経済性と社会性両立 協同組合金融の勘どころ ゆきぐに信組でフィールドワーク(1)【全中・JA経営ビジョンセミナー】2024年12月4日
JA全中教育部は11月13、14日、新潟県の魚沼地方を営業エリアとするゆきぐに信用組合でフィールドワーク(FW)を中心とした「JA経営ビジョンセミナー」を開いた。高齢化・過疎化が進む地域で、「競争から共存へ、排除から包摂へ」を合言葉に地域資源を生かした「世のため、人のための仕事」を展開するには、どのような取り組みができるか、地域における協同組合金融のあるべき姿を探った。特に「経済性と社会性の両立」、それを実践する人をどう育てるかがセミナーの焦点になった。

旧街並みを再現した「牧之通り」の中心にある「ゆきしん」本店
過疎地に営業拡大
約790世帯、人口1600人が生活する長野県北の栄村に昨年、ATM(現金自動預け払い機)が設置された。隣の新潟県から県境を越えて進出してきたゆきぐに信用組合(「ゆきしん」)のATMで、それも地域の金融機関としてライバルともいえる郵便局の中にある。
栄村を含め「ゆきしん」管内七つの市町村の中には、金融機関がない「金融過疎地」が少なくない。地域の金融機関として、栄村でのATM設置は、経済性とともに社会性を重視する「ゆきしん」の姿勢を象徴している。「非営利組織だからできることがある。誰ひとり排除されないため、高齢化の進んだ過疎地帯に進出することは私ども協同組合組織にしかできないことだ」と小野澤一成理事長は「ゆきしん」の経営理念を強調する。
「ゆきしん」は新潟県の南魚沼市、魚沼市、津南町、塩沢町、小千谷市、十日町市、それに長野県の栄村をエリアに地域密着型の金融事業を展開している。預積金残高約400億円。貸出金残高211億円(いずれも2024年9月末)。自己資本比率12・15%で、国際基準の8%を大幅に超える健全性を維持している。職員53人に役員4人で、全国でも有数の豪雪地帯で高齢化と人口減少の進む7市町村をカバーしている。

県境を越え過疎地の郵便局に設置されたATM(長野県栄村)
誰ひとり排除せず
「ゆきしん」は、だれもが金融サービスを利用する機会があり、かつ平等であるという「金融包摂」の金融サービスをめざす。利用者が少ないことを承知の上で県を越えて栄村にATMを設けたのもこの考えによる。「誰ひとり排除されることのないようにする」ことをめざしている。
地域の人材を育てる奨学金制度「ゆきぐに未来基金」もその一つ。「ゆきしん」などの共同出資による基金で、ひとり親家庭の1~3年の高校生を対象に、2016年の設立以来、寄付金は年間で1800件、6500万円に達する。387人の高校生が返済不要の奨学金を受けている。

「ゆきしん」の職員(女性)もセミナーのディスカッションに参加
セミナーでのディスカッションの概要は次の通り。
「わらしべ長者」教訓に
・「ゆきしん」は事業推進で数字目標を廃止したそうだが、JAでは考えられない。職員のモチベーションをどのように維持し、高めるのか。

小野澤一成理事長
――小野澤理事長:数値目標を撤廃し最初は混乱した。5支店で10のプロジェクトをつくり、事業者に寄り添った支援に集中させた。金融機関の融資は「安心」の提供であり、「不安」を解消するための手段だ。貸した時点から真の付き合いが始まり、返済を終えるまでとことん面倒を見る「永続伴奏型」の支援を信条としており、これを徹底して伝えている
・理事長の「世のため、人のため」の考えが職員の中で一気通貫している。JAにも理念はあるが、どうも内向きに作用している印象がある。「ゆきしん」は、地域の課題に積極的に向き合っているところが印象に残った。
・理事長の旗振りで、一つの目標に向けて取り組むことの徹底ぶりに感心した。JAの事業では幅広い事業で目的が細分化され、集中できなくなっているようにも感じる。ディスクロージャ―誌などを見ると、理事長は実に分かりやすく、自分のことばで話しているが、職員にはどのような教育をしているのか。
――私どもの事業は、わらしべ1本から次々高価なものを交換し長者になった「わらしべ長者」が教訓になる。事業を通じて人と人とのつながりを深め、交流を広げることで大きな価値を生み出すことができると思っている。
ローカル情報を重視
・JAの融資事業は農業の方向に向いていないように感じる。「ゆきしん」のように事業評価できる人材を育て、農家に寄り添って、最後まで農家と共に歩むことのできる職員を育てる必要があると思った。
――私どもは融資の判断に信用協会のデータは使わないようにしている、あくまで、その人物が分かる"ローカル情報"を優先する。そのためしっかりとヒアリングし、人と事業を評価できる職員の育成が大事。人材育成は重要な未来投資だと考えている。
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