【クローズアップ・消費増税10%】国民を貧困化させる税 アベ・ショックが日本を襲う【三橋貴明・経世論研究所所長】2019年9月27日
10月1日から消費税が10%に引き上げられる。消費の冷え込みが懸念され農業経営とJAの事業にとっても影響は少なくない。しかし、そもそも消費税とはどんな税金なのか。その負担によって私たちの暮らしに還元され、将来世代にも豊かさがもたらされるものなのか。引き上げを前に三橋貴明・経世論研究所所長に聞いた。
◆消費に対する罰金
--そもそも消費税をどう考えますか。
消費税の政策的な意味は、実は消費に対する罰金です。炭素税は二酸化炭素排出企業に対する罰金であり、タバコ税はタバコを吸うことに対する罰金。特定の行動をさせないための罰金としての税ですから、消費税は消費を減らすことが政策目的になります。実際、消費増税で実質消費の量が確実に減ります。たとえば、2014年4月の8%への消費増税のときには年間で8兆円分の消費が実質で減りました。
重要なことは農業も含めすべての産業において、生産と消費と所得がイコールになるという大原則があることです。つまり、消費が8兆円減った2014年度は、その分が生産されていないということになる。ということはその分の所得を失った人たちがいるということです。実際、実質賃金が大幅に下落しました。単年度では、何とリーマンショック時を超えました。
今回は食料品などは8%に据え置かれますが、国民経済はつながっているため、食料品や新聞は引き上げられずに済んだと安心している人もダメージは受ける。なぜなら、10%に引き上げられた他の製品を生産している人たちの所得が減ってしまうためです。間違いなく日本国民の貧困化が進んでしまう。
◆直間比率是正はウソ
--消費税導入前、日本は直接税と間接税の割合を見直す「直間比率の是正」が必要だ、と叫ばれていた記憶があります。
それは消費税の本当の意味を教えないためのレトリックです。80年代から直間比率の是正と言い始めたのは、高所得者や企業の利益に対する税率が高いというのが本音です。高所得者に対する累進税率は緩和し、企業に対する法人税の引き下げもやる。その代替財源が必要というわけで、「広く薄く徴収する」消費税が始まった。つまり、消費税とは、お金持ちや、企業の利益から配当金を受け取る投資家への、国民からの所得移転なんです。
実際、消費増税のタイミングで必ず法人税が減税されてきました。法人税の減税については経産省が所管しており、財務省とバーターで決める。法人税を下げないと企業が日本から出て行くと言いますが、実際には出ていきません。ただ、そういうレトリックに基づき財務省も法人税を下げる。替わりに消費税を上げるよ、ということです。
◆経産と財務の思惑
今回は、面白い経産省と財務省の取引がありました。それはキャッシュレス決済に対するポイント還元制度です。
簡単に言えば中小の小売店でキャッシュレス対応し、登録した店は、キャッシュレスで買うと5%還元されるというもので、これは事実上の消費税減税ですね。食料品だと据え置き税率の8%から5%を引きますから税率3%です。
但し、これはクレジットカードなどキャッシュレス決済が使える人限定です。細かいことをいえばコンビニは2%しか還元がないとか、大手量販店は対象外などとなっていますが、要はこのポイント還元制度は、経産省の官僚がクレジットカードや電子マネー会社の経営者から、日本のキャッシュレス化は遅れていると言われ、何とか広めたいというわけで、消費増税のショックを利用して入れてしまえ、ということなのです。
ポイント還元は来年の6月末で終了しますが、財務省からすれば、永続的な減税はだめだが悲願の消費増税が達成できるならば、9か月ぐらいならまあいいですよ、という取引でした。
また、法人税引き下げのお題目として、法人税を下げて投資してもらい、人件費や投資を増やすといいますが、それならば話は逆です。法人税とは利益に対する罰金なので、本当に投資や人件費を増やしたいのならば法人税増税で、企業が利益を減らすインセンティブを高めた方が良い。しかし、実際は投資や人件費を増やすためではなく、単に企業の純利益を増やして配当金を配りたいのです。というわけで、今の日本では消費税によってわれわれから薄く広く取って、それを株主に移転するという構造になっているのです。
それからみな気がついていませんが、正規社員を派遣社員に替えると人件費を売上げ原価に切り替えられますから、消費税が安くなる。そういう構造になっていますので、消費増税は派遣ビジネスの拡大ともバーターだったのでしょう。つまり、特定の業界や大企業などのための政治が続いているのです。
本来、それに対抗すべきは、農協をはじめとする協同組合系だと思いますが、軽減税率の要望など見当違いのことをしていませんか、と言いたいです。消費税は赤字企業も支払わなければならない「法人税」です。最悪の税金であり、私は廃止以外に選択はないと思っています。
◆反緊縮で政策抜本転換
--増える社会保障費のために消費税は必要だと言われます。
実際には消費税は社会保障のために使われず、国債の償還に回っています。要は借金返済ですが、借金返済は誰の所得も増やしません。
一方、社会保障についてはお金の問題ではないことを理解しなければなりません。問題は年金受給者が病院で医療を受ける、あるいは買い物に行ったときに、その人たちが必要とする十分な供給ができるのか、ということです。少子高齢化で生産者の割合が少なくなっていき、需要に対して供給能力が足りなくなることもある。対処法は働き手一人ひとりの生産性を高めることしかない。つまり、社会保障の問題は実は生産性の問題なのです。
しかし、みんなお金の問題だと勘違いしていて、しかも政府はお金を発行できないと思っています。だから消費税やむなしとなりますが、そんなことはなく、政府はお金を発行できます。というか、発行しています。政府に財政的な制約はないということを理解しないと、日本の問題は解決できない。幸いなことにアメリカからMMT理論(現代貨幣理論)が入ってきたため、だんだん理解が広まりつつある。緊縮財政から決別する政策に転換すれば、社会保障も、それから農業生産の維持と食料安保などの問題も、初めて解決に向かうと思います。
農業がこのまま衰退の道を進んでいき生産力が下がってくと、年金が払われても何も買えない世界に突入してしまう。それが本当の社会保障の崩壊です。
私は今回「アベ・ショック」が起きるとみています。何しろ消費増税だけでなく、五輪不況と重なり、外需の縮小も始まっている。来年の日本経済は、とんでもない経済的ショックを受ける可能性が高い。そういうときに政治が動く。歴史を振り返ればバブル崩壊後の細川内閣成立、アジア通貨危機後の橋本内閣の崩壊、リーマンショック後の鳩山内閣成立などです。経済的ショックがまた来るのです。そのときにまっとうな反緊縮の政策に転換できるのか。そこに全てがかかっていると思っています。
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