JAの活動:2025国際協同組合年 持続可能な社会を目指して 協同組合が地球を救う「どうする?この国の進路」
【JAトップ提言2025】都市農業継続の役割大 JA東京スマイル組合長 眞利子伊知郎氏2025年1月20日
第30回JA全国大会は「組合員・地域とともに食と農を支える協同の力~協同活動と総合事業の好循環」を決議した。2025年度はその実践の初年度となる。いうまでもなく地域によって課題は異なる。そのなかでどう戦略を打ち出すべきか、JA東京スマイル組合長の眞利子伊知郎氏に提言してもらった。
JA東京スマイル組合長 眞利子伊知郎氏
私は昭和34年(1959年)に東京都江戸川区に生まれた。東京オリンピックに向けて、日本が活気だっていた時だ。小さい頃の記憶では、東京といえども畑や田んぼが点在する穏やかな農村風景だった。しかし東京オリンピックを契機とする経済発展により、人口の流入が爆発的に起こり、インフラ整備もままならぬまま、生活排水が用水路に入り込み、水田が姿を消していった。昭和31年の経済白書で、『もはや戦後ではない』と書かれた通り日本は、その後も発展をとげ世界第2位の経済大国になっていったのは承知の通りだ。
東京の農業・農地もその中に組み込まれていく。昭和43年に制定された都市計画法で東京の農地の多くは市街化区域に編入され、宅地化すべきものとなり、固定資産税の負担が増えていった。このころから、宅地並み課税に対する農政運動も始まったように思う。農地は資産であるとの観点から、相続税も高額化していった。昭和57年に長期営農継続農地制度が施行され、20年間の営農を条件に相続税の支払いが免除される仕組みを利用しながら、東京の農業・農地は残されたのだ。しかし、バブル経済期には、"東京に農地はいらない"などの激しい農業バッシングが起きたが、粘り強い農政運動の結果、平成4年に生産緑地法が制定された。農地は都市計画の中におかれ、30年間の営農を条件に、固定資産税の軽減が図られた。また、生産緑地を相続する場合は、終生営農の条件が付けられたのである。
しかし、バブル景気が終わると風向きが変わってきた。特に阪神淡路大震災の後は、都市部に残る貴重な防災空間として農地が評価され始めた。現在では、自治体と災害協定を結び、緊急時の一時避難場所として活用できるようになり、食料の調達の場ともなった。都市農業の多面的機能は、徐々に浸透し、平成27年には都市農業振興基本法が制定され、都市農地は都市にあるべきものとなったのだ。現在は、生産緑地指定から30年を経過した生産緑地の大部分が特定生産緑地の指定を受けている。そして、都市農地貸借円滑化法により、新規参入の担い手も増えてきている。
しかし、いくら条件が整うとも、相続税がある限り、都市農地は税の支払いのために売却される。東京の農地は、平成25年からの10年間で、1200ha減少し6190haとなった。計算上では、50年後には東京に農地がなくなる。宅地化農地が大きく減少していることもあるが、生産緑地も相続時に一般宅地として評価されるため、支払いのための売却により毎年約50haが減少している。今からでも遅くはない。農地を残すための取り組みを行わなければならない。
まずは、JA 東京中央会も国や都に要望していることでもあるが、農地所有者である農家の後継者への就農・営農支援、都や自治体による農地の買い取りへの財政支援、そして、相続税を収めるために売却せざるを得ない農地を物納し農地を公有化できる新たな物納制度の創設などが考えられる。
次に、生産緑地になる条件は付くが、現在東京都が行っている助成を活用して、宅地を農地化することだ。
また、農の風景育成地区を市区町村にも制定させ、地区内の農業の継続が困難な場合に市街化農地を自治体が取得し、農業公園として整備をするなどの対策があげられる。
さらにいえば、近年空き家が増えていることもあり、農地のない自治体が、空き家を買い取り、公園ではなく市民農園を開設するなどが考えられる。管理は自治体負担となるが、利用料を取れば公園を管理するよりも自治体の負担は低減されるし、公園よりも小さな面積でも利用可能だ。地域住民の要望が必要となるが、取り組むべき価値はある。
これらの対策をなしてゆけば、東京の農業・農地の減少は緩やかになるはずだ。
さて、私たちJAの取り組みはどうするかであるが、何よりも私たち役職員が、農業・農地そしてJA について理解を深めることが重要だ。そして、農業や農地の重要性を発信すべきだ。JA は地域を基盤とし、地域とともに歩んでゆかなければならない。農業がその地域を作り上げた産業だったからである。農業の重要性を発信するためには、農業講座や貸農園の開設などを通し、農業の応援団を広げる取り組みを行うことは、それの第一歩であろう。そして、農業の正確な情報を消費者に伝えられる機会を多く持てる都市部のJAが果たすべき役割は大きい。
最後に、これからの日本そして都市において、農業が輝く存在になるようJAとして最大限の努力を重ねてゆく決意だ。
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