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【ホクレンの100年-2】内田和幸ホクレン会長に聞く 生産基盤守り次代へ(命と暮らしと地域を守る農業協同組合の戦い・歴史が証言する)2019年10月10日
―北海道農業をリードし、創立100周年を迎えたホクレンに対し、どのような思いがありますか。
ホクレンは大正8(1919)年に発足しました。それから大正、昭和の戦中、戦後の混乱期を乗り越えて今年、無事に100周年を迎えることができました。想像を絶する労苦によって今のホクレンの基盤を築かれた先人みなさん、それにホクレンを支えていただいた消費者、取引先、会員JAのみなさんに感謝します。
北海道の農業は戦後、急速に変化しました。戦後、私が子どものころの主な農作業は手作業で、高校を卒業したころに機械化の先駆けともいえるテーラー(耕耘機)が入り、それをきっかけに、あっという間に乗用トラクターに代わり、機械化の時代になりました。
私が生まれ育った夕張郡長沼町の農業は、以前は米が中心で、畑作でバレイショやビートなどを作っていましたが、価格が不安定で政府管掌作物である米なら、一家で何とか食べていけるという状況でした。
生活を維持していくためには米が一番安定していましたが、当時の品質基準で等外の5等米が多く、品質・価格面で問題がありました。1970年代になって、米の需給緩和を契機に生産調整が始まり、畜産、果樹、野菜などへの転換が進められ、作目のバランスがとれた今日の北海道農業に至ったと認識しています。
―北海道農業を確立するためホクレンはどのような役割を果たしてきましたか。
国の政策もありますが、米作から畑作・園芸作に切り替わった背景には、消費者ニーズの変化があります。消費者のニーズに向き合って、何をどれだけ作り、どのようにして収益に結びつけるかが重要で、ホクレンは、全国の需要、市場の情報を集め、JAや生産者に提供しました。
それぞれの情報をJAや生産者が集めるには限界があります。ホクレンが出荷先の市場動向や消費者ニーズを伝えることで生産者の意識を変えていただいた場面もあったと考えます。
単に市場情報を伝えるだけでなく、ホクレンが産地づくりを進めるときには、消費のニーズに合った作目を選び、乾燥・調製施設や設備の建設計画を提案します。それに合った品質や量、売り先などを示し、JAや生産者の同意と協力を得るようにしています。まず施設をつくって売り先も確保した、だから安心して生産して欲しいという手順です。
そうでないと組合員は安心して結集することはできません。その分、ホクレンはリスクを背負うことになりますが、JAグループとして、その姿勢をしっかり見せることが重要です。この辺が、規模の大きい北海道農業の特徴のひとつだと思っています。
(写真)創立時の北聯事務所
―都府県と比べ、ほかに北海道農業の違いはどのようなところにありますか。
ホクレンの歴史を振り返ってみると、設立当時は、「仕込商」と言われる商人が農産物や肥料や農機具の販売・流通を握り、生産者は営農に必要な資金を借り、収穫期の農産物を担保として秋に精算するという「仕込み取引」が一般的でした。
販売手段を持たず、日持ちのしない農産物を抱えた状態で、ばらばらに商人と交渉すれば買いたたかれるのは当然で、生産者の経済はどんどん商人に握られるようになりました。大正2(1913)年の大凶作で商人が貸し売りをやめて現金取引を要求したり、古い掛け売りの回収をしたりしたのを契機に大正8年「保證責任北海道信用購買販売聯合会」(ほくれん)が設立されました。みんなの力で生産資材を共同購入し、農畜産物を共同販売する。それがスタートでした。
ホクレンの販売事業は、預かったものを貯蔵し、需要に応じて販売することが基本です。消費地市場までの距離があり、輸送時間のかかる北海道にとって、調製・貯蔵施設の確保はホクレンの重要な役割です。
―北海道のJAは、小規模でも営農・経済事業が安定しています。信用・共済事業重点の都府県との違いですが、その特徴をどう見ますか。
北海道のJAは組合員のため営農指導、販売、購買事業にしっかり取り組んできたと自負しています。ホクレンも、その歴史をみると明確ですが、「販売・購買・営農支援を三位一体とする事業運営」の確立を目指しています。この3本の柱のどれが欠けても期待には応えられません。
JAは組合員のための組織です。ホクレンもこうした姿勢を、事業を通じて組合員に示していく必要があると思います。
(写真)本部のある「ホクレンビル」
―北海道は高い食料自給率を維持しています。日本の農業をリードする地域として期待されますが、どのような将来ビジョンを描いていますか。
日本の食料自給率37%は、文字通り危機的状況と言わざるを得ません。輸入農産物を減らすには自給率を上げる必要がありますが、それには農地や後継者を含めた担い手の確保など生産基盤をしっかりさせなければなりません。そのための農業の将来ビジョンが必要です。各JAや連合会など、JAグループを挙げて、食料に対するメッセージを発するべきだと思います。
北海道の農業は、農家の73%が専業農家であり、北海道の基幹産業は農業です。北海道の経済、地域は農業で成り立っています。これが都府県との大きな違いですが、消費者ニーズを的確につかみながら収益性の高い農業を目指し、農業を魅力ある職業にするという、ホクレンとしては当たり前のことに取り組んできました。
北海道は全国の農地の4分の1を占め、東北を合わせると全国の約半分になります。ホクレンの役割は、北海道の基幹産業である農業を維持するため、今まで以上に、生産基盤の確保に努めることだと思います。
―これからの北海道農業の課題はなんでしょうか。
ひとことで北海道農業といっても多様です。宗谷管内のように酪農専業地帯もあれば、帯広管内のような有畜畑作農業もあります。規模もさまざまです。農業だけで生活しなければならない北海道の生産者のため、その地域の特色に合った農業をしっかり守らなければなりません。
これからの北海道農業にとっての課題は人手不足と農畜産物の輸送問題です。高齢化による農業労働力不足は深刻で、機械作業のやりやすい耕種作物に切り替える生産者が出ています。また、これからも、多様な消費ニーズに対応していくことが必要です。
少子高齢化で労働力不足は避けられず、外国人労働者に頼るわけにもいかないでしょう。将来的にはスマート農業を目指すべきだと考えています。このための実証試験事業に取り組んでいます。ドローン、GPS、自動走行車両などの新技術を取り入れながら、できるだけ早いうちに実現・解決しなければならない課題だと考えています。
一方、輸送問題ですが、北海道産の農畜産物の道外輸送量は年間350万tありますが、ある企業の試算ではこれから10年間で大型トラックのドライバーが2割減るとの予想もあります。このため、UDトラックス、日本通運と共同でのトラック自動走行の実証試験も行っています。
また、新幹線の高速化にともなう青函トンネルでのJR貨物との共用については、北海道農畜産物の安定した輸送にはJR貨物は必要であり、維持されることを望んでいます。
なお船舶においては、ほくれん丸の輸送強化を今春実施しております。物流全体としては、トラック、鉄道に船舶を含めた組み合せが不可欠であると考え、引き続き、確実な輸送手段の確保に向け、取り組んでいきます。
(写真)海のミルクロード「ほくれん丸」
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