米の乾田直播 省力化に期待も大きな課題 JA営農担当者に聞く2025年11月5日
農水省が「田植え不要の米づくりコンソーシアム」を設立し、節水型など乾田直播(は)の普及・拡大を進めている。一方、各地のJA営農担当者への聞き取りでは、雑草防除や鳥害、ほ場条件、装備コストなど多くの課題が挙げられている。また、農研機構によれば、失敗事例も報告されている。
省力・省水・環境配慮に期待
農水省の同コンソーシアムが9月25日に開いた第1回シンポジウムでは「節水型乾田直播」を新しい技術として紹介するなど、乾田直播の普及を後押ししている。また、資材メーカーのBASFジャパンは節水型乾田直播の推進に向け、雑草防除の成果保証型や収量保証型の新サービスの提供を始めている。
農水省によると、水稲の直播面積は2023年で約3万9000ha、全作付約134万4000haの約2.9%にとどまるが、担い手の規模拡大を背景に前年比105%と増勢だ。特に、畑状態で播種し栽培期間を通じて水は張らず散布で管理する節水型乾田直播は、「田植え不要・代かき不要・湛水不要」による省力・省水・環境配慮が期待される一方、収量の安定化と雑草管理など技術確立が前提としている。
農研機構では、乾田直播の技術的課題として(1)播種適期の管理(特に降雨量が多い地域や融雪の影響を受けやすい地域)(2)漏水と排水不良(解決には地盤改良や土壌管理が必要)(3)雑草・害虫管理(効率化と雑草に適したタイミングや方法の確立)(4)機械化と作業効率(機械の高コストや操作技術習得、導入コストの負担)などを挙げている。
失敗事例も紹介されており、具体的には、(1)収量の不安定性(2)雑草管理の困難さ(3)鳥害など害虫被害(4)初期投資と機械・ほ場整備の負担(5)品種選択の制限などだ。
JA営農担当者の声
各地のJA営農担当者への聞き取りでも同様に、多くの課題が提起された。
「漏水防止や播種適期管理のためのほ場排水・畝立てなど基盤整備が課題」(鹿児島県)、「雑草の増加やジャンボタニシ被害への対応が難しく、適切な除草剤選択や散布タイミングの習熟が要」(福岡県、石川県、新潟県)、「大型の農機などの導入コストや農機不足、操作技術の習得が普及の障壁」(富山県、鹿児島県)、「収量の安定化には試験的実証を重ねる必要があり、現段階では移植栽培が依然主流」(滋賀県、福井県)など。そもそも「担い手のニーズが少ない」(福井県)、「ほ場が小区画・山間でメリット出しにくい」(鹿児島県)といった声もある。
大規模法人を中心に試験導入を進めているJA全農みやぎでは、令和7(2025)年度の収量は「移植栽培よりも多かった」と成果を示す。一方、「当初は限られた農家が取り組み、当初の収量はよかったが、一定の面積に広げると収量が落ちる。V溝直は等の技術に取り組んでいる」
また、「鳥害は上からローラーで圧縮することで被害はなく、風害もほぼない」ものの、「除草剤散布のタイミングを間違えると、雑草に負けてしまう」などの技術的な課題を挙げる。また、「大型の農機導入コストも必要で、移植栽培との価格差は設定していない。新しい取り組みでもあり、コストや収量などを試算して販売価格も検討したい」としている。
農業機械メーカーでは、乾田直播専用機として、畝立て乾田直播機、可変播種量ロータリーシーダー、V溝播種機などが紹介されており、降雨後でも適期播種を可能にする機能や漏水防止構造が組まれている。しかし、播種機単体で150万〜200万円程度となる例も多く、小規模農家には導入の敷居が高い。導入後の運用・維持コストも現場の懸念材料だ。
みどり戦略との整合性も
みどり戦略との整合性も問われる。OKシードプロジェクトなど40団体が「節水型乾田直播の安易な普及を控え、水田の多面的機能の維持を求める」共同声明を発表した。
「節水型乾田直播」が水管理を省力化し、労力を大幅に削減できる技術である一方、ほ場の大規模化や農業機械などの設備投資が必要となるため、小規模家族農家など「多くの農家の離農、さらには農村の消失につながる可能性がある」と指摘。
また、水田が持つ連作障害の防止、治水・防災、水源涵養、水質浄化、気候緩和、生物多様性の保全といった多面的機能が、「乾田化によって大幅に損なわれるおそれがある」と懸念を示し、農水省に対して「水田と農家を守ることにこそ注力すべき」と求めている。農水省は「技術選択の一手段」と説明するが、環境・地域維持とのバランスが今後の鍵となる。
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