「五波五輪」政局の行方 祭典直後の支持率が今後を左右 農政ジャーナリスト 伊本克宜【検証:菅政権22】2021年8月6日
「五波五輪」とも称されるコロナ猛威下の東京大会は、菅政権の行方とも連動する〈節目〉となる8月8日を前後し重要な動きが続く。コロナ、五輪、内閣支持率の〈3点セット〉が今後の政局に影響を及ぼす。
写真:首相官邸HPより
選挙の足音と農政論議
今秋の解散・総選挙への足音が一段と高まってきた。予算編成は、与党にとって内外に政治力を示す機会だ。コロナ禍で農政課題も浮上している。農政と政治と選挙は表裏一体で動く。
4日、自民党は農林関係合同会議を開き、政府・与党の2022年度農林関係予算の概算要求論議も本格化した。同日、自民党は課題となっている米先物市場で農水省に「慎重に対応するよう」に申し入れた。先物市場はある程度のリスクヘッジになる半面、主食が投機の対象となりかねず、農業団体では慎重論が根強い。これを受けた動きだ。
農業者の間では、出来秋以降のコメ需給の先行きに懸念が高まっている。そのため、主食用米から飼料用への用途変更などが進んだ。一方で作付け転換進展に伴う予算不足懸念の声も出ている。7月末の自民党基本政策検討委では、重鎮の森山裕国対委員長から「自民党農政は、農家に約束したことはどんなことがあっても守り抜く強い決意でやってきた」と、農業者の不安解消への対応を政府に迫った。選挙が近づく中での、改めて生産現場重視を示す自民農林議員の決意の表われでもある。
感染2億人、日本100万人の衝撃
一方で、変異株でコロナ感染が広がる。
こんな中で、日本時間の5日早朝、衝撃的なニュースが世界を巡った。世界の感染者数がついに2億人を超えたのだ。半年で1億人増えた計算だ。それだけ感染力は加速している。五輪とコロナ拡大の関連は分からないが、週末には日本国内の感染者数は100万人の大台を突破する見通しだ。
首都圏を中心に感染拡大はスピードを増す。政府は5日、重点措置の対象地域に8県を追加した。その一つ、福島は五輪で女子ソフトボール競技の会場ともなり、関係者の移動もあった地域だ。感染者数が増えれば、菅内閣支持率が下がるという傾向は強まる。世論は、後手に回る菅政権の指導力に不信感を強めている。
政権「緊急事態」招く医療危機
今週、政権の指導力を問う案件がまた問題となった。感染急増に対応し、新たにコロナ患者の「入院制限」を打ち出したが、修正を迫られた。
首都圏などでの医療崩壊を防ぐための対応だが、コロナ患者は病状が急変しかねず自宅療養への不安が一挙に広がった。国民の命を守る対応が軽んじられたとも受け取られた。コロナ禍で「出口」の見えない緊急事態宣言は、医療危機を伴い政府そのものの足元を揺さぶる「政権緊急事態」と連動しかねない事態だ。
解散と絡む総裁選日程
自民党は3日、解散・総選挙日程と密接に絡む総裁選に向けた選挙管理委員会の初会合を開いた。今月26日に次回会合を開き、告示日などを固める方針だ。
自民総裁任期は9月30日で、今のところ9月上中旬告示、下旬に投開票との日程が想定されている。だが、総裁選日程そのものが今後の政局を握る深謀遠慮の政治的な思惑の中で決まることは間違いない。大きく影響するのは、冒頭に掲げたコロナ、五輪、内閣支持率の行方だ。首相が告示日前に解散に踏み切れば、総裁選は先送りとなる。
首相周辺は、五輪で日本人選手の金メダルラッシュなど好成績を受け、ワクチン接種を加速しながら、9月5日のパラリンピック閉会後に臨時国会を開き解散し10月投開票とのシナリオを探る。取りざたされている投開票日は10月の3、10、17日の日曜日だが、10月3日は「仏滅」で一般的には避ける。
だが、コロナ禍で五輪が盛り上がらず、感染拡大も収まらなければ話は一変する。そもそも〈選挙の顔〉に菅がふさわしいのかとの党内世論が高まりかねない。
「節目」の8月8日
そこで一つの〈節目〉となるのが五輪閉会日の8月8日だ。その時の一般世論、世間の五輪への受け止めがどうか。五輪後の会見では、コロナ感染拡大と政局絡みの厳しい質問が相次ぐ可能性もある。
8日を前後してメディア各社は最新の世論調査を公表する。内閣支持率は過去最低を更新中だ。一般に内閣支持率が30%ライン割れなら政権の先行きに〈黄信号〉が灯る。これに政党支持率の動向が合わさる。内閣支持率がさらに下がり、合わせて自民党支持率が下落、次期衆院選での比例投票先でも自民の割合が下がれば、まさに政権にとって「緊急事態」に直結しかねない。万が一、感染拡大に歯止めがかからず8月24日開催のパラリンピック中止となれば、むろん菅政権の政治責任は免れない。
8月8日は、菅のお膝元、日本最大の都市・横浜の市長選の告示日だ。投開票は22日とパラリンピックや総裁選日程を詰める微妙な時期とも重なる。菅の政治力、指導力も問われる。
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