてきました。今日のセミナーでは、その成果をみなさんにご紹介いたします。少しでも皆さんのお役に立てる情報が提供できればと思います」
■情報提供
放牧における寄生虫への抵抗力が高い羊を生産するために(NZコンサルタントのアラン・マックダーモット氏)
「今回ご提案する寄生虫管理は、どんな駆虫薬を使ったら良いか、どんな寄生虫に対応したら良いかということではありません。駆虫薬を使ったとしても寄生虫の影響を完全に排除できるわけではありません。ポイントとして、寄生虫の影響を最低限に抑えるという考え方が重要です。その上で、放牧において寄生虫への抵抗力を上げるためにどのようにな取り組みを行うべきか、お話していきたいと思います」
「では、どうすれば、抵抗力の高い羊を生産できるのかについて、お話していきます。体重増加のモニタリングやボディコンディションスコア(以下BCS)の評価など、数値で判断できるデータを作っていくことが重要です。適切に増体しているのか、または良好な体調を維持しているのか、判断し、対策します。もし、体重が増加していない個体がいた場合、体調が悪く、餌をきちんと食べていない可能性があります。そのような場合、十分なたんぱく質やミネラルなどのエネルギーを補うことで、羊は寄生虫に対して強力な抵抗力を持つことができます。寄生虫感染へのリスクを下げることができるのです。これが、寄生虫管理戦略において、すぐに実行可能なご提案です」
■ディスカッション
今年の分娩結果とコンサルタントからのアドバイスで、実感できていることは何ですか?
<発表>松尾めん羊牧場 佐藤場長
【牧場について】
およそ100頭程度の繁殖羊を飼養。滝川は豪雪地帯で、年間で放牧に出せる期間が実質5か月程度。
【結果について】
1.線虫による死亡個体がゼロに
2.牧草の品質の大切さを再確認
3.母羊の増体により子羊も大型に 例年にはない三つ子の出産も
4.BCS管理を年4回実施 線虫対策もこまめに
・質疑応答
Q1.子羊の体重はどの程度だったのでしょうか?
A1.双子の割合が多かったですが、三つ子は4kg台が多かったです。単子に関しては、小さくても5kg台~7kg後半ぐらいの子羊が多かったです。非常に体型的にも大きいサイズになっています。
Q2.種雄に問題があったということでしたが、今後何らかの対策をする予定でしょうか?
A2.1頭は高齢で今回が最後になるかと思っています。もう1頭は、まだ若い個体ではありますが、入れ替える予定です。おそらくサシバエにさされたりして元気がなくなってしまったようです。新しい雄に入れ替えようと思っていた10日程度の間に、受胎のタイミングを失ってしまったことも、影響しました。
アラン:佐藤さんの仰るとおり、10日間の間に受胎のタイミングを逸してしまったのであれば、マーキングハーネスやクレヨンをつけて、受胎のタイミングを失わないようにするのも対策の一つです。あと、BCS管理の話をしていただいていましたが、BCSの低い母羊から生まれた子羊に関しては、今後繁殖用の羊としては選定しないという選択肢もあります。なぜなら、良いBCSの母羊から生まれた個体を選定し続けることで、より良いBCSの羊の群を作っていくことも大切なポイントです。
<発表>茶路めん羊牧場 武藤さん
【牧場について】
子羊が900頭程度、繁殖羊は300頭程度。羊肉としては年間400頭程度をマトン、ラムを含めて出荷。
【結果について】
1.完全哺乳の個体がゼロに 作業員の負担が大幅に軽減
2.BCS管理を全員が徹底
3.淘汰の割合を高めてきたことがBCS、寄生虫被害対策に貢献
4.牧場始まって以来 事故率が10%を下回る
・質疑応答
Q1.数字上では非常によくなっていると思いますが、作業をする中でそれを実感することはありましたか?
A1.BCS管理の意識を高めたこともあり、今まで以上に羊を見るようになったと思います。単純なことなのですが、それだけでいろいろな事が大きく変わったと思います。
Q1.離乳の目安を3ヵ月ぐらいにしていますが、タイミングとして良いのはいつぐらい?
A1.NZでも3ヵ月ぐらい(12週間)としています。ただし、NZは放牧が主体のため、離乳のタイミングは草がなくなる時期を避けるという考え方があります。干ばつなどで草が少なくなった場合、親の餌が減ることになってしまいます。そうなるとエネルギー不足になってしまうためです。気をつけることがあるとすれば、BCSが低かった場合、親がミルクを与えていくと、自身の体調を維持できなくなり、次の繁殖に影響していく可能性があります。もし、BCSが低い母羊であれば離乳を早くして、親の体力を維持できるようにする必要性もあります。
■まとめ
Grass is money/better feed(NZコンサルタント アラン・マックダーモット氏)
「それでは、最後にキーポイントをご説明して終わりにしたいと思います。今回の寄生虫管理の中で、餌の管理、BCSが非常に重要になるとお話ししました。パネリストのお二人からもこの点に関しては、実績があるということでお話しいただきました。但し、このような知識をつけることも大切ですが、それを基に実行に移すことが大切です。ここに記載しておりますGrass is money/better feedというメッセージの意味は、放牧を通じて牧草を使うことで、それがお金になっていき、残っていくということです。また牧草においても購入した飼料においても、良いものを選ぶことが必要だということです。このことを覚えていただいて、何か新しい情報ができましたらまたこのセミナーの中で皆さんに情報提供をしていきたいと思います」
次回は11月開催予定。
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