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特集:創ろう食と農 地域とくらしを

2014.08.07 
地域の文化、暮らしを守る 協同組合の役割に期待する  星寛治・農民作家一覧へ

・岐路に立つ協同組合主義
・改めて農の公共性、普遍性問う
・「置賜自給圏」の柱に
・くらしと文化の基層を支える

 特集『創ろう食と農 地域と暮らしを』の第3号は「農協改革」をテーマに農民作家の星寛治さんと農業ジャーナリストの榊田みどりさんの提言に続き、北海道から沖縄までの農業、農村現場のトップ層7人の発信をお届けする。復興に向け確実に歩みを進める福島をはじめ、厳しい自然と闘い食料増産を担ってきた北の大地、人口減少と高齢化が進む中山間地や離島、さらに大都市での農地の維持の苦闘――。それは今の日本社会そのものの課題でもあり、協同組合としてどう立ち向かうのかも強調された。これらの発信が視野の広い自己改革に取り組むための一助となれば幸いである。

民族文化の源流を守れるのは、
人間の尊厳と相互扶助をモットーとする協同組合をおいて他はない。


◆岐路に立つ協同組合主義


toku1408070201.jpg  お手盛の規制改革会議の意を体した攻めの農業と、地域の活力創造プランに、俄に農協改革が組み込まれた。多国籍企業とマネー資本が先導する偏ったグローバリズムを丸呑みして、TPP路線を先取りするような政策に、現場は困惑を深めている。農業生産のインフラと、住民の暮らしを守る役割を、農協総体と各専門部会、集落の生産実行組合などが担ってきた。その地域社会の基盤をなす組織活動と支援体制を岩盤と称し、そこに風穴を開けることを目論むことは、改革の名に値しない。現状を踏まえずに、上からの目線でJA全中を解体し、全農を株式会社に改組するというのは、自立と互助、そして公正な社会の実現を求める協同組合理念の否定につながる。農村社会の高齢化と過疎の進行は、農協の責任などではなく、変転を重ねてきた農政そのものにあるといえよう。
 然るに、国策による“現代の囲い込み(エンクロージャー)”のように伝来の農地を集積し、大規模経営体だけに支援を特化し、さらに資本の参入を促せば活性化が実現できるとするのは見当違いである。その陰で、山村、中山間地、離島などの条件不利地の営農と、平場も含めて8割を占める家族農業は窮地に陥り、崩壊を余儀なくされるであろう。

 

◆改めて農の公共性、普遍性問う

山形県高畠町の田園風景(提供はDVD「いのち耕す人々」より。配給 桜映画社) 私はかねてから、命の糧を産む農の営みは、市場原理を超える公共性、普遍性を持つもので、経済効率とは異なる生命の物差しで測るべきだと考えてきた。だから、教育、福祉、保険医療、環境などと同様に、公的な支援と推進体制が必要であり、そうでないと公正で適切な生産と流通システム、そして安全で安心な消費生活は維持できない。近年、年を追って拡大する生活格差が、経済社会の矛盾を、如実に物語っていよう。
 私は、95年(H7年)に設置された全国環境保全型農業推進会議の委員として、熊沢喜久雄会長の下で各界の代表と共に8年間論議に加わった。その舞台廻しの事務局は、農水省、JA全中、日本生協連が担った。そこには、直面する課題について、幅広く詳細な資料が準備された。
 その白熱の議論の中からエコファーマー制度が生まれ、また地域のすぐれた実践活動に対する顕彰が行われてきた。私の地元では、地域ぐるみ環境農業に取り組んできた上和田有機米生産組合が96年(H8年)に第一回の推進会議会長賞を受賞し、2010年(H22年)には農林水産大臣賞(大賞)に輝いた。それは、地域集団と生産者にとって誇りと励みとなり、やがて原発事故の風評被害のような困難をものり越える底力となった。
 また、JA山形おきたまぶどう部会の和田支部は、全員エコファーマーの認証を受け、市場と消費者の信頼をかち得ている。制度発足当初は、全国で3000名ほどだったエコファーマーが、今日では20万人を超すまでになった。JA全中の教育力が組合員の環境意識を深化させたことの成果だと思える。
 さらに、国が推進する「農地・水支払い」や「人・農地プラン」など、集落をベースにした取り組みついても、JA職員が行政と連携して実務的な便宜を図ってくれている。
 そして、生活面では女性部のこまやかな日常活動が、楽しく潤いのある地域づくりに貢献し、暮らしの文化を高めている。加えて、JAの直売所(愛菜館)は、女性や高齢者の多品目少量生産の自給産品や、手づくりの加工品などを販売できる大事な拠点となり、副収入と生きがいをもたらしている。いわば「地産地消」の推進軸として機能しているわけである。
 やや広域的には、佐久総合病院をモデルとするような各地の厚生連の献身的な日常活動が、住民の保健、医療、福祉を向上させる砦となっている。

(写真)
山形県高畠町の田園風景(提供はDVD「いのち耕す人々」より。配給 桜映画社)


◆「置賜自給圏」の柱に

イザベラ・バードが絶賛した「美し国」(桜映画社提供)  グローバリズムと新自由主義の激流が、わが国の地域社会を呑み込み、家族農業、中小企業、商店街などの存立基盤を脅かしている。各地で人口減少と過疎化が激しく進行し、地域(コミュニティ)の存続すら危ぶまれる所も出てきた。その空前の危機に立ち向かい、住民の主体的な力を結集して地域の明日を拓こうとする気運が、ここ置賜から起こってきた。4月に「置賜自給圏構想を考える」が、主旨に賛同する住民300名が集まり、3市5町の首長や国会議員も馳せ参ずる中で発足した。かつて人口25万人の広域圏と称した置賜地方だが、今では22万人台まで減少し、危機感が募っている。米沢市を中心として、ほぼ旧上杉藩の領地と重なるエリアだが、江戸中期に窮乏を極めた藩財政を、自給、自立の精神で打開した上杉鷹山の藩政改革に学び、内発的発展をめざそうというのである。
 明治11年、この地を訪れたイギリスの女性旅行家イザベラ・バードが、「ここは東洋のアルカディア(理想郷)だ」と絶賛した美し国(うましくに)の風土と地域資源を活かし、食と農とエネルギーの自給を基軸にした循環型社会の構築を描いている。いわば「身土不二」の四里四方のエリアで、健康、福祉、医療、教育、文化の充実を求め、成熟社会の価値を実現しようと呼びかける。来る8月2日には、法人化を前提とした「置賜自給圏推進機構」の設立総会が予定され、具体的な実践活動へと動き出す。その屋台骨は、住民団体の他に、市町行政、JA山形おきたま、山形酪農協、森林組合、生協、食品製造業、旅館業組合、大学などで構成する。その機関車の部分は、協同組合運動を担ってきたリーダーと組合員が、主要な役割を果たそうとしている。全ての分野で地場産品の愛用を促し、富と資源の流出を防ぎ、域内循環の比重を高めることをめざす。
 しかし、自給圏構想は、けっして自給自足の閉鎖社会をイメージしているわけではない。かねて中世から近世においても、北前船や最上川舟運によって、米、紅花、青苧(あおそ)などの特産物を、京、上方や江戸に届け、帰路は雅の文物と暮らしの知恵を持ち帰った。陸路も含め、活発な交易と人間交流を通して、みちのくの懐深くまで文化の波動は届いたのである。まして情報、交通、流通が高度に発達した現代社会では、幕藩体制のように国を閉ざすことなどあり得ない。けれど、IT社会の便益と仮想現実では充たされない何かを求め、人々は再び大地に還り始めた。豊かな自然と土の香りの中で汗を流す営みから、人間としての生身の実感を取り戻し、そして現地交流から生まれる新たなつながりに、喜びと希望を見出している。

(写真)
イザベラ・バードが絶賛した「美し国」(桜映画社提供)

 

◆くらしと文化の基層を支える

 たとえば、飯豊、朝日山系の懐深く点在する集落では、全戸がJAの組合員であり、移動購買車が来るのを首を長くして待っている。JAは採算を度外視してでも、山の民のライフラインを支えているのだ。民族文化の源流を守れるのは、人間の尊厳と相互扶助をモットーとする協同組合をおいて他はない。
 また、地域農業の基幹をなす米の生産と流通については、全農の組織力が圧倒的な役割を果たしてきた。かつて米の流通業界紙に関わり、のちにわが町に帰農し、認定農家として活躍するK氏によれば、「米の価格設定においては、商系といえども、その年度の作柄と需給事情を勘案して、全農と、県連、単協が協議を重ねて決めた買取価格が基準(スタンダード)となって決められていく」と語った。仮に全農が株式会社になった場合、生産費を反映した公正な基準価格の設定よりも、市場相場に委ねる方向に傾斜する懸念はないだろうか。
 系統の生産・生活資材の供給事業においても、安全・安心なもの、耐久性のすぐれたものを、適正な価格で組合員に届けてくれた。末端価格で多少割高なものがあったとしても、品質面での信頼は確かなものがある。購買も、金融も、共済保険も、組合員の立場に立った推進とアフターサービスが行き届く。
 そして、失ってならないのは、全中が果たしてきた日本の農民が共通認識を以て国内外の重要課題に立ち向かう政策提言の力である。産地間競争だけにエネルギーを注ぐのではなく、災害や外圧などに対して連帯して立ち向かう姿勢は、全中のリーダーシップによって貫かれてきた。物事の本質を見失わない確かな情報提供と教育文化活動、たとえば機関紙(誌)の発行や、研修・講演会などは、農家だけでなく都市の消費者市民にとっても、食と農を考えるすぐれた教材となっている。
 また、国内外の先進地視察や観光事業も、幅広い親密なネットワークを生かし、魅力あふれる果実をもたらしてきた。
 そのように、組合員だけでなく広く国民に情報と文化を提供してきた協同組合の組織活動と支援システムを岩盤と呼び、解体しようとする動きは、世界の歴史の潮流に逆行する。
 一昨年は、国連の定める「国際協同組合年」であり、今年は「国際家族農業年」である。途上国はもちろん、EUなどへの先進諸国においても、中小規模の家族農業が、農協と一体となって、地域社会の基盤を形成し、食料の自給と住民の健康を支えてきた。加えて、豊かな環境と美しい景観を守り、伝統と、地場産業と、生活文化の向上を求めて人々は力を合わせてきた。まさに地域農村こそ生命と文化の母胎である。
 これまでも、これからも、自立と互助を基本理念として、公正な社会の創造をめざす協同組合は、私たちの最大の拠り所である。そのかけがえない人類の財産を、未来への灯として、共有し、更なる発展を願ってやまない。

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