JAの活動:JAの現場から考える新たな食料・農業・農村基本計画
【シリーズ:JAの現場から考える新たな食料・農業・農村基本計画】食と命を守るため地域とJAからの実践を 菅野孝志JA福島中央会会長2020年4月21日
新型コロナウイルスは、食料とそれを生産する農業にも深刻な影響をおよぼし始めている。これがいつ終息するのか今の時点では分からないなかで「新基本計画」が策定された。この基本計画を基に、今突き付けられている課題を克服し新たな食料・農業のあり方を築くために何をすべきなのか。東電福島第一原発事故の風評被害とも戦ってきた菅野JA福島中央会会長に提言していただいた。
食料・農業・農村基本計画の見直しの下、自給率アップするには、取りまく情勢が悪すぎることを重々承知の上で、目標とするカロリーベース食料自給率45%が維持された。情勢分析でも次のように「少子高齢化・人口減少が本格化する中で、農業就業者数や農地面積が減少し続けるなど、生産現場は依然厳しい状況に直面しており、経営資源や農業技術が継承されず、生産基盤が一層脆弱化することが危惧される。」とし、この5年間で1%低下した平成30年度のカロリーベース食料自給率37%という状況に対し挑戦的であることに評価したい。揶揄するつもりはない。
財政措置の効率的かつ重点的な運用を通じ、日本の危機からの脱出と農業に掛ける覚悟を感じたと言うのが正直な気持である。成し遂げるために余力(ハンドルの遊び)の大切さを感じるのである。新型コロナウイルスの感染拡大による医療崩壊の危機は、効率化合理化を追い求めた先の医療改革によるものである。農業の創生には、農業・農村・JAで人材を抱え育てなければならない。自らの国が一番(ファースト)ナショナリズムの台頭は、いつ何時輸出入禁止という事態になりかねないことを経験している。
その想いは、「我が国の農業は、国民生活に必要不可欠な食料を供給する機能を有するとともに、国土保全等の多面的機能を有している。また、農村は、農業の持続的な発展の基盤たる役割を果たしている。農業・農村がもたらす恵沢は、都市住民を含む国民全体の生活と国民経済全体に裨益している。近年、地域の多彩な食文化を支える高品種な農産物・食品農村固有の美しい景観・豊かな伝統文化などが我が国の魅力の一つとして国内外での評価を高めており、これらは先人の努力で培われた有形無形の国民的な財産である。」さらに農業・農村の価値を見出し「田園回帰」という新しい潮流が生まれ形作られている。それは、人間回帰であり新たなコミュニティへの回帰であるとする思いが序文にある。その上で農は「国の基」情緒的とも感じるが、決意と覚悟を良しとする。
2、心ある日本を創生する10年
戦後の高度経済成長以上に、1990年以降の失われた20年で日本人の心は、他を思いやる優しさと尊厳さを失い「今だけ 金だけ 自分だけ」という世界を形成している。高度経済成長期においては、成長という中にも「こころ」があったのではないかと信じている。農村から首都圏に出て起業・会社での地位を確立したり、敗れたり。ふと自分に戻った時、山河は、大地は、海は、もう一度立ち上がれとエールを贈ってくれる温かさがあった。「水田の水面に山が映え、山の際まできれいに刈り払いされ里山に続き、凛とした森が形成され、清らかな水音と流れる小川がそこにある。」食料・農業・農村基本計画は、このような農業・農村・地方を形成する憲法・指針なのである。
その基本は、人である。担い手の育成という文言が各所に記載されており嬉しく思う。農業の営みは、所得だけではない。並みの所得が約束されることにより人は、回帰する。人がいれば、むらが賑わいを取り戻す。賑わいは、産業を豊かにする。そこに国(省庁)の横断的な施策や県市町村の連携、さらに地域の産業や人の連携は三方良しとなる。とかく外国人技能実習生や労働力が農業や産業の人的課題を解決するとの見解には疑問である。非正規雇用や若者等人材・資源が眠っている。人を育てることは時間と熱意と金が掛かる。我々は、福島第一原子力発電所の事故を通じ被災地域での帰還と営農再開の難しさの中で、すでに経験したことである。むらが動き出すには、一人や数少ない人で出来るものではない。本計画の生死を分けるのは、農業人を育てたかどうかである。
3、都道府県やJA農業振興計画と食料国産率
畜産物の飼料自給率25%(目標34%)。カロリーベース食料国産率は、46%(目標53%)である。飼料自給率を表舞台に浮上させ食料国産率目標が出たことは、意見のあるところであるが歓迎している。やるべき方向感・方策が明確化したと言えるからである。飼料用作物の自給率向上は、荒廃農地の活用と飼料米を最重点に実施すべきである。そう決意したものと捉えている。
令和12年の主要農産物の生産目標が設定された。必要な耕地面積は、如何ほどになるのだろうか? 地域に落とし実践し検証しようではありませんか。
今日までのことを振り返ると、示された計画を当該都道府県、各JA(管内の市町村)の地区や営農センター単位に落とし込み検証する事は無かった。国民的世論形成と運動に対し賛同を得て共有するには、食料・農業・農村基本計画を我々が自らのものとしない限りあり得ない。過去20年への反省を込めてそう思う。ゆえに、2020年1月10日「福島県農業振興フォーラム」を開催し、本計画の狙いと我々JAグループが進めなければならない人づくり等諸策について議論した。
厳しい環境下であるが、国民の食と命を守るために食料自給率目標達成と豊かな潤いのために、SDGsの持続可能な開発目標を達成させる活路を拓くために、気概と財政確保が必須である。
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