JAの活動:挑戦・地域と暮らしと命を守る農業協同組合 女性がつくる農協運動
自分は何が欲しいか? その構想が未来つくる【国際政治学者・三浦瑠麗さん】2019年1月21日
・農村女性へのメッセージ
 国際政治学者としてメディアで発言している三浦瑠麗さんは農学部で地域環境工学を専攻。その後、政治学の研究に進んだ。今回は、豊かな地方の未来をつくるための考え方を農村女性へのメッセージとして聞いた。
◆「地方消滅論」にジェンダー差別が
 少し前に『地方消滅』という増田寛也氏の著書が話題になりました。実際、地方は疲弊し人口減少しているのは確かですが、あのなかでこれだから男性主導はだめだと思わされる箇所がありました。それは地方を消滅させないためには女性を地方から出さないようしなければならない、という見方です。
 少し前に『地方消滅』という増田寛也氏の著書が話題になりました。実際、地方は疲弊し人口減少しているのは確かですが、あのなかでこれだから男性主導はだめだと思わされる箇所がありました。それは地方を消滅させないためには女性を地方から出さないようしなければならない、という見方です。
 これは男性的表現で私なら言いません。ジェンダーが違う他者だから、安易にそういうことを言えると思いました。農村地域の女性の生きづらさを何ら理解していないと見える。これは増田さん個人の問題というよりも、そういう表現でしか語れないからこそ、農村に魅力がなくなっていくという負のサイクルだと思います。私は田舎派で週末は山のなかに住んでいます。ログハウスを建てて土いじりもしています。そういう人間からすると、田舎では生きづらいということにもならず、かつ単に都会人のバカンスのための豊かさというのではない豊かさをどう実感できるかを考えていく必要があると思います。
 2年に一度、必ずイギリスに行きますが、とくに好きなのはスコットランドです。イギリスはロンドンからスコットランドに列車で向かうと30分もすれば完全に田園地帯になります。もちろん大きな駅に近づくとだんだん住宅が増えて駅周辺には巨大なショッピングセンターと駐車場があるわけですが、それを過ぎるとすぐにまた田園地帯になる。そこはたとえば再生可能エネルギーを生み出す風車がずっと回っているような地域であったりします。
 日本は山がちという特徴もありますが、すべてが小さなつくりになっていてイギリスのような選択と集中がない。たとえばロンドンから少し離れると、都市に朝獲れブルーベリーを提供するような広大な農地が広がっていたり、あるいはアグリツーリズムのための農地が広がっています。
 イギリスと日本の農村地域の差を考えてみると、やはりまだ日本では人力に頼っている農業が多いと思います。これは実際には非常に効率が悪く、重労働であり、農業に参入しようという人や後継者を減らしている原因のひとつだと思います。
 それが地方の豊かさを感じにくくしている要因でもあります。実は大事なのは人口ではありません。たとえばこの地域が全体として100万円の利益を上げられるとしたときに、100人で割ったら1万円ですが、20人なら5万円ということになります。少ない人数でもいいから、1人あたりの利益が大きいということが大事です。
 だから、実は農業の少人数化や大規模化は大事なことで、日本全体が人口減なのだから農村地域が人口減なのは全然悪いことではないんだと考えて、その分、みんなが豊かになることを考えればいい。ただし、今の生産体制を維持したままだと、豊かになれないまま少人数になってしまう。
◆高品質の農産物へ農協は意識改革を
 その意味ではたとえば法人化は必要です。実際、私が週末を過ごす信州でも、農業をやれなくなった人がまとめて土地を貸し、借りている人が株式会社をつくって農業経営をしています。新進気鋭の経営体もあって、非常にクオリティの高い農作物を作っています。消費者からすると地のものは魅力があり新鮮で、しかも高付加価値であればあるほど愛着が増します。
 こういうことを考えると農地の所有者だけを守る現在の農協制度はどうでしょうか。戦後の農地解放で小作人が農地の所有主になれたわけで、それを基本に組合員がお互いに対等に土地を持っているところからスタートした助け合いの組織だと思います。
 しかし、戦後はいわゆる三ちゃん農業が増えていき、今は農地を維持することもできなくなって貸し出す人も出てきています。そうすると耕作者の利益を守るということはどういうことか、もう少し見直す必要があると思います。実際にはむしろ農協ごとにライバル意識を持って自分たちの農産物に自信を持っておられることを感じますから、もっと農産物の付加価値を高める力にすれば非常にいいのではないか思います。
 食べたいお米も人によって好みが全然違いますよね。硬い、柔らかい、粒が大きい、小さいなどそういう差別化、差異化をはかっていかないと消費者の利益に応えられないし、バター1つとっても、もっと差異化していいのではないかと思います。私は信州のある牧場のバターを買いますが、ニュージーランドのバターも買います。それはそれぞれに特徴があるからです。全国どこでも同じようなバターしか売っていないということがそもそもおかしいのではないか。政策としても農業者の可能性を狭めることになっていないかと考える必要がありますし、日本の消費者はおいしいバターのためにはもっともっとお金を出すと思います。そういう発想の転換を図っていかないと豊かな地方は実現しないと思います。
 そこで助け合いとしての協同組合は残しつつ、やはり資本主義の一員として、1ファクターとして農協が機能していくのは地方の豊かさにつながると思います。協同組合が基礎となって合意形成を引っ張っていく町づくりはあると思います。
◆子育て世代の願い安心して働ける場
 消費者はより安くを求めるのではないかと思いがちですが、少子化も進んでいますから、やはりよりおいしいものにより手間をかけて、という考え方になると思います。
 子育てについて、なぜ希望の人数を産めないのかといった調査をすると、多くの人はまずお金が問題だと答えますが、いろいろな回答を読み解いていくと、実際は、子育てを完璧にやりたいから今の条件下では1人か2人しか無理、ということなんです。やはり昔にくらべて、子どもの安全、食に対するこだわりなどを求める気持ちは上がっていると思います。結局、女性が安心して働けて、女性が思うような子育ての品質をクリアできるのであれば、みんなその土地に居ついて、望む人数を生んで子どもを育てるのだと思います。
 その意味でもデフレマインドからの脱却は非常に大事で、海外から安い製品が輸入されるから、もっと安くしようというのでなく、大規模化や法人化など効率化を進めてコストダウンを図りつつも、より高く売ることを考えていかなければならないと思います。
◆豊かな農村づくり女性の感性活かせ
 イギリスの話をしましたが、彼らはものすごく国内旅行をします。歴史好きでいろいろな場所に出かけていきますが、地方はその交流人口で生きています。そこで日本でもアグリツーリズムの需要がどれほどあるのかを考えると、昨今、都会で子育てしているお母さんたちがみんな言うのは、自然に触れさせたいけれど自分が望むクオリティの自然がない、ということです。農業体験でもどこでもいいというわけではなくて、そこに差異化が必要だということです。
 外国人にも日本の農業体験は絶対に人気があります。日本の美しい風景といえば必ず棚田が出てきますが、それを写真集ではなく、実際にどう生かすのかという点では、たとえば和歌山県の外国人向け観光ウェブサイトでは、棚田をサイクリングロードのなかに入れており、それを回れば藁細工や昔ながらのかまども体験できるなどと情報発信しています。そのように地域を体験をしてもらい、そこでしばらく過ごしてお金を落としてもらい満足して帰ってもらえばいい。
 農村地域はこういう方向に軸足を移していく必要があって、そこで大事なことは自分たちが豊かな農村を作るということです。そのためには女性の感性はとても大きな役割を果たせるはずです。その女性の地位をまともに待遇しないと地域に未来はないということだと思います。
 もうひとつ、独身女性の農業者の可能性にも注目すべきだと思います。この人たちをどのように取り込んでいくか。私は信州でそば打ち体験やワイナリー、農園めぐりなどに行っていますが、女性がすごく目につきます。女性ばかりのワイナリーもあります。そういうところで働いている人たちをみると、仕事も環境も楽しんで生活をしておりアイデアの宝庫です。そういう人たちを地域のJAが取り入れることが、次なる改革だと思いますし、その地域に居ついてもらえるかどうかは、発言権があるかどうかとセットだと思います。
 女性の農業者のみなさんには、生産者でもあり消費者でもあるという観点からやはり自分が食べたいと思うものを提供していただきたいし、自分が住みたいという環境に都会の人々を受け入れてほしいと思います。つまり、自分がほしいものについて、もっと上を目指してもいいのではないか。もう少し贅沢を言っていいのではないか。我慢する、がんばるではなくて、自分は何が欲しいのかと構想していくことが、本当に大事な子どもたちに将来も住んでいきたいような地域を残していくことにつながるのではないかと思います。
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