【米国農政・2024 大統領選の行方】"もしトラ"ならコメが狙われる? 明海大学准教授・宮﨑礼二氏2024年6月14日
世界的な異常気象や紛争で食料問題、ひいては農業から目が離せない。今回は米国経済に詳しい明海大学経済学部准教授の宮﨑礼二氏に米国農政について2回に分けて寄稿してもらった。1回目は大統領選をテーマにした。
米国における2024年最大のイベントは、11月の大統領選挙である。現職で二期目を目指すバイデン大統領が民主党の候補者指名を獲得、対する共和党はトランプ前大統領を指名した。二大政党制の米国だが、民主党・共和党以外の無所属やその他諸党からの立候補もある。今回の大統領選挙では、無所属で弁護士のロバート・ケネディ・ジュニア氏の立候補が耳目を集めている。ケネディ姓が示すように、ケネディ元大統領の甥で、ロバート・ケネディ元司法長官の息子という、「華麗なる一族」出身である。
米NBCによる4月時点での支持率調査では、僅差でバイデン氏がトランプ氏に対して優勢である。ケネディ氏の勝利はほぼ可能性ゼロだが、接戦となる大統領選挙では、バイデン氏とトランプ氏の支持票がケネディ氏にどれだけ流れるのかが勝敗を分ける要因になる。
バイデン氏勝利の場合、次の4年間の米国の政策の方向性はほぼ既定路線を辿るであろう。トランプ氏が返り咲く場合には、現行政策からの転換の振れ幅が大きくなると予想される。内政面だけでなく、とりわけ貿易や軍事安全保障といった対外政策において、一貫性や体系性に欠けるトランプ氏の政策の予見可能性は低くなる。
ワシントンポスト紙は、日本で「もしもトランプが再び大統領になったら」を略した「もしトラ」("if Trump")という言葉が流行っているとの紹介記事を掲載した。記事は「トランプ氏の型破りな姿勢に、日本の指導者や官僚たちは第二次トランプ政権が何をもたらすのか懸念している」と解説している。
初の現職大統領として北朝鮮の軍事境界線を越えて入朝、地球温暖化対策の国際的な枠組みの「パリ協定」から離脱、日本の防衛費倍増と駐留米軍経費の大幅増額の要求、日本などを対象に鉄鋼・アルミ製品の輸入制限措置を発動など、矢継ぎ早に予想外の行動がとられたことが背景にある。
【画像】明海大学経済学部准教授 宮﨑礼二氏
とりわけ、環太平洋連携協定(TPP)に前のめりであった日本政府にとって、トランプ大統領就任後、公約通り直ちにTPP離脱の大統領令に署名したことは衝撃であった。「米国第一主義」を掲げたトランプ前政権の対外政策は、多国間枠組みでの貿易協定を否定し、相手国と個別に協議する二国間主義へと大きく傾斜した。多国間ではなく二国間を重視する理由としてわかりやすい事例がコメである。
一般的に、米国の農業団体はTPP推進勢力だと考えられていたが、コメに関してはそうではなかった。米国からコメの輸入自由化を強固に求められてきた日本にとっては、意外なことかもしれない。USAライス連合会会長は、「コメを除く、すべての農業団体はTPPを支持しているが、我われは支持の立場をとったことはない。率直にいうと、南部(アーカンソー州やルイジアナ州)の長粒米にもたらす影響を懸念しているからだ」と述べている。
米国のコメ(長粒米)の最大の輸出先はメキシコであり、北米自由貿易協定(NAFTA)によって米国からメキシコへのコメに対する関税率はゼロである。その一方、コメ輸出大国ベトナムに対するメキシコの関税は20%であるため、ベトナム産のコメはメキシコ市場では競争力がない。だが、TPPが発効すれば、TPP加盟国同士のベトナムとメキシコとの間でコメ関税がなくなり、ベトナムよりも生産コストの高い米国産の長粒米はメキシコ市場から締め出されてしまう。
その一方、TPPを歓迎するコメ生産者も米国にはいる。それは、日本市場への参入を狙ってきた中粒米を生産するカリフォルニア州の生産者であり、TPPで日本市場への全面的な参入を実現しようとしているからだ。
日本を獲得するにはメキシコを犠牲にしなければならないのである。また、南部の長粒米生産地は共和党=トランプ氏の強力な支持州であり、コメ生産者の支持を失うことは避けなければならない。メキシコと日本の両市場を獲得し、かつ政治的支持を維持する方法は、TPP離脱によってメキシコのコメ市場へのベトナム参入阻止と、同時に日米二国間協議で日本のコメ市場の開放を要求することであった。
「もしトラ」から当選確度の高い「ほぼトラ」「確トラ」になれば、各国は二国間協議での強引かつ威圧的なトランプ流交渉術に身構えることになるだろう。
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