JAの活動:【第29回JA全国大会特集】コロナ禍を乗り越えて築こう人にやさしい協同社会
【JAの挑戦】産地ブランド確立で所得向上を JA山形おきたま ブドウ「デラウェア」「統一共選」農家自ら基準づくり【第29回JA全国大会特集】2021年11月4日
全国的に知られる農産物の産地は、品質・規格に裏付けられた「ブランド」力がある。その力は、短期間でつくられるものではなく、生産者の諦めない意思とJAの粘り強い指導が欠かせない。JAグループは、この数年の自己改革で「農業者の所得向上」「農業生産の拡大」に取り組んできた。今回のJA全国大会でも引き続き、取り組むべき目標として確認されたが、そのポイントはブランド産地づくりにある。ブロッコリーの「発泡氷詰め」で品質を向上させたJA鳥取中央と、ブドウの「デラウェア」を「統一共選」で品質・規格を統一したJA山形おきたまのブランド産地づくりの取り組みを見る。
真剣に、統一共選による目ぞろえ会
JA山形おきたまは、ブドウの「デラウェア」で全国トップの産地。合併のメリットを発揮するため、「統一共選」に挑戦。旧JAごとにあった「地元意識」を克服して、選果だけでなく、栽培方法・品質の統一を進めて高単価を実現。「おきたま農産物」のブランドを確実なものにしている。
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山形県南部に広がる置賜盆地。奥羽山脈や吾妻連峰など、四方を山に囲まれた平地がひろがり、稲作を中心に果樹栽培が盛んな農業地帯だ。山形市から国道13号(羽州街道)を米沢方面に向かい、上山市を過ぎて置賜平野に入る鳥上坂からみる景観は圧倒的だ。一面にブドウ畑が広がる。
置賜地方で「デラウェア」の栽培が始まったのは明治時代。1960年代から80年代には最盛期を迎え、リンゴや西洋梨の栽培も始まって果樹の一大産地になった。1994年の同JAの合併当時、農畜産物の販売高は、主力の米穀を含めて311億円に達し、全国のJAでもトップクラスになった。
しかし、その後、高齢化による生産者の減少、世代間格差による生産組織の弱体化などで、販売高が伸び悩んだ。合併時に比べ、生産部会の会員数は24%減少。これに伴ってJAの販売事業が全体で36%、 園芸事業も20%減少した。現在、同JAの販売高は200億円で、ピーク時に比べ、約100億円の減少になっている。特に「デラウェア」の栽培面積で毎年10ha、販売額で5000万~6000万円のペースで減少した。
危機感持ち園芸を再建
もともと置賜地方は良質な米の産地で、果樹は水田のない傾斜地などで栽培されているところが多い。このため、生産者の高齢化に伴って園地の維持が難しくなった。加えて同地方は豪雪地帯で、ハウス栽培には除雪作業が必要で、高齢者にはこの負担が大きく、栽培をやめる生産者が増えた。
こうした生産者が各地区の共選単位ごとにあった部会を脱退することで組織が弱体化し、生産量の減少に加え品質格差も拡大。その結果、販売価格の伸び悩みに直面し、それに危機感を抱いたJAは、2015(平成27)年、園芸事業改革プロジェクトを立ち上げ、再建に乗り出した。
統一共選の核となった広域集出荷施設
地域意識の解消を優先
改革の第1は、統一した出荷基準にもとづいた「おきたま統一共選」の実施だ。それまでJA管内には、旧JA単位に選果場があり、互いにライバル関係になっているだけでなく、独自の出荷基準を設けるなどばらばらの状態だった。特にブドウは、リンゴや桃などのように機械で自動的に選別する玉選果でなく、箱詰めされたブドウを選果ライン上で検査員が格付けを行う体制となっており、検査員による基準の違いがあった。
「おきたま統一共選」の効果を発揮するには、この基準を統一する必要があり、生産組織の役員に対し研修会を重ねた。現場で指導に当たりプロジェクトをリードした同JA園芸販売課の柴田啓人士課長補佐は「JA主導の出荷基準を作るのではなく、将来を見据え、生産者自身がつくりあげた基準が重要なのだと、繰り返し説明した」という。生産者の自主的な取り組みを尊重したのだ。
出荷基準の統一の効果をあげるには、当然ながら栽培技術の統一が前提になる。営農指導の役割を明確にするとともに、より専門的な営農指導員を配置。情報収集や技術指導、集荷対策を進めた。特に出向く営農指導体制を強化した。
また、統一共選の効果をあげるため、選果施設の再編を行った。利用率が低く、老朽化が進んだ施設は廃止し、19あった施設を2018(平成30)年度、16に減らした。特に選果場は、2016年広域出荷施設を新設することで、5カ所あったものを3カ所に集約した。
2年間かけ意識を統一
各選果場には、それぞれ長い歴史があって、独自の取引先を持ち、その地域独自のブランドがあった。生産者の強い抵抗もあったが、2年間にわたって100回以上の説明会を開いて合意を得た。併せて取引市場も集約。それまで重点・指定市場が、果樹・野菜、花きを合わせて46社あったものを15社減らし、31社に絞った。
置賜盆地に広がるブドウの施設栽培
担い手率先高齢者説得
反対意見が多く出された地域で選果場集約を進めることができたきっかけはある若い生産者の意見だった。説明会で、高齢の生産者の反対意見に対して、「現状のままでは、生産者が高齢化して生産量が減り、利用料が上がって生産を維持できなくなる。集約を受け入れたい」と発言した。「この若手生産者の反対意見が後押しとなって、高齢の生産者も納得。園芸事業改革のプロジェクトが大きく前進した」と柴田課長補佐は言う。
統一共選は2018(平成30)年からの取り組みだが、「デラウェア」は1年前倒しで実施した。その成果をJAの選果施設の利用事業で見ると、2020年で、2015年に比べ80%近い収益増になっている。「デラウェア」の単価も統一共選前の、1kg平均580円から20年650円、現在830円にアップした。この成果をもとに、いま野菜を対象とした園芸事業改革プロジェクトに取り組んでいる。
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