組合員組織づくり方策探る JA人づくり研2014年12月17日
JAの役員や幹部職員でつくるJA人づくり研究会(代表:今村奈良臣東京大学名誉教授)は、12月4日、東京・大手町のJAビルで第21回研究会を開き、協同組合の原点と歴史のなかから、人づくりの基本について研究報告と意見交換を行った。女性の参画の意義、スペインのモンドラゴン協同組合の自主・民主の運営方法、次世代の経営者を育てるトップリーダーの役割、それに日本の組合製糸の組合員教育などの報告をもとに行ったディスカッションでは、農協が地域と組合員の協同組合として存在するために何が必要か、そのための人づくり方策について討議した。とくに次世代のリーダーの育成、組合員組織づくりの必要性が強調された。
次世代や女性を前面に
◆バネと接着剤で女性の力を発揮

女性の参加では、JC総研の小川理恵主任研究員が、「魅力ある地域を興す女性たち」のテーマで、全国5か所の女性組織の活動を紹介。そのなかから小川さんは、女性の持つ力を「バネと接着剤」に例える。それは「心の中のモチべーション。つまり「何かをしたい、してあげたい」という想いを「バネ1」として、それを「つなぎ合う力」を「接着剤1」。そして「外へと広がる力」が「接着剤2」で、さらに「飛躍する力・跳ね返す力」を「バネ2」とする。
具体例を広島県世羅郡の「世羅高原6次産業ネットワーク」で紹介。72団体1400人を組織する同ネットワークは、直売所「夢高原市場」を拠点にオリジナル商品開発、大型イベントや研修会などを開催して客を呼び込み、町の活性化に大きな成果をあげている。
きっかけは女性の生活改善グループで、これを下地にさまざまな組織、団体、学校などを結ぶネットワークをつくりあげた。ネットワークとしてのオリジナル商品の「世羅っとした梨ランニングウォーター」は、駅伝で知られる世羅高校の生徒たちとのコラボで誕生。また弁当の「せら弁」は、地産地消にこだわった中身で、バス会社や旅行会社に働きかけて予約販売する。
つまり、ネットワークが接着剤1であり、直売所の「夢高原市場」が接着剤2。そして彼女たちはいま、バネ2として「日本一大きくて美しく豊かな農村公園プラン」という大きな夢の実現をめざしている。
JAの役割について、小川さんは「地域にバネが埋もれていないか探し、女性たちの自主性をそがないよう、そっと背中を押して欲しい」という。
またJAに女性役員や女性管理職が必要な理由について、「女性ならではのセンスをJA運営に活かすことでJAの可能性が広がる。またその女性たちの意見をくみ取る役割がある」と指摘する。
だが現実には男性の女性に対するジェンダー・バイアス(偏見や固定観念)や女性の足の引っ張り合いなどがあるのも事実。小川さんは女性に多い、理由もなく自分を過小評価するインポスター(ペテン師)・シンドロームを克服し、「価値観が変化した今こそ、新たな価値を創り出す"新たな目線"が必要。私たち女性自身が勇気をもって一歩踏み出すべきだ」と訴えた。
(写真)
人材育成のあり方で意見交換する人づくり研究会
◆夢あわせ大学でリーダーを育成
次世代の経営者を育てることについては、JA松本ハイランド(長野県)の高山拓郎専務が、同JAの「夢あわせ大学」(夢大)の取り組みを報告した。
この大学には、今まで個別に活動していた組合員の各「大学」や職員、組合員の各種セミナー、組合員の「協同組合みらい塾」、職員の「人づくり塾」などを統合し、これまで、ともすればバラバラになりがちだったJAの役割や仕組みなどのイメージを一つにしようというもの。これまでの「大学」やセミナーはそれぞれ「学部」として位置付けた。
高山専務は、「夢大」への思いを「一世代前までは、地域にそれぞれリーダーがいた。しかし最近は、農協も冷めた目で見られている。熱い思いを語り、人の心をつかめるような人物を輩出しにくくなった。これではいけないという思いで開設した。組合員が自ら判断し、人を巻き込む力を持つために、この大学がそのきっかけになり、地域を引っ張るリーダーとしての資質を開花させてほしい」と述べた。
◆組合製糸に学ぶ「一郷一学」教育
製糸組合は日本で最初の近代的な組合組織として生まれたもので、そこには日本の協同組合の原型がある。JA甘楽富岡(群馬県)の理事でユネスコ世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」協議会の黒澤賢治副会長は、「協同と学びの歴史の原点」として群馬県の組合製糸「上州南三社」(碓井社・甘楽社・下仁田社)の歴史を踏まえ、「一郷一学」を紹介した。
上州南三社は、官営の富岡製糸場に負けないよう、大資本に対抗して独自の品質規格、飼育基準、品種改良などで大きな成果を挙げ、日本の協同組合史にその名を残したが、その原点には組合員の学習活動がある。「一郷一学」という組合員(農民)の教育・研修プログラムを作成し、エリア最適の学びの場をつくった。
黒澤氏は「これが1900年の産業組合法施行に至るまで、協同組合の学習活動として行われ、法律以前の協同組合が事実上運営されていた」と指摘。
そのうえで、「明治以後の先人の体験を活かしてほしい。効果のある教育プログラムを互換して、10年後を見据えた地域リーダーをつくらないとJAは思考力をなくし、競争力を失ってしまう」と、JAが連携して人材の育成に取り組む必要性を強調した。
(写真)
組合製糸「上州南三社」の一つ碓井社の旧本部事務所
◆組合企業が倒産「原則」を逸脱か
スペインのバスク地方にあるモンドラゴン協同組合は、労協、生協、農協、教育、信用、保険、共済、社会サービスなど、さまざまな協同組合を傘下に持つ混合型協同組合で、日本の総合農協に通じるところがある。
そのなかの中核企業である家電のファゴールが2008年のリーマンショック以来経営危機に陥り、昨年、実質的に倒産した。
これについて報告した石塚秀雄・協同総合研究所主任研究員は、このファゴールの倒産が協同組合の総会において、組合員の3分の2の賛成で、民主的に選択された結果であり、モンドラゴングループが協同組合として存続していくためになされたことを強調した。
その上で「家電部門はモンドラゴン協同組合のごく一部で、組合本体への影響は軽微だが、失敗は失敗。協同組合のあり方として、協同組合企業の本質あるいは原則から逸脱したものであるかどうか、原因を明らかにする必要がある」と指摘した。
ディスカッションでは、JAの運営への女性参画について、JA松本ハイランドの「女性参画センター」が紹介され、関心を引いた。同JAでは女性部員とJAの女性職員が自主的に「おいしさ届け隊」を組織し、消費地で農産物のPR活動を行っているが、こうした女性の活動をセンターがフォローしているという。
また、近次世代の女性組織の人づくりについて、高山専務は「若い世代の参加が少ないことを、必ずしも悲観していない。50代後半からの層が厚い。むしろその層に期待してはどうか」と問題提起した。さらに黒澤氏は「"一人一役"の考えで、若い世代が熟練者の良いところを借りるような仕組みづくりが必要」という。そのうえで「参加」と「参画」の違いを挙げ、「参加はJAと組合員を隔てることになる。組織活動についてのポリシーを変える必要がある」と指摘した。
このほか「JAの事業や活動のあらゆる機会に、若い人を表に出すようにすべきだ」、「人づくりに近道はない。各JAが、それぞれの条件に合わせてつくっていかなければならない」などの意見があった。組織活動では、新しい事業に賦課金をかけて参画意識を高めたJAいずも(島根県)の例などから、JAの組織活動に農家組合組織の必要性が指摘された。
(関連記事)
・シリーズ連載・歴史の転換期にみる人づくり(童門冬二氏 歴史作家、JA経営マスターコース塾長)
・法人経営で仕事おこす JA人づくり研究会(2014.06.27)
・トップの「思い」を職員へ JA人づくり研究会(2014.03.26)
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