JAの活動:私の農協物語
【私の農協物語】貧しさから解放 胸に(下)元農林中金副理事長 上山 信一氏2022年7月1日
昭和20年代~30年代、戦後の不況による倒産や経営危機から経営を立て建て直し、今日の農協の基礎を築いた人が少なくなった。いま以上に大きな困難に直面し、それを乗り越えてきた先人たちの経験は、われわれにとって貴重な財産であり、是非とも残し、伝えなくてはならない。農協のために尽くした先人たちに語ってもらう。(随時掲載)
「資本論」に感銘
大学時代にマルクスの資本論を読み、労働力を商品とみるロジックには、あっと思ったね。当時、東京大学では東畑四郎、近藤康夫、神谷慶治など、農業経済学で知られた先生がいたが、私は「貧しさからの解放」を著した近藤先生に共感するところがあった。
しかし、大学はあくまでアカデミズムの世界であり、小中学時代に身近に接した花きや野菜の生育、旧制松江高校時代にボート部で体験した湖や川などの自然に興味があり、その摂理を現場で学ぶことが性にあっていたように思う。
農協については、戦争が終わり、村に農協ができたころ、地元農協の大先輩の三橋誠(全農初代会長)さんに「農協運動を一緒にやろう」と声を掛けられ「農民一人ひとりでは暮らしは守れない。イチゴもそうだが、各自がばらばらで出荷していたのでは値段は相手任せだ。皆が協同して計画的に出荷しなければ納得できる値段は実現できない、今まで失っていた価値を取り戻すのだ。自分たちの暮らしは自分たちで守らなければならない。それは協同によってできる。それが農協だ」と熱っぽく語っていたのが印象に残っている。
弁当をすられる
昭和24(1949)年、22歳の春に上京して東京大学に入学した。当時、高円寺からお茶の水まで電車で通っていたが、満員の車内で下宿のおばさんに作ってもらった弁当を、満員の車内で切り取られたことがある。まだ食料難が続いており、強制供出で生産している農家でさえも食べ物に苦労していた。そのころのことを思い出すと、国は、いまなぜ国民の食料のことを本気で考えないのかと思う。
一方、地方では昭和22(1947)年の農協法制定に伴い、全国に多くの農協が誕生した。しかしその後、戦後の超インフレを抑えるため実施したドッジ・プランによって深刻なデフレに陥り、農家は困窮を極め、昭和25(1950)年度末には多くの農協が負債を抱えて倒産を余儀なくされた。
こうした厳しい環境のなかで、村の人たちは農協を立て直し、農家の生活を守るため、毎日のように部落座談会を開いて話し合った。農協の赤字解消計画をつくり、増資を引き受けるなど再建のため皆の力を結集した。協同購買で肥料や飼料の価格を引き下げ、生活用品は、皆で米一升(1.8リットル)ずつ出し合って移動購買車を購入して組合員の暮らしを支えた。
協同の力を知る
協同販売では、野菜を生で出荷していては、人口の少ない地元市場では限界があるため、協同で古い酒樽を買って漬物にして出荷した。当時は農家も農協も大変な資金不足で営農資金にも事欠く状態でした。営農資金を自賄いするため、タスキ掛けで貯蓄運動に奔走した。そうした取り組みから、農家一人ひとりではできなくても、皆が協同すれは、より大きな力を発揮できる。自分たちの暮らしは自分たちで守っていける。それは農協の力だということを学んだ。
危機的状態にあった農協の経営は、昭和26再建整備法、連合会整備促進法が出て、やっと安定してきたが、その骨子となったのが無条件販売委託、予約購買、共同計算、整促7原則だった。しかし、今日の肥料や飼料の取り扱いや、米の集荷などを見ると、この原則が機能しなくなっているのではないか。「築城3年、落城3日」と言われるが、多くの先人が苦労した原則を崩してはならないと思う。
農林中金退職後は、もちつきや注連縄、門松など農村の行事や文化を残すため、毎年のカレンダー「くらしの歳時記」をつくっている。これが評判で多い年には20万部配った。また、鳥取県の縁や農林中金時代のつきあいを生かし、米や野菜で農協とコンビニエンスストアや外食企業との橋渡しをして、国産農産物の消費拡大のお手伝いをしている。
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