【ドイツ農業最前線】エコロジー転換を求めるドイツ農業 九州大学名誉教授 村田武氏(下)2026年1月26日
ドイツではメルケル政権下で中小農業経営も含め農業構造は多様性があるべきとする『ドイツ農業の将来』を専門家が政府に答申した。しかし、ドイツ農業者同盟(DBV)が毎年刊行している『農業状況報告』の「2025・26年版」では大きな問題を抱えていることが示されている。九州大学名誉教授の村田武氏に解説してもらった。

農場数が25・5万経営に減少
ドイツでは低迷する農産物価格のなかで2014年に28・7万経営にまで減少していた農場は、さらに中小農業経営の離農が進み、2024年には25・5万経営に減少した。離農の中心は主として家族経営が担う酪農経営部門で酪農経営数は2000年の13・9万経営から、14年には9万経営、25年には4・1万経営と、この10年間だけでも半減している。
この25・5万経営のなかには、農地規模5ha未満の畜産専門経営や園芸農場2・1万経営が含まれるので、5ha以上の耕種ないし畜産複合経営は23・4万経営にすぎない。
経営規模5~50ha農場は15・3万経営(5ha以上農場の65・4%)で経営農地面積は298万ha(5ha以上層の総経営農地面積1653万haの18・0%)、50~100ha農場は4・2万経営(同17・9%)で経営農地面積は299万ha(同18・0%)、100ha以上農場は3・9万経営(同15・3%)で経営農地面積は1057万ha(同63・9%)を占める。
このうち100~500ha層(3・5万経営・637万ha)が旧西ドイツ地域の中核的な農場である。500ha以上層の4千経営・経営農地面積420万haの大半は旧東ドイツの農場で、かつての社会主義集団農場の多くが、東西ドイツ統一後も大型の企業経営ないし協同組合農場として存続していることによる。
この間の経営増減分岐点は100haになり、平均経営規模は65haになっている。ドイツの農業経営構造はフランスのそれに比較して中小規模農場の層が厚いとされてきた。フランス政府統計「フラフアグリ2025年版」によれば、2023年におけるフランスの総農場数は34・9万経営、農場平均規模は76haとある。東西ドイツ統合後のドイツの農業経営構造がフランスのそれに大きく接近しているとみてよかろう。
農業生産は維持ないし拡大
農地面積は2014年の1672万haから24年には1657万haに、15万ha、0・9%減少している。その大半は農外への転用によるものである。わが国の農家の減少が耕作放棄面積の拡大を含む農地面積の減少につながっている状況とはまったく異なっている。経営農地面積の維持を支えているのは、農業保護の中心が経営農地面積当たりのEUの直接支払いであることにある。EUの直接支払いは、経営農地面積全てに支払われる「基本奨励金」が1ha当たり147ユーロ、40ha分に追加される「環境奨励金」が同68ユーロ、その40haを超える20ha分に追加される「環境奨励金」が同36ユーロである。別途「若年農業者助成金」も120haまで同134ユーロの支給がある。
穀物生産(2025年)では、小麦が296万haで2333万トン(10アール当たり収量789kg)、ライ麦が54・1haで305万トン(同565kg)、大麦が152万haで1138万トン(同746kg)である。穀物栽培面積も生産量も維持している。それもあって2024年の穀物輸出量は908万トンで輸入量882万トンを上回っている。
畜産のうち食肉生産は2015年以来、一貫して減少(17%)している。2025年では豚肉生産量が413万トン、牛肉が97・4万トン、鶏肉が175万トン、羊・ヤギ肉が2・6万トンである。ドイツの食肉生産の減少は、「動物性食品から植物性食品へ」という食生活改善運動もあって国内消費量が減少傾向にあり、価格も低迷傾向にあることによる。それでも食肉生産の中心をなす豚肉の生産量413万トンのうち231万トンは輸出、輸入が91・3万トンで、自給率は141%に達する。牛肉の輸出量(2024年)は52・9万トン、輸入量が53・4万トンで拮抗している。
牛乳についても、酪農経営数の大幅減少にもかかわらず、乳牛頭数は2014年の67・3万頭から62・1万頭と7・7%の減少に留まっている。乳製品も輸出超過で、チーズは輸出量が108万トン、輸入量が74・5万トンである。
ドイツ農業のエコロジー転換を求める
メルケル政権が気候変動対策を農業にも求め、農業のエコロジー転換の方向を提示することを求めて2020年7月に閣議決定したのが「農業将来委員会」の設置であった。翌2021年6月に同委員会で採択された答申『ドイツ農業の将来』からすると、『農業状況報告』で明らかにされたドイツ農業の現況は大きな問題を抱えていることになる。
『ドイツ農業の将来』が指摘するポイントは以下にある。
第1に、農業経営構造が中小農業経営を排除し、「農業の工業化」を担う大型経営に特化していく現状は問題である。『ドイツ農業の将来』が提示するのは、「農場数の安定とその増加が望ましく、農業構造は多様性であるべきだ。そうあってこそ、農業は環境、自然、動物の保護に貢献することができる。生物多様性や農業景観の構造的多様性は確保できる」ということである。
第2に、拡大しすぎた農地面積はアグロフォレストリー、泥炭地域の再湿地化への転換などで減らすべきである。化学肥料・農薬に依存した農業のエコロジー転換が求められる。畜産は高い動物福祉水準で飼育されるべきで、畜産経営が地域的に集中し「畜産地帯」が成立しているのは問題であり、畜産を農村地域全体に分散させ、総じて畜産の縮小を図ることが望ましい。
第3に、グローバル化にともなって食品加工・流通が大手企業に握られている。その結果、地域のパン屋や食肉店など中小食品加工業者・食料品店、さらにレストランも廃業が相次ぐなかで地域経済社会の活力が失われるようになっている。地域経済社会を再び活力のあるものにするには、農業・食料システムの多くが地域的循環のなかで機能すること、農産物はなるべく地域内で加工されること、その輸送エリアはできるだけ狭いことが求められる。
「農業将来委員会」の答申『ドイツ農業の将来』は、溝手芳計・村田武編著『農業は農民家族経営が担う―日本の実践とビア・カンペシーナ運動』(筑波書房)、2024年刊に要約紹介している。
『ドイツ農業の将来』を反故にさせない
メルケル首相への答申『ドイツ農業の将来』が採択された直後のドイツ連邦議会選挙(総選挙)で第1党となった社会民主党(SPD)が中心になって成立した3党(SPD・緑の党・自由民主党(FDP))連立政権も、2025年総選挙で成立したキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党の大連立政権も、農政を『ドイツ農業の将来』に沿う方向に大きく転換させることにそれほど積極的ではない。加えて3党連立シュルツ政権が2024年度予算案で「農業生産者向けのディーゼル燃料補助金の打ち切り」、すなわち農業保護の削減をめざしたこともあって、『ドイツ農業の将来』が提示した方向での農政議論はとん挫することになった。
こうした事態に対して、中小農業経営の利益を代表し、国際農民運動団体ビア・カンペシーナに加盟する「農民が主体の農業のための行動連盟」(AbL)を中心、「農業政策の抜本的な転換を―より農民主体、公正、エコロジーに!」という連邦政府宛ての10万人請願署名運動を展開したことも記憶に新しい。
ちなみに、『農業状況報告』は、農産物が「地域産品」「故郷発」といった表示、品質表示で示す「地域」(Region)には、半径10kmから50km圏内の地域から、州さらにドイツ全土までさまざまであるとする。しかし2025年11月の消費者アンケート結果で、「地域産品」であることが望ましいとされたのは、鶏卵83%、生鮮果実野菜83%、パン80%、食肉・ソーセージ71%、牛乳・乳製品64%、飲み物42%、魚・魚肉製品32%、瓶・缶詰野菜果実21%であった。「消費者にとっては食品の食味や品質、鮮度とともに、「地産」が地域経済を支えることにつながると理解しているとみられる」としている。農業のオーガニック化をめざす農業者の運動は、消費者市民の支持を期待できるということであろう。
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