JAの活動:時の人話題の組織
【時の人 話題の組織】萬代宣雄・JA島根中央会会長 いま、なぜ1県1JAなのか?2014年5月9日
・人口が減少、家庭環境の維持も危うい
・3JA構想もあったが
・将来を考え、足下の明るいうちに
・始まっている職員教育の一体化
・地区本部が責任を持ち、収支均衡図る
・「合併してよかった」と言われるように
来年3月1日に、1県1JAとして「島根県農業協同組合」が誕生する。県内には現在11のJAがあるがとくに経営的に大きな問題を抱えているわけではない。それではなぜ、いま1県1JAを選択したのか。萬代宣雄JA島根中央会会長に聞いた。
将来に夢ある島根に
◆人口が減少、家庭環境の維持も危うい
――現在11あるJAを一つのJAに統合すると決めた背景には、島根県の諸々の事情があると思います。まずその辺りからお話いただけますか。 JAグループの共通認識としてあったのは、島根県の人口は、昭和30年には92万人でした。それが、高齢化や社会的構造の変化で、今日は70万人になっています。それが、約20年後の平成47年には55万4000人になる(総務省「人口動態調査」)と予測されています。そうなったときに、いまのままのJAで、地域でなくてはならない存在として運営ができるかどうなのか、ということです。
さらに、同じ島根県内といっても東西200km以上ある中では地域間格差がありますし、同じ出雲のなかでも平坦部と中山間地があり、また、県内の7割は中山間地です。
20年後には約2割人口が減ると予測されているわけですが、各地域で平準的に均衡がとれた形で減っていけばいいのですが、必ず平野部と中山間地・山間地では減り方が異なります。いまでも「限界集落」といわれるようなところが点々とみられますが、山よりの地域はほとんどがそうなり、家庭環境の維持が難しくなると思います。
そういう危機感を誰もが共有したことが、こういう形でまとまった要因だと私は考えています。
◆3JA構想もあったが
――経営的な問題ではなく、将来に対する危機感がそうさせたわけですね。
県内には11のJAがありますが、経営的に危ないJAがあるからではありません。15年先、20年先の将来をみて「いまのままでいいの?」といわれたときに、我々としてけっして「いい」といえる状況ではない。したがって、施設、システム開発等を共有化することは出来ないのか。また、農業振興の面でも農協間の垣根を取っ払い、生産効率の向上、農業の維持・活性化させることは出来ないのか。各JAの生産量は少ないが、特産として光っている農産物は数多くあります。そうした中で、昭和50年代は県内農業生産額は1000億円を超えていましたが、今日では600億円を割り込んでいます。こうした状況に歯止めをかけ、さらには活性化に取り組むべきではということです。
――その時に、例えば石見と出雲の2JAにするといった議論はなかったのですか。
各JAの総務担当の専務・常務による検討委員会を最初に立ち上げて、2年かけて検討してきました。そこで「3JA構想」についても議論をしています。しかし、3JAにしてもいずれは1JAにしなければいけない時期が来ることが想定されるので、大変だろうが「1JA構想」を進めようということになった経緯があります。
◆将来を考え、足下の明るいうちに
――JA合併とくに1県1JAについて、組合員離れするからとか、批判的な意見がありますが…
私たちは好き好んでJA合併をしようとしているわけではありません。いろいろなご意見がありますが、それは我々の思いとは少し違いますし、現場を見て実態を知って欲しいと思います。そのうえで、こういう方法を取らずに「JAが役割を果たせますか」と私はいい続けてきました。
ただし、皆さんがご心配されていることが100%払しょくされているかといえば、それはこれから我々が努力しなければいけないこともあります。
――これまでのJA合併は経済的な理由によることが多かったと思いますが、島根の場合は、そうではないわけですね。
人口の将来的なシミュレーションをみて、危機感を共有し、各JAが健全経営・堅実経営をしている「足下の明るいうち」と考えて進めてきました。
――1県1JAの是非を問うた投票では、賛成が圧倒的な多数でしたね。
1JAの総代の記名投票の結果は96.9%の賛同をいただきました。しかし、3.1%の反対があったことを無視してはいけないと思っています。組織が大きくなると…という懸念をもたれている人がそれだけいることは事実ですから、これからの努力で、この人たちに将来「あのとき反対したけれど、よく頑張ってくれている」といわれるようにするのが、我々の務めだと思いますし、そういうJAをつくるのが夢です。
◆始まっている職員教育の一体化
――本紙で取材をさせていただきましたが、新入会職員を中心にJAの職員教育にはすでに全県一本で取組まれていますね。
統合した時がスタートではなくて、その前であっても「やれることはやろう」ということです。島根にもかつては農協学校があり、1年間基礎教育を実施していましたが、現在は廃止されています。そうした中で、現場作業を行い、さらに研修を実施していましたが、教育が十分でないといわれていましたので、24年度から新人職員を3カ月間は県中央会で預かって教育に取組んでいます。中堅職員についても新しくカリキュラムを策定して、入会してから中堅まで職員教育について体系だって実施するようにしています。
新人の場合は、生産現場に入っての研修もあり、農業や農協の精神を現場に入って学んでもらっています。
――組織が大きくなると組合員との距離が広がるという懸念がありますが、これについては具体的にどう対処していくのですか。
今回の統合で約束したことは、まず、これまでの合併では支店などの統廃合を行ってきましたので、今回は支店などの統廃合はしないということをはっきり約束しました。
二つ目は、現在の11JAを地区本部にし、各地区本部での収支均衡をしっかりやってもらい、利益がでた地区本部はその地域の組合員へ利益還元したり職員にも還元するようにする。
◆地区本部が責任を持ち、収支均衡図る
――地区本部ごとに収益が異なるわけで、還元されるものも地区ごとに同じではないということですね。
そういうことです。各地区ごとに責任をもって運営していくということです。
統合したので、島根県農業協同組合の組合員ではあるけれど、あわせて地区本部の組合員という意識をもってもらうということです。
もう一つは組合員との接点をどうつくるかです。11JAの総代合計は6195名になりますが、このままの人数で総代会を運営することはできませんから、これを1000名にしました。
いままでは、支店別や地区別総代会を開催して意見集約をしていますので、それに替わるものとして、支店ごとに支店運営委員会を設置して、いままでJAの総代だった人や生産部会や女性部・青年部代表などにも加わってもらい、意見集約する仕組みをつくりました。
それからJAの役員についても現在の270名前後から監事を含めて74名にします。新JAの役員を含め、これまた、生産部会、女性部、青年部等の代表に加わっていただき、地区本部運営委員会を設置してその委員になってもらい、地区本部の運営に携わってもらいます。
このように、従来の総代会や役員会に替わる仕組みをつくり、いままでと同じように意見集約ができるようにしました。
――地区本部がかなりの権限を持つわけですね。
かなりの権限を地区本部が持つことになります。統合に先駆けて行っている支援資金についてですが、先ほど各地域で光った特産物があると申し上げましたが、こうした物を県域として支援することにより、その光をさらに大きくしたり、また、地域の活性化(女性部・青年部の活動、各種ボランティア活動、祭り事等の支援)のためのものです。特に広域的な事業展開には将来優先的に予算枠を取り支援ができればと考えています。
早速、JAいずもとJA斐川町で乾燥施設を共同利用することとなりました。それからいままでは県内の子牛を北海道で肥育してから県内に戻して肉牛として出荷していましたが、「島根の牛は島根で」ということで、安来に子牛のキャトルステーションの建設も予定されています。これも一つのJAになることの成果ですし、それが実感できる事例だといえます。
――人事についてはどうですか。
私は、地区本部の職員については、他の地区本部との人事異動は必要がないと考えています。ただ、レベルアップするための研修で他地区へ行くことは大いにやるべきです。
給与についても現状のままです。
今後については、隠岐で本土と同じ給与水準にするとJAの経営が成り立たなくなるといわれています。
全農や全共連で「地域係数」を設定しているように、島根でも地域間格差があることの科学的根拠を示した方式を作ってほしいとJC総研に頼んでいます。
それを5年後とかにまた見直していけばいいと思います。
◆「合併してよかった」と言われるように
――来年、27年3月1日に新JAとして新たなスタートを切るわけですが、いまのお気持ちを改めてお聞かせください。
一言でいえば「合併して良かったなあ」といわれるJAに育てていかなければいけないという思いを非常に強く思っています。
そのためには、経営トップになにかあっても、滞りなく引き継いでいける仕組み・機構をどうつくるかが重要な課題だと考えています。
そして島根は「足下が明るい」うちの統合としては初めてのケースとして、各方面から注目もされていますから、成功していかないといけないとも思います。
さらにいえば、統合することで自己資本比率もある程度の数字になりますが、私はこれ以上貯めこんでいくよりは、利益を出して農業振興や地域活性化のための事業振興に、さらには、職員のモチベーションのレベルアップのためにどれだけ使えるかが大事なことだと考えています。
農協のための農協ではなく、組合員のための農協として子々孫々を継続して、将来にわたって農協の使命をきちっと果たさなければなりません。
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