JAの活動:持続可能な社会を目指して 希望は農協運動にある
【特集:希望は農協運動にある】対談:協同組合の連携さらに(1)比嘉政浩(一社)JCA専務 加藤好一 生活クラブ生協連顧問2020年10月27日
いま、協同組合陣営に求められていることは協同組合間の、より一層の連携である。コロナ禍などで社会・経済が歴史的な転換期にある今日、次の時代を託す組織としての期待が高い。今年3月、日本農業の将来方向を示した食料・農業・農村基本計画と、そのなかで協同組合の役割について、日本協同組合連携機構(JCA)専務の比嘉政浩氏、生活クラブ生協顧問の加藤好一氏の意見交換の場を設けた。特に両氏は協同組合間の連携・提携を、より一層の強化するよう強調した。
加藤好一 生活クラブ生協連顧問・比嘉政浩(一社)JCA専務
農業は多様な形態で
計画倒れの基本計画
比嘉 政府はこの3月、食料・農業・農村基本計画を発表しました。これをどのように評価し、受け止めていますか。
加藤 基本計画が出る前の2月に、生活クラブ生協と提携している有機栽培農家などとの意見交換会を持ちましたが、その時の意見は、拙速なやり方には問題があるということでした。
基本計画は2000年に第1次が出て、今回で5回目です。第1次計画をまとめた東京大学の鈴木宣弘先生は、「問題は、どう実行するかにある」と指摘していますが、同感です。計画では農業の生産基盤の弱体化について触れています。この状態では5年後大変な状況になると予想されます。カロリーベースで45%の目標を掲げても、依然として37~38%にとどまり、計画倒れに終わっています。
どこまで実現できたか、またなぜ実現できないかを検証して、具体的な実行へ向けた国民的運動を起こさなければなりません。特に農協と生協が中軸になってやるべき課題だと思います。それを実現できるのはJCAです。そのイニシアティブを期待しながら、生協陣営も連携、共同しながらやっていく必要があります。
比嘉 今回の基本計画では産業政策と地域政策を車の両輪として掲げており、農業の持続性確保に向けた人材の育成・確保を重要課題としています。中小の家族経営を含めたすべての農業者が持てる力を発揮することが大事な時代を迎えており、これはぜひとも実現してほしい課題です。
生活クラブ生協が2月にまとめた意見書でも「現下の農業情勢は長期的安定性を担保とする議論が必要」とありますが、農業経営にとって政策の安定はとても重要です。米国には農業法という法律があり、中期的に同国の農業政策の基本を示します。日本でこの役割を果たすのが基本計画です。政策はそれに沿って一貫性をもって具体化されるべきです。
中山間の支援優先を
加藤 今回の基本計画でも明らかなように、日本農業の最大の課題の一つに中山間地域の支援策があります。これが充実しないと、日本の農業はますます厳しくなると思います。新規就農者を迎える政策も充実すべきです。この場合の新規就農とは、半農半Xなどを含めた多様なものです。
もう一つは米の問題です。今年度産米の全国作況指数は101の「平年作」で、過剰基調にある米は、コロナウイルスによる消費の落ち込みもあって、在庫が積み重なると予想されます。JAグループでは計画生産・販売を呼び掛けていますが、米政策の決め手は飼料用米にあると思います。
米は日本農業の基幹です。新しい作目に変えろといっても、高齢化が進んでいる米農家にとって簡単ではありません。水田の多面的機能を守る観点からも栽培に慣れている米が一番です。従って米の需給は、同じ米である飼料用米の生産が鍵になるでしょう。
また、今回はコロナ禍で米消費が減っています。農水省は8万トンと想定していた年間の消費量の減少を10万トンに修正しました。さらに増えるという見方もあります。コロナも問題ですが、それ以前にそうした消費の構造的な問題に目を向けるべきです。
飼料用米に関しては、食料・穀物自給率アップをという基本政策に沿って、自給飼料の根幹として位置づける必要があります。この意味で「本作」化です。いつまでも転作作目としてではなく、もっと積極的に体系づけて位置付けるべきです。
今こそ魅力ある農業に
比嘉 中山間地域への配慮、新規就農者への支援が重要というのは同感です。そして大事なことは消費者、国民の現状に対する正しい理解を得ることです。かつて日本農業は過剰就労・過剰就農が問題でした。機械化が進んでも人が多すぎて労働生産性が上がらないため、離農を勧める政策でした。しかし今は真反対になり、農業従事者の不足が深刻になっています。
担い手を確保するには、農業を魅力ある職業にして、新規就農のためのパイプも太くしなければなりません。西欧先進諸国でもそうした転換期がありました。今回の基本計画には、担い手の育成・確保、多様な人材や主体の活躍とともに、半農半Xも位置付けられています。
今こそ、農業をやりたい人は、家族農業も含めて、すべての人がその能力を目いっぱい発揮していただく必要があるのです。小規模の兼業や副業、半農半X、新規就農などを担い手とする考えが出てきました。政策がガラッと変わるべき時が来たのです。そのことをきちんと理解して、農業を魅力ある職業にするように努力すべきです。
加藤 そうだとすると、競争力強化を求めた安倍政権「攻めの農業」は一体、何だったのでしょうか。中山間地域の農業は、その多くは家族農業で支えられています。これは地域政策ですが、「攻めの農業」は産業政策です。政策の重点はどこに置かれるべきでしょうか。
今回の計画では農林水産物の輸出拡大が目玉政策の一つになっています。輸出は悪いことではありませんが、そこに農業政策の基本を置くことには違和感があります。
比嘉 輸出政策は必要ですが、それが中心であるとするには違和感があります。
また、農業者の所得アップに関しては、例えば高級果実が1個5000円で売られていたとします。政府の言う付加価値をつけた「攻めの農業」です。それはそれで頑張っていただく必要がありますが、穀物はもうからないから作らなくてもいいというわけにはいきません。産業政策の視点だけではだめで、国民の食料を考えるとカロリー自給率の引き上げが必要です。
アジアモンスーン気候では、米の栽培が最も適しています。農業者は農業が職業です。それを続けるには政策の安定が第一です。国の助成措置があるにも関わらず、飼料用米の生産が期待通り増えないのは、いつ、はしごを外されるか分からないという生産者の不安も一因ではないかと思います。
飼料米は法制化を
加藤 飼料用米の法制化が必要だということですね。主食用米との価格差がある中で、飼料用米の生産を続けるには、将来にわたって政策が安定していなければなりません。これには国民の理解も必要です。しかし今回のコロナ禍対策で、国の財政状態は一層厳しくなっています。米粉にも力を入れ、基本計画では大豆、小麦の増産も課題だとしていますが、それらを含め、総合的かつ長期的に対策する必要があると思います。
比嘉 そうですね、一般に雨の多い日本では麦の栽培が難しいですね。それぞれの地域の条件に応じて品目を選ぶ必要があります。
※2「JCAの役割に期待」に続く
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