JAの活動:加藤一郎が聞く農協文化論
【加藤一郎が聞く農協文化論】国立公文書館 加藤丈夫館長「歴史と文化で地方創生」2020年3月19日
今回は富士電機会長時代の平成16年に「全農改革委員会」の外部有識者委員長にJA全農が招聘した独立行政法人国立公文書館の加藤丈夫館長にインタビュー。加藤館長は公文書とは「国や自治体のガバナンスを検証するという民主主義の原点」と話す。
【加藤丈夫氏との出逢いの風景】
加藤氏との出逢いは16年前の平成16年(2004)に私がJA全農常勤理事だった時代に相次ぐ不祥事で農水省から業務改善命令を受け、外部有識者を委員長とする「全農改革委員会」を設置することが求められたことに始まる。
どなたに委員長を依頼すべきかと全農会長から指示されたとき、私は経済界を代表する方であるとともに、文化人であることが重要であると考え、当時、富士電機の会長で経済同友会の幹事だった加藤丈夫氏のお名前に真っ先に思いあたった。氏の父は加藤謙一氏であり、戦前の講談社で「少年倶楽部」の編集長を務め、戦後は独立して「トキワ荘」にマンガ家が集まるきっかけとなった「漫画少年」を創刊し、手塚治虫をはじめ多くの作家を育てた方である。私は当時、丈夫氏が幹事を務める異業種間の勉強会のメンバーであったこともあり、承諾頂いた。
2005年に加藤委員長から(1)生産者と消費者の懸け橋機能の健全性(2)組合員の負託に応える経済事業改革(3)子会社管理の健全性(4)全国組織としてのガバナンスの確立などの答申を頂いた。それは、第23回JA全国大会決議「『農』と『共生』の世紀づくりをめざして-JA改革の断行」につながった。
その後、氏は様々な要職を歴任し、現在は国立公文書館の館長である。現在もJAグループへの暖かいサポートを頂いている氏に、今回は公文書とは何かにはじまり、公文書館の役割や意義、地域活性化のための視点、JAグループへの提言など幅広く語ってもらった。
◆公文書は民主主義の原点
――大手町のJAビルと公文書館は歩いて10分程度の距離にありますが、全国のJAグループの関係者からの訪問者は少ないように思います。まずは国立公文書館についてご説明いただけますか。
国立公文書館は国の歴史的な重要文書を保存、管理し、それを広く国民が利用することを使命とする独立行政法人です。
所蔵している文書は約150万冊あります。文書は3つに分かれていて、1つは歴史公文書で明治初期から現代まで国の重要な意思決定に係わる憲法をはじめとする法律や条約などの原本で約100万冊あります。このなかには日本国憲法、8月15日の玉音放送の原本があります。
2つめは明治以前の古書です。将軍家をはじめ寺社、公家、武家などが所蔵していた文書で約50万冊あります。なかには徳川家康が手に取って読んだという鎌倉時代の歴史書「吾妻鏡」があります。そして3つめは個人からの寄贈、寄託文書で政治家や官僚などが個人的に残した記録です。代表的なのは佐藤栄作日記です。
公文書とは、人々の生き方や暮らしに影響を及ぼす憲法や法律といった社会の決まりの内容と、それが成立した過程を正しく知るための機能を持ちます。つまり、国や自治体のガバナンスを検証するという民主主義の原点だということです。
もう1つは歴史資料館として先人の遺した歴史的な資料を見ることで日本の文化や伝統を理解し日本人としての誇りや自信を持つことにつながることです。こうした資料は、広く国民に利用していただくことが大切なので、国立公文書館では、展示会を開催したり資料の閲覧サービスなどをすべて無料で行っています。
毎日、各行政機関で膨大な公文書ができるわけですが、その1冊1冊について保存期限と、保存期限が満了した後に廃棄するか、永久保存するかを決めています。これをレコードスケジュールといいますが、この適否を国立公文書館が内閣府に助言します。さらに保存期間が満了となったときに、各府省は再度、廃棄していいかを内閣府に確認するという手続きをとりますが、そのとき、ここの専門家たちが、これは廃棄しないで保存しておいたほうがいい、これは廃棄していい、という助言をします。これが大変な作業で年間に350万件ほど助言します。
――諸外国の国立公文書館と比較してどのような状況にあるのでしょうか。
日本の国立公文書館が設立されたのは1971年ですが、フランスは1790年、英国は1838年、米国は1934年です。所蔵量を書架の距離にするとフランスは351㌔、英国は200㌔、米国は1400㌔にもなりますが、日本は67㌔です。担当職員も一桁少ないのが現状です。
◆公文書館活動を地方創生に結びつけよう
――県立公文書館は各県にあるのですか。
現在、38都道府県で設置されています。政令指定都市20のうちでは9市で設置、全国で80館あります。
最近は明治150年を機に各地で歴史的史料を発掘しようという動きが急速に高まって、平成26年から令和元年まで立て続けに各地に公文書館ができています。この運動をぜひ広げたいと思っています。
ただ、国の公文書館が地方の公文書館を指揮命令する関係ではありません。あくまでも協力関係です。地域の公文書を掘り起こすために専門家を置くというのも今後の課題で、地域に埋もれていた資料を見つける役割を担っていただきたいと思います。実はこれが地方創生のポイントだと思っていて、ぜひ公文書館活動を地方創生に結びつけていただきたいと思います。
◆JAグループの欠点は「蛸壺文化」
――私が2011年にJA全農代表理事専務を退任した直後、NHKから日曜討論「どうするTPP」への出演依頼がありました。全農の現職の方からは「遠慮した方が良い」と言われ悩んでいたところ、ちょうどお会いした加藤館長からはJAグループの欠点は「蛸壺文化」にあり異業種の方々ともっと議論すべきだから出演すべきだ、と言われて決断したという思い出があります。番組ではTPP反対派として、賛成派の当時ローソンの新浪社長らと議論しました。その後も経済同友会に呼ばれ農業の重要性について産業界の方々にも一定の理解を得ることができたと思います。JAグループにはどんな印象を持ちましたか。
印象に残っていることは2つあります。やはり組織全体が内向きで国民に開かれていないなということでした。もっと国民に向いた活動をしたほうがいいということです。全農というのはもともと農業の経済組織ですから本当は国民に近い存在です。だから、加藤さんがNHKに出演されることに内部には当然抵抗もあるでしょうが、むしろ外に働きかけるという点ではいいチャンスだと私は思ったということです。
それからもうひとつは子会社が非常に多く、当時は200以上あったと思いますが、それを協同組合としての全農が管理している。しかし、ガバナンスが必ずしもしっかりしておらず、当時、いろいろな不祥事は子会社から発生したものが多かった。やはり内部のガバナンスを見直すことが重要だということでした。
つまり、外に向けた活動と、内部のガバナンスをどうするか、たぶん今も変わっていないことではないかと思います。これからも最重点課題として取り組んでいただきたいと思います。
それから、これからは海外と日本の農業はどう付き合うかということが大きな課題です。あの頃も外国産にくらべて国産は高いと言うが、日本はいかに品質にコストをかけているか、もっとしっかりアピールしたほうがいいという議論をしたことがあります。
直売所などに行くとその日のとれたて野菜が生産者の名前までついて販売されています。あのような取り組みは海外にはないですよね。まずは品質ということですが、それを国民に分かってもらう。
協同組合は素晴しい組織です。私はよくコインの両面だと言っています。一枚のコインだけれども裏は組合員のために尽くす、表は国民のために尽くす、その両面を持っている組織だということです。しかし、どちらかといえば裏の面に力が入ってしまっているところがある。けれども農業協同組合の幹部はいつもこの両面を担っていることを意識することが大事だと思います。
あえて強調したいのは、むしろ表の面である国民に対する発信力を高めようということです。これが農業に対して国民が理解を深めることになると思います。
――ありがとうございました。
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